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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
幼年・少年期編
32/38

#32 空き巣とエルフの歓迎会

エルフたちが次郎吉の歓迎会を開くことになったので、みんなそれぞれが準備に動き出す。結果として次郎吉はプラムの案内でプラムが暮らしていた家に向かうと異変を検知する。


「プラム。待て」


「はい。どうかしましたか? 旦那様」


「泥棒に入られている」


次郎吉はまだ家の中に入っていない。しかし次郎吉の泥棒としての嗅覚がこの家は留守の間に泥棒に入られていると告げたのだ。そして次郎吉は最初に森に入って、プラムが声を発したときに聞こえた後ずさる音を思い出す。


「そんな……いったい誰が」


「それはわからんが歓迎会が開かれるなら犯人は分かるから安心しろ。何せエルフの人たちは悪い空気を放っていないからな」


次郎吉の鼻がエルフは人間より遥かに優れた善人集団だと告げていた。そんな中に泥棒が紛れ込んでいたら嫌でも次郎吉は察知する。次郎吉の言葉にプラムが頷くと次郎吉の指示で家のドアを開ける。しかしそこには荒らされた痕跡はない。


「あ……よかった。無事だった」


プラムがそういうとそこには一枚の絵が飾られていた。


「それがプラムの恋人さんか?」


「はい」


「大切なら家に持ち帰ってもいいぞ」


「いいえ。この絵はここに飾っておきます。彼もそれを望んでいる気がしますので」


その後、二人は家を調べて回ったが何も異常は見つからなかった。しかし次郎吉の嗅覚は誤魔化すことが出来ない。泥棒の臭いが正確に泥棒が狙ったものを次郎吉に教える。


「泥棒の目当てはこいつか……プラム、この本はなんだ?」


「それはわたしくの母から譲り受けた薬の本です」


「プラムの母親はダークエルフだったのか?」


「もちろんダークエルフでした」


現在このエルフの村にはエルフしかいないらしい。つまり泥棒の犯人はエルフで確定。そうなるとそのエルフの目的はダークエルフの薬の知識ということになる。盗まなかった理由は家主がいなくなった家ならのんびり本を読めるという判断でわざわざ盗む必要性がなかったと次郎吉は予想する。


「……プラム。一応歓迎会は警戒してくれ。暗殺とかされて戦争の火種になる。そうなってしまったら流石に笑えない」


「わかりました。旦那様? 泥棒はダークエルフの薬で何かしようとしているのでしょうか?」


「それは確実だろうな。ただ暗殺かどうかはわからない。プラムが前に話してくれた時にダークエルフの薬の中に劇毒薬があったから今使われる可能性が高いから警戒してくれって話だな」


「なるほど」


歓迎会でもし長老がダークエルフの薬で暗殺されれば次郎吉たちが犯人にされるだろう。更に暗殺犯を送り込んだシルファリッド王国がどうなるか想像はしやすい。ここでプラムが次郎吉に質問する


「旦那様は泥棒の狙いをどう考えていますか? 長老様や人間やわたしくを貶めるのが目的なのでしょうか?」


「俺っちの感で言うなら商売目的な気がするな。長老の暗殺狙いならとっくにしている気がするし、プラムを貶めるのもそもそも今日プラムが生きていることを知っただろうからな。その証拠にこの本は置きっぱなしだ。プラムが生きていることを知っていたなら盗んでいるはずだろ?」


「なるほど。言われてみるとそうですね。それにしても商売目的ですか」


次郎吉がプラムから教えてもらった薬の中には人間が欲しがりそうな薬が盛りだくさんだ。さっき話した劇毒薬もそうだがこの他にも惚れ薬や精力増強剤、精神に異常を与える薬など人間が欲しがりそうな薬がいっぱいあった。最もこれらについて次郎吉は気にはなるが興味がなかった。泥棒が使うには不相応な代物だし、薬で商売して生きていくつもりもないからだ。


「旦那様……お願いを」


「お願いなんてしなくていいぞ。全部俺っちに任せておけ」


「はい」


次郎吉の言葉にプラムは笑顔で答えるのだった。



夜になると次郎吉はエルフの歓迎会に参加し、ベジタリアンメニューのフルコース料理を味わうことになった。どれも非常に美味しく次郎吉は長旅した甲斐があったと思うほどだ。


