#28 王都シルファードと王女との面会
次郎吉はグソウの魔道車に乗って、王都シルファードに向かった。そこでグソウに次郎吉は聞く。
「いくつも魔道車を持っているんだな」
「足が付くと厄介なもんでな。幸い組織から必要経費として金を出して貰っているから赤字にならずに済んでいるよ」
魔道車はソーサリーファクトの技術を結集しているような代物だ。高級になるのは当然と言える。
「壊すとどうなるんだ?」
「俺の罰金だな。だからなるべく無理はしたくない。姐さんが無理をしろと命じてくれるなら罰金せずに済む感じだな」
流石に無理する命令して壊したら、その人に罰金をさせるような組織ではないらしい。
「魔道車以外にも乗り物を持っているのか?」
「一応俺が管理しているのだと中型船が一隻、小型船が一隻、馬車が二台、魔道車が四台だな」
「それは凄いな」
「表向きは運搬業なんでな。それぐらい持っていないときついんだよ」
因みに組織が管理している乗り物となると結構数が増えるそうだ。つまりグソウ以外に運搬専門の人がいたり、個人で持つ人もいる。実際密偵や犯罪者が魔道車を持つと逃げるのに便利だからな。覚えられても魔道車を廃車にすればいい話ではある。
ただ現時点でのソーサリーファクトの技術だとトラックのような荷物を運ぶ魔道車は作れない。理由は魔道エンジンの馬力不足。船なら巨大エンジンを搭載すればいいという話になっているが魔道車に巨大エンジンは詰め込めない。どれだけ小型で馬力がある魔道エンジンを作れるかが課題となっている。
お互いに商売の話や世間話をしつつ、次郎吉はグソウと共に王都シルファードに到着した。
「見えたぞ。あれが王都シルファードだ」
「凄い壁だな」
「あれはシルファードの城壁だよ。シルファードの町を壁で囲っているんだ。大体どこの国も首都はみんな城壁で囲っているな」
次郎吉は戦争が原因でこういう作りの首都になったことをすぐに理解した。そして近づくと更に城壁の高さに驚く。
「これは凄いな」
「初めて来る人は大体同じリアクションするよ」
「そりゃするだろうよ。よくこんなものを作り上げたな。魔法や魔術があるにしても大変だろう」
魔法が存在しない世界から来た人間だからこそその言葉には称賛の重みがあった。
そんな城壁に向かっていくと入口だと思われる門の前で魔道車が列を作り止まっている中、次郎吉が江戸時代とのレベル差に愕然としていると次郎吉たちの番がやってきて、門番が声をかけてきた。
「止まれ。通行許可書を出せ」
「はいよ」
「ニケニケの衣服、絨毯、カーテンの輸送か。商品を確認させてもらうぞ」
「これだよ」
次郎吉が商品を渡す。更にボディチェックもされた。ここでソーサリーファクトのチェックが入ることは聞いていたので、今回はソーサリーファクトを次郎吉は持っていない。完全に無害アピールだ。
「よし。問題なしだ。通っていいぞ」
「お勤めご苦労さん」
「王都シルファードを楽しんでくれ」
こうして次郎吉とグソウは王都シルファードの中に入ることに成功した。そして一気に賑やかな街並みが広がる。
「これは凄い活気だな」
「ここを訪れる人はみんな商売目的だからな。門をくぐってすぐは道に露店を出していいと許可が出されている道になっているんだ。住宅区画に行くとかなり落ち着くぜ」
「なるほど」
どうやら王都シルファードはいくつもの区画がある首都らしい。中央周辺は政治区画。城で働いている政治家たちが多く暮らしている区画だ。城から見て正面と後ろが商売区画。外からやってきた人たちが商売することを許された区画だ。露店や飲食店が正面、ソーサリーファクト屋や宿屋などは城から見て後ろの区画に集中している。
城から見て左右が住宅区画。首都シルフォードで済んでいる人が暮らしている区画だ。この二つの区画には違いはないそうだ。
次郎吉は寄り道をしたくなったが流石に本題を済ませてからという話になり、次郎吉は王都でビオラが経営している宿屋に向かい、ビオラを一人で待つ。グソウは一人で遊びに行ってしまった。しばらく退屈しているとビオラがやって来た。
