#26 メイドのダークエルフ
組織の一員になった次郎吉とプラムはまずプラムの服を選ぶことになった。
「なんでメイド服なのよ!」
「俺っちの趣味だ」
「いい趣味してるわね。ジロキチ」
「姐さんといい勝負しているよ。お前」
コーネに怒られ、ビオラには褒められ、ゲオリオにはあきれられた次郎吉である。そんな次郎吉は最初の頃を思い出して口を開く。
「いや~、ずっとメイドさんは気になっていたんだが、プラムがメイドさんになると破壊力倍増だな」
「ありがとうございます。ご主人様」
「ぶは!? こちらこそありがとうございます!」
「このエロガキ……」
次郎吉にコーネの視線が冷たい視線が突き刺さるがそんなものが通用する次郎吉ではない。因みにプラムに変な知識を与えたのはビオラである。
「これでプラムちゃんはよしっと。後はあなたたちのコードネームも決めないとね」
「コードネーム?」
「仮の名前みたいなもんだよ。俺は『掃除屋』でグソウが『運び屋』って呼ばれている」
「なんでもいいなら俺っちのことは『鼠小僧』って呼んでくれ」
次郎吉にとっては一番聞きなれた名前だ。この世界では誰も知らない異名だし問題ないと次郎吉は判断した。
「変わった名前だけど問題ないわ。プラムはどうしようかしら?」
「『世話係』でいいんじゃないか? どっちみち家を持つなら名義はプラムちゃんにするしかないだろ?」
流石に子供が家持ちになることは難しいらしい。そうなると次郎吉と一緒に暮らすことになるプラムを家主に登録して次郎吉を養子にしたほうがいいとゲオリオは判断した。次郎吉が家を持ってもいいぐらいに成長してから名義を変更すればいいわけだ。因みに市役所で無料で変更できるらしい。
「それが一番いいわね。コードネームはそれでいいかしら? プラムちゃん」
「大丈夫です」
これでプラムのコードネームが決まったところで次郎吉は改めてプラムに質問する。
「そういえば忙しくて全然聞けなかったがエルフとダークエルフって何が違うんだ?」
「基本的には同じです。肌の色がダークエルフは褐色でエルフは色白な違いと出身地の違いから名称を分けているんです。後、得意な魔術の系統も違いますね」
「エルフは全ての属性を使えるって話だったがダークエルフは違うってことか?」
「いいえ。エルフもダークエルフも全ての属性の魔法を使えます。ただエルフは攻撃の魔術や防御の魔術が得意でダークエルフは強化や弱体化、妨害などの魔術が得意な種族です」
この確認は次郎吉からするとかなり重要だったりする。何せこれにより次郎吉はソーサリーファクトの魔力供給に困らなくなった。今までは市販に売られている魔力バッテリーを購入していたり、アーベルトが注げる魔力でやりくりしていた。それが魔力バッテリーの交換などがしなくてよくなったのだ。これはかなりのお金と労力の節約になる。
ここで魔術師としてゲオリオが質問する。
「具体的にどんな魔術か教えてくれるか? もちろん嫌ならいいが」
「大丈夫です。基本的な魔術で言ったら足を速くしたり、遅くしたりできます。他にも幻を見せたり、相手を呪う魔術も得意です」
「ジロキチの勧誘に失敗していたら、あたしたちは呪われていたわけね」
「はい」
はっきり断言するプラムにビオラたちは引く。一方次郎吉からするとこれも朗報だ。次郎吉のソーサリーファクトは支援よりのソーサリーファクトだから相性がいい上に妨害要素が強くなるのは泥棒として見つかった際の逃げる手段が多くなることを意味している。
(結果的に義賊のようなことをすることになっちまったが俺っちがやることは変わらない。楽しくなってきたじゃねーか)
この他にもエルフとダークエルフには色々な違いがあるらしく上手く役割分担をしていることが判明した。例えば森や食べ物を育てるのがエルフが得意でダークエルフは薬草を集めて薬を作るのが得意らしい。
この薬にも種類があって普通に人間が作れる薬からダークエルフしか作れない特殊な薬があるらしい。
「聞くのが怖いけど、ダークエルフの薬にはどんな薬があるのかしら?」
「まさか不老不死になる薬とか言い出さないよな?」
「流石にその領域の薬は作れませんね。ただ子供にする薬はありますよ? 時間制限がありますけどね」
「そこで俺っちを見るな」
まるで自分はいつでも子供の姿の次郎吉に出会うことが出来ると言われているように感じる次郎吉であった。ここでプラムから具体的な薬の例を聞くと心が幸せになる薬とか精神が壊れる薬などが教えられたところで聞くのを止めにしたビオラたちであった。
ビオラたちからすると次郎吉はかなりの危険人物な認識だ。泥棒の腕前もさることながらアーベルトからソーサリーファクトの技術を受け継いだだけで十分にやばい。
そして今回プラムという危険人物が追加された形だ。魔術もやばければ薬もやばい。商売人のビオラからすると心が幸せになる薬だけでも巨万の富を築けることぐらいは理解していた。
その二人がタッグを組むとどうなるか頼もしさと恐ろしさを感じるビオラであった。
一方同時刻、エルバーン子爵の家では一人の魔道技師が魔道車に乗ってやってきた。現れたのは背が小さくガリガリの老人だ。ただしアーベルトよりは若く見える。
「遅いぞ。トーマン」
「これでもかなり急いできたほうじゃろうが、それで泥棒に入られて儂のソーサリーファクトが何も反応しなかったと聞いたが?」
「あぁ! 高い金を払って買ってやったのにどういうことだ! これは!」
「それを調べに来たんじゃろうが。ほれ。要件は分かったからどっかいけ。作業の邪魔じゃ」
彼の名前はトーマン。アーベルトが言っていた五魔道技師の一人で防犯のソーサリーファクトの第一人者だ。その彼が自分のソーサリーファクトを調べていく。
「全て正常に作動しておるな。結界のソーサリーファクトは情報が改善された痕跡がある。泥棒が入ったのは間違いなさそうじゃな。だとしたら光線のセンサーは無効化されたか。素晴らしいぞ。儂のソーサリーファクトをここまで理解できる泥棒は初めてあったかも知れん。これは面白い泥棒が現れたもんじゃ。儂も負けてはおれんな」
トーマンにとっては防犯のソーサリーファクトを突破されて、お宝を盗まれた時点で完敗。防犯のソーサリーファクトに引っかかってくれたのならトーマンの勝ち。それで泥棒に逃げられたのなら捕まえる仕事をしている人の負けという認識だ。なので今回完敗したことでトーマンは次郎吉を泥棒としてというより魔道技師として好敵手と認めた。
するとそこに一台のソリスの魔道車がやって来た。現れたのはハゲッツだ。
「泥棒に入られたとお聞きしましたが? なんでも結界のソーサリーファクトをすり抜けたとか?」
「すり抜けたというか情報を改竄されて突破されてしもうた感じじゃな」
「あなたは魔道技師ですか? その話は本当ですか?」
「間違いないわい」
それを聞いたハゲッツは笑む。
「なら犯人は奴の可能性が高いな。貴族のパーティーの最中に泥棒に入り込み、見つからずに泥棒を成功させるなんて神業を誰