「楽しんで貰えたかのぅ?」


「あぁ。料理も飲み物も全部美味かったよ」


「それは良かったわい。皆の者、今日は解散じゃ」


長老の声でみんなが家に戻っていく。ここで次郎吉と長老とエルフの村で権力がある長老会のメンバーだけが残った。


「もういいかの? お主の本題は分かっておるよ」


「話が早くて助かる。これが手紙だ」


「うむ。確かに受け取ったわい」


長老が手紙を見ると他の長老会のメンバーに手渡す。


「シルファリッド王国の貴族は儂らの森を襲った連中と取引はあったが直接的な関与はしていないという話は本当かの? プラム」


「はい。わたしくは襲われた後、シルファリッド王国の貴族に売られたので直接ここを襲ったわけではないと思います」


「ふむ……。だとすると疑うべきはバルバリス王国じゃな。困った国じゃわい。儂らはただ自然と共に生きて己の寿命を心安らかに終わりたいだけじゃと言うのにな」


これがエルフたちが善人集団だという証拠だろう。大きな力を持っているのにも関わらずまるで老後の人間のような思想を持っている。ただ全員がそうなるわけじゃない。どんな社会でも異端の存在は生まれるものだ。それを次郎吉は歓迎会の最中に知った。


「お主はプラムが襲われた事件をどう考えておる?」


「俺っちはエルフの中に仲間を売る裏切者がいると思っているよ。たぶん悪い人間にそそのかされた感じだと思うがな」


「そんなバカな! 儂らの中に裏切者がいるはずがない!」


長老会のメンバーの一人が次郎吉の推理に反応する中、長老は冷静だ。


「やはりそうか……」


「気付いていたのか?」


「薄々じゃがな。実はあの時、儂らの霧はずっと正常に発動していたのじゃ。お主が持っておる人間の玩具の仕業だと思っておったがそれが出来ないとなると話は変わって来るのぅ」


「そうだな。魔術が正常に動いていたなら裏切者がいることは確定でいいと思うぜ? その条件で人間がエルフを襲える方法として考えられるとするなら二つしか方法がない。一つはその霧の効果条件に人間を追加する」


これは次郎吉がいつもやっている結界のハッキング方法と同じだ。これについては長老が否定した。そんなことを魔術発動中にされたらエルフたちは確実に気づくそうだ。しかもそれが出来るのはエルフしかいないので、エルフの中に裏切者がいることは確定する。


「二つ目。俺っちがここに来たと同様にエルフの手引きがあった」


「それなら人間が霧を突破することは可能じゃろうな」


もちろんこちらもエルフが手引きしたなら裏切り確定。さて、ここで問題です。プラムはこの村で唯一のダークエルフでピンポイントに狙われました。そしてその後、家に空き巣に入っています。これは果たして偶然でしょうか?次郎吉は既に歓迎会の時に仕込みは終えている。なので後は答え合わせをするだけだ。



次郎吉たちが解散し、エルフの村から明かりが消える。そんな中、一つの家で混乱している若い男のエルフがいた。


「大丈夫……大丈夫のはずだ……僕が人間に協力した証拠はない。プラムの家でダークエルフの薬の知識を得た証拠もない。僕は絶対に安全……そうだとも。あいつらがこの村を去ったら、またいつもの日常だ。僕の計画になんの狂いもないはず。ふぅ……寝るか」


若いエルフが灯りを消して、眠りに付く。


「悪者が安全に寝れる日があると思っているのか?」


「っ!?」


空き巣のエルフが次郎吉の声で飛び起きると次郎吉が飛び乗り、押し倒すと口を手で掴んだ。そこには極悪人の気配全開の次郎吉がいた。


「相手が悪かったな。俺っちはお前のような犯罪のはの字を覚えたばかりの小悪党とはわけが違う。超一流の極悪人だ。お前の悪事くらいお見通しなんだよ。お前の後ろ盾にいるのはウィンバース宰相だな?」


「んん!?」


空き巣のエルフが驚きに目を見開く。ウィンバース宰相とはバルバリス王国の宰相でこの世界での宰相は政治家のトップを意味する。次郎吉がなぜこの人物との関係を疑ったかというとエルバーン子爵との取引を見たときに一番の大物として目に留まっていたからだ。


「あぁ~。ダメだぜ? 悪者がそんな簡単に顔に情報出したら自分の犯罪を自供しているようなもんだ」


「っ! この! 離せ! どけ!」


空き巣のエルフは次郎吉の手を掴んでどかすと次郎吉ごと横に転がり、次郎吉よりも先に起き上がり、次郎吉に蹴りを放ってから家から出ると村中のエルフがお出迎えした。プラムが前に出て言う。


