#29 怪盗キャリコとの出会い
次郎吉は王都シルファードを歩いて見学する。まず最初に向かったのは正門から見えた露店が並んでいる大通りだ。そこで各地の特産品を見つつ食事を済ませた。それが終わると住宅区画を散策する。
次郎吉の鼻が多少反応するものの次郎吉が狙うレベルには到達していない。それを感じて次郎吉は江戸の町と一緒だという評価になる。江戸の町も一般人は基本的に次郎吉の鼻は反応しない。ただ商売が善行だけではなかなか上手くいかないものだ。なので多少次郎吉の鼻が反応するのが普通と言える。
(ま、やばそうな血の臭いを放っている奴がちらほらいるのも同じだな)
首都というのは人が多くいる。そうなると犯罪者やこれから犯罪を狙う者が多くなるもの自然の流れだ。今日はシルファードに到着した時間が遅かったので、ここで夕暮れとなり、次郎吉は食べ物を購入して宿屋に戻った。
翌日、次郎吉のところにコーネがやって来た。どうやらシルファードの案内をするためにわざわざ来てくれたらしい。
「仕事はいいのか?」
「ちょうど仕事を終えてビオラさんに報告してきたところだよ」
「……仕事……出来たんだな」
「出ー来ーまーすー! 一応ジロキチより先輩だからね!?」
失敗するところしか見ていない次郎吉からすると驚きだが、ビオラもいきなり大物を狙わせたりはしないだろう。ほぼ一発勝負の世界だ。若手が暴走しない限りはちゃんとレベルに応じた仕事をさせると思われる。
「へいへい。昨日露店と右の住宅街を見たから今日は北の商売区画を案内を頼めるか?」
「任せて!」
コーネは楽しそうに案内していく。そのコーネの姿を次郎吉はアーベルトに見せてやりたかったと思ったが今はコーネとの首都案内を楽しむことにした。ソーサリーファクトのお店のチェックや服や日用品を買っていくとあっという間に日が暮れて、二人で食事をする。
「……なんで後輩の俺っちが全額払っているんだよ」
食事だけでなくコーネの服なども全額支払った次郎吉が文句を言うとコーネはなんとか誤魔化とする。
「それは……えーっと……デートなんだから男の子がお金を出すのは当然だよ!」
「お前はそれでいいんだな? こんな子供とデートしているのはちょっと問題だぞ」
「ジロキチが指摘しないでよ! あたしもちょっとまずいかもとは思ったよ!」
現代で言うと女子高生と小学生とのデートだ。流石にショタ疑惑が出るコーネだが、次郎吉と違ってコーネの収入源は『アルバ』からしかない。しかもコーネはまだ下っ端に位置している。お金が少ないのはどうしようもない。
そんな二人は翌日も行動を共にした。次郎吉たちが向かったのはお城だ。流石に中には入れないが見学は許されている。その結果、周囲には観光客に混じって血の臭いや悪い金の臭いが充満している混沌とした空間が出来ていた。
これは他国からの密偵や犯罪者、お城に入るために政治家や貴族、王族と直接面会して商談する商人が通るためだ。
「お姉ちゃん、あっちに行こう」
「へ? わ、わかった!」
状況を理解した次郎吉は一旦住宅街に戻り、食事をして露店を見に行くと次郎吉が言う。
「……撒いたな」
「へ? もしかして監視されてた?」
「あぁ。すぐ引いたところを見ると他所の国の密偵だな。同業者か極悪人を見つけて監視したってところだろう」
次郎吉は気配を消していたがそれが逆に怪しまれた可能性もあるので、一概には判断できない。視線は感じることが出来るが相手もプロだ。どちらを狙っているかわからないように遠くから視線を一点集中しないようにしていた。
「もしかしてまずい?」
「そこを判断するのはビオラさんだろ。一応報告しておくんだな。ちょっとこれで他国の密偵はやりづらくなったかも知れない。後、今日はここまでにしておくべきだ。下手に欲張ると大火傷するからな」
尾行されたということは警戒されたということだ。一度引いたから次も大丈夫と考えるわけには行かない。もう一度警戒した奴がいるところに戻って、こちらが尾行した犯人を探っていると思われると相手を刺激しかねない。
ソーサリーファクトを使えるなら多少の無茶が出来るが流石に王都でそんな騒ぎを起こすわけにもいかない。それでビオラに多大な迷惑かけるわけにもいかないので、今日はここで次郎吉はコーネと解散することにした。
次に日、コーネは次の仕事に向かうこととなり、次郎吉は一人で城の周辺にある政治家区画でお散歩する。
(おーおー。悪い金の臭いがそこら中から漂ってきやがるな。それに同業者が多いのなんのってね。まぁ、俺っちもそうだが一攫千金狙うならここは最有力候補にはなるだろうし、暗殺を狙うのもここってことになるんだろうな)
そしてそれを警戒してかソリスたちも巡回している。正直次郎吉が知っている範囲だとここの犯罪件数はそこまで高くない。この国のソリスの本部が近くにあるし、当然そこにいるのは凄腕のソリスだ。それを相手に犯罪を成功させるのはかなりの難易度になる。
しかも首都の周囲が城壁で囲まれているとなると脱出するのも大変だ。当然ソリスは出入口の門で検問することになるからね。犯罪が成功してもその後に捕まるリスクが非常に高い。
それでも巡回をするということは政治家や貴族から要望か指示出しされているじゃないかと次郎吉は予想する。犯罪が起きないほうが政治家や貴族にとってはありがたいはずだからね。
それから数日次郎吉は政治家区画を怪しまれないようにたまに訪れて偵察して、夜の様子も見に行くことにした。
夜になると政治家区画に昼よりソリスの数が増えて、犯罪を狙っている犯罪者の数が減った。流石に犯罪者側もリスク回避に動いているってことだ。しかしそれでも全くいないというわけじゃない。それがすぐに証明される。
次郎吉の耳にガラスが割れた音が鳴り響いた。
「怪盗キャリコだ! あいつを捕まえろ!」
周囲にいたソリスが一斉に動き出した。すると次郎吉の目に家の屋根から屋根に飛び移っている影を確認した。
(あいつが度々新聞を載っている怪盗なのか?)