「お待たせ。ジロキチ。今日はあなたに合わせたい人物がいたのよ。お入りください。ラピーシア王女様」
ビオラがそういうと大人の女性とゲオリオを連れた入って来たフードで顔を隠した一人の少女が現れた。その少女がフードを取ると新聞でたまに見にする蒼いサラサラの髪の毛が特徴的な次郎吉と年がそこまで変わらない王女が現れた。
「初めまして。ジロキチさん。わたしくの名前はラピーシア・シルファリッド。この国で王女をやらせてもらっている者です」
「どーも。泥棒の天才の次郎吉だ」
普段と同じ次郎吉の様子に側近の女性は怒りを露わにするがゲオリオは苦笑する。
「その様子だと俺の正体や組織のバックに誰がいるか予想していた感じか?」
「まぁな。消去法でたぶん王女発案の組織だとは思っていたよ」
「どうしてそう思われたのか聞かせてくれませんか?」
ラピーシア王女にそう言われたので、次郎吉は推理を披露する。
「まず王様や女王様。この二人は貴族たちや政治家たちを任命して、地位を与えた人たちだ。その人たちが彼らを裁く組織を作るとは思えない。次に第一王子。新聞によると彼は政治家タイプで貴族との関係を重要視している。跡取りになる可能性が一番高いんだ。そうなるのは当然だろう」
「なら彼が組織したと考えるのが普通じゃないか?」
「一見するとそうだな。でも貴族から支持を集めないといけない王子が貴族を裁いていたら指示されなくなるだろ?だから第一王子はあり得そうでありえないんだよ」
恐らく王族たちは貴族たちの腐敗には気が付いているはずだ。そうじゃないと腐敗した貴族や悪い商売の話が出てくるはずがない。だけど国を維持、管理、発展させていく上で貴族や政治家の力は必要不可欠となる。だから気が付いていても簡単に動けないというのが王族の悩みだろう。次郎吉は話を続ける。
「次が第二王子。彼は騎士団たちとの関りを重要視している軍事家タイプ。国の軍事力を優先しているなら政治家のことなんて考えないだろう。そうなると消去法で残っているのが第一王女で『アルバ』という国の運営を裏からサポートするような組織を作りそうだと思った。さしずめ自分も王たちや王子たちの役に立ちたいと考えていたところ王族の愚痴を聞いて組織を作ろうとした感じじゃないか?」
王子たちの考えでは恐らく政治を第一王子、軍事を第二王子担当にしてこれからの国の運営をしていくつもりなのだろう。作業を分担したほうが一人にかかる仕事量は減るからね。ただここで問題となるのが兄弟の仲の問題だ。仲が悪いと政治家と軍事で激突して内乱が発生する可能性がある。ただ現時点では仲良しの兄弟仲と新聞に書かれていた。
次郎吉の推理を聞いたラピーシア王女は拍手する。
「わぁ! 凄い推理ですね! 正解ですよ! 聞きましたか? ルル! ゲオリオ!」
「あの……ラピーシア王女。別にそこまで驚くような推理ではありませんよ」
ルルと呼ばれたラピーシア王女の護衛役である紫色の髪が特徴的な乙女が言うとラピーシア王女はショックを受けた様子だ。それだけでこの二人が仲良しなのが伝わって来た。するとビオラが聞いてくる。
「そういう設立の流れでもあなたはあたしたちに協力するのかしら?」
「あぁ。元々命を握られたことは置いといて。俺っちはやりたいことをやらせてくれるなら別になんでもいいんだよ。好きに金を盗んで好きに使って、好きに遊ぶ。これが俺っちの人生の全てと決めているんでな」
「そう断言できる次郎吉が俺はお前が羨ましく感じるよ」
「そりゃそうだ。悩みなんてほぼないからな。人生楽しんだ者が勝ちだぜ? ゲオリオ」
一度死んだ次郎吉だからこそこの言葉には重みがある。何せ次郎吉は最後に人生に悔いがないと思って死んだ。江戸時代とか関係なくなかなか人生に悔いがないと思って死ねる人間はいないものだ。するとルルがゲオリオを睨む。
「惑わされるなよ? ゲオリオ」
「分かっているって。俺はラピーシア王女の剣として生きると誓った。その役目はきちんと果たすから安心しろよ」
「ふん。分かっているならいいんだ」
ラピーシア王女とゲオリオの間にも何か過去にあったんだろう。それがいつかわかる日が来るかもしれないが次郎吉は本題を優先することにした。