「あなたが言った言葉をこの場にいる全員が聞きました。もう言い逃れは出来ませんよ?」


プラムがそういうとカセットテープのようなソーサリーファクトを取り出して、スイッチを押すと寝る前に独り言で呟いた声が再生される。


「ソーサリーファクト!?」


「ほぅ。お主、このアイテムの名前を知っておるのか? どこで人間の玩具の正式名称を知ったんじゃ?」


「え……いえ……それは……その……」


エルフたちの疑惑の視線が彼に突き刺さる。もう状況的に詰んでいる。


「くそ!」


最終手段として空き巣のエルフは風の魔法で逃げ出そうとしたが長老のエルフが指示を出すと熟練のエルフたちが彼をあっという前に捕まえて取り抑えてしまった。次郎吉が家から出てくるとプラムが心配して近寄り、二人は空き巣のエルフの元に行く。すると空き巣のエルフの服から一匹の機械化された鼠が出てきた。これが次郎吉がプラムの魔術を取り入れて作った盗聴のソーサリーファクトだ。


「俺っちたちばかり警戒してくれてありがとよ。非常にやりやすかったぜ?」


「ふ……僕を舐めるな!」


空き巣のエルフがそう叫ぶが何も起きない。すると次郎吉がベッドに押し倒した際に盗んだソーサリーファクトを地面に投げ捨ている。


「舐めているのはお前のほうだ。お前程度の小悪党が俺っちに勝てるはずないだろ? 勝てないと思った時点で逃げ出すべきだったな」


「ジロキチ殿。こやつの始末は儂らに任せてくれるということでよろしいかな?」


「頼みます。俺っちは人間。こいつを裁く権利はない。ただ一つだけ言わせて貰わないといけない」


次郎吉が空き巣のエルフの耳元で呟く。


「お前は俺っちが愛した女性を不幸にした。俺っちは一生お前を許さない。悪党ってのはそういう生き物だ。よーく覚えておくんだな」


悪事をするということは誰かに悪感情を植え付けると言うことだ。それは復讐心かも知れないし、憎悪かも知れない。犯罪者は常にそれを浴び続ける。何故なら被害者は決して犯罪者のことを忘れることはないからだ。


これを聞いた空き巣のエルフが離れていく次郎吉に向かって叫ぶ。


「ふざけるな! その女が本当に好きなのは死んだあいつだぞ! お前には関係ないことだろうが!」


「分かってねーな。プラムが誰が好きとかそんなことは俺っちにはどうでもいいことだ。重要なのは俺っちがプラムのことが好きでお前は過去にプラムを傷つけたっていう事実があれば十分なんだよ。もっと男女関係を学ぶんだな。がきんちょ」


これを聞いた空き巣のエルフは何も言えなくなって牢屋に入ることになるのだった。



翌朝になると次郎吉とプラムはエルフの村から出ることにした。


「今回は世話になってしまったのぅ。此度の一件については後からプラムに詳しいことを報告するわい。悪いがシルファリッド王国の方に軽い報告を先に頼めるかのぅ?」


「……別にいいけどよ。俺っちは飛脚(ひきゃく)じゃないんだぞ。ったく」


「ふふ」


次郎吉がやりたくない仕事を押し付けられて困った姿を見たプラムは笑う。どうしても犯罪者モードとの次郎吉と比べるとギャップで笑ってしまうようだ。


「プラムよ。いつでもこの村に帰ってきなさい。お主の家は残しておくのでな」


「ありがとうございます。長老様。それじゃあ、みなさん。いってきます!」


こうしてプラムは正式に人間の世界で生活するダークエルフとなった。次郎吉たちが魔霧の森を抜けて、お出迎えを待っているとプラムが次郎吉に声を掛ける。


「旦那様」


「なんだ?」


「ありがとうございます。そして愛しています」


そういうプラムの笑顔は一段と輝いて見えるのだった。



その後、しばらくするとバルバリス王国のウィンバース宰相の元に報告が入る。


「ほ、報告します! 魔霧の森のエルフたちが攻撃を仕掛けてきました!」


「なんだと? エルフたちは何か言っていたか?」


「先日の報復だそうです」


「ちっ。あのエルフの小僧め。しくじったな。まぁ、よい。ダークエルフの薬は惜しいがいくらでも手はある。魔霧の森周辺に騎士団を派遣しろ。周辺の町や村にお札を出せ。『凶悪なエルフどもが人間を襲い出したので、注意するように』とな」


「は!」


ウィンバース宰相は何かを狙っているようだが、この時誰も彼の狙いを知る者はいないのだった。

飛脚とは江戸時代で郵便や宅配便をしていた人の呼び名。江戸時代では人間が荷物を持って交代で送達(そうたつ)していた。

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