次郎吉が最初に怪盗という存在を知ったきっかけの人物を次郎吉は目で追う。彼女の周囲にはすでに多くのソリスが集まっている。そのソリスたちが武器を構えて、彼女に襲い掛かると彼女は鞭を構えてソリスたちを向かってジャンプすると攻撃した。すると鞭に触れたソリスたちは感電して倒れ込む。
剣や警棒では鞭のリーチの長さには勝てない。正直ソーサリーファクトも魔法も当たれば一撃必殺だ。そういうところを見るとリーチが長い武器のほうが有利かも知れないと次郎吉が考えているとキャリコが次郎吉目掛けて降りてくる。
(おいおい……こっちに来るなよ)
次郎吉がそう思っているがキャリコにはどうすることも出来ない。結果キャリコが次郎吉の隣に着地を決めた瞬間、両者の視線が合う。
「え? あなたは」
「お前はあの時の」
キャリコは赤猫の仮面を付けていたがエメラルドグリーンの瞳とぼさぼさ赤毛は変えられない。そう彼女は次郎吉が孤児院で出会い、脱出する際に声を掛けてきた少女だった。
「ッ!?」
キャリコにソリスの攻撃が襲い掛かるとそれを察知したキャリコは足のソーサリーファクトを起動させて、ジャンプで家の屋根に飛び乗り逃げる。その最中にソリスたちに襲われるがパンチや蹴りでソリスを蹴散らしながら逃げていった。
「随分武闘派だな」
それがキャリコに対する次郎吉の評価だった。そして次郎吉がソリスを見ると感電したソリスは全員生きている。どうやら次郎吉と同じで人殺しの一線は守るスタンスでいるらしい。普通なら出力最大で感電死確定だからな。
その翌日にキャリコのニュースが新聞に載ったが捕まっていない。
「やるねぇ。しかし姿はもうバレているし、検問はもう展開されている。どうするつもりなのかね?」
次郎吉がそういうがキャリコにはちゃんと秘密があった。
「くそ! また逃げられた!」
「このあたりにいるはずだ! 隈なく探せ!」
ソリスたちがいなくなると魔道車に乗っている老人が声を掛ける。
「……お嬢様、もう大丈夫でございます」
「そう。ありがとう。爺や」
魔道車の後ろに隠れていたキャリコが仮面を取って顔を出す。そして彼女が向かった先はなんと侯爵の家だった。彼女が家に入ると父親が聞いてくる。
「また暴れてきたのか?」
「そうよ。何か文句ある?」
「いや、ない」
「ふん!」
家族関係は上手くいっていないようだ。それもそのはずで家族関係が崩壊した原因はキャリコが誘拐されたのがきっかけである。キャリコの誘拐の流れはまず父親の仕事の付き添いでグレスの町に行った結果、キャリコは両親が仕事をしている間、暇で外に出たところを誘拐された形だ。
両親はちゃんと捜索願いを出していたのだが、キャリコは結果としては次郎吉の力を借りた形でだが自力で脱出した。その結果、キャリコの両親の信頼が地に落ちた。そして次郎吉の泥棒の腕前に憧れて、孤児院で腐った大人とソリスの姿を知ったことで怪盗の道を選ぶことにしたのだ。
これがキャリコの秘密で今までキャリコがソリスに捕まらなかった理由である。何せ侯爵の地位ならソーサリーファクトも入手し放題だ。騎士団に頼めば訓練の参加も出来る。何よりソリスは侯爵家に基本的には手出しできない。
シルファードからの出入りも侯爵家の魔道車だとわかればフリーパスだ。それだけこの国では圧倒的な権力を持つ。ソリスも顔バレしているなら疑いはするだろうがソーサリーファクトを犯人が使っている以上、侯爵家の娘さんに幻術で化けている可能性もあるので動けない。結果としてソリスとしては現行犯逮捕でしかキャリコを捕まえられないわけだ。
「爺や。お願いがあるの」
「なんでございましょうか? お嬢様」
「この町にあたしの恩人がいたの。探してくれない?」
「承知いたしました。特徴などを教えてください」
キャリコは次郎吉の特徴を教える。
「えーっと……まずかっこよくて、優しくて、クールで」
「お、お嬢様……出来れば身体的特徴でお願いいたします」
「ふぇ!? あ、そ、それはそうね! えへへへ」
恋は盲目とはよく言ったものだ。いつもと全く異なる恋する乙女のお嬢様の姿を見て、執事の老人はため息と共に安堵する。この少女にはまだこんな一面が残されていたことが嬉しかったのだ。それだけ今まで切羽詰まり、キャリコは怒り狂っていた。
しかし残念ながら次郎吉は翌日にグソウの魔道車に乗って、シルファードを去ることとなり、二人の出会いは一瞬で終わるのだった。