「それで俺っちとラピーシア王女を出会わせたのは組織の人間として相応しいかどうか見るためか?」
「そうね。後はあなたの実力を確認するためよ」
ビオラがそういうといきなりルルが次郎吉に向かって剣を抜き、襲い掛かって来た。それを見た次郎吉は座っていた椅子ごと後ろに倒れると椅子を蹴り飛ばす。
それを見たルルは飛び上がり、次郎吉に斬りかかると次郎吉は攻撃を躱した。しかし着地したルルが体を回転させて次郎吉の首に剣を向ける。
「私の勝ちだ」
「いいや? 俺っちの勝ちだぜ? 生娘の騎士様」
次郎吉は右手にいつの間にか持っている可愛い紫色のリボンがある純白のパンツをルルに見せる。
「な!?」
ルルは顔を真っ赤にしてとっさに自分の下半身を抑える。すると次郎吉は突っ込んできて押し倒される。そしてルルの唇に次郎吉の手が触れる。
「このまま唇も奪ってやろうか?」
「……」
「なーんてな。冗談だよ。ほれ。パンツを履け。ノーパン騎士様」
「な!?」
次郎吉はルルの上から退くとパンツも返す。ここでルルはパンツを取って立ち上がるとビオラたちと視線が合い、非常に気まずい空気となる中、ルルが部屋の外に走り出す。流石にここでパンツは履けないからな。
「見るな!」
「ぐは!? なんで俺だけ?」
ゲオリオだけルルにビンタされるとビオラが指摘する。
「男でガン見していたからでしょ? 紳士なら視線をそらさないとダメよ? ゲオリオ」
一方でラピーシア王女には刺激が強かったらしい。
「わ、わー……ルルのあんな姿、初めて見ました」
ラピーシア王女にとってルルは王女専属の騎士団を纏める騎士団長だ。清廉潔白、百戦錬磨のイメージが強かったが次郎吉との戦いで見せたルルの姿は異性の経験がない乙女そのものの姿だった。するとルルが帰って来るが完全に次郎吉を警戒している。
「……いつ盗んだんですか」
「お前さんが俺っちに斬りかかって来た時だよ。泥棒の前で両足を地面から離したらダメだぜ? スカートの中に手を突っ込むだけでパンツを盗めるからな」
口で言うのは簡単。しかしルルに気づかれずにしかも短い滞空時間の間にパンツを盗むのは凄まじい早業と言える。しかもビオラたちからは見えていないという完璧な下着泥棒を見せつけた。
「くっ……!」
「勝負はそこまでよ。ルル。次郎吉はちゃんと泥棒としての腕前と戦闘の実力を見せたわ。あなた相手にここまでしたなら合格でいいのではないでしょうか? ラピーシア王女様」
「そ、そうですね! あ、でも最後に一つだけ確認させてください。あなたは秘密を守れますか?」
最後のところだけラピーシア王女の雰囲気が変化した。そこからは子供ではなく王女として責任を背負っている者の言葉の重みがあった。次郎吉はラピーシア王女と向かい合うと話す。
「あぁ。秘密は必ず守るさ。俺っちはいつ死んでもいいように生きている。だから秘密を話すぐらいなら俺っちは死ぬから安心しろよ」
「分かりました。その言葉とあなたの覚悟を信じます」
これで次郎吉とラピーシア王女の面会は終わった。これから次郎吉はせっかく王都に来たので、しばらく滞在することにした。王都にいる貴族や政治家のチェックに加えて、最新のソーサリーファクトのチェックなど王都でしか出来ないことがたくさんあるのだ。
一方次郎吉と別れたゲオリオは言う。
「なんていうか大人よりも子供のほうがよっぽど覚悟決まっているのはどうかと俺は思うわけだが」
「ジロキチが例外なだけよ。他の組織所属の人にジロキチレベルを要求することなんて出来ないわ」
「まぁ、そりゃそうか。後はジロキチをどう使っていくかだな。報告にも上げましたがあいつの実力は底知れません。泥棒としての腕前は最強クラス。これに加えてアーベルトさんの弟子としての魔道技師の腕前にダークエルフまでいる。どんな成長をしているか想像したくないほどですね」
「こき使ってあげましょう! あのエロガキ!」
「私怨が入っているわよ。ルル」
『アルバ』として次郎吉の使い方を考えることになるのだった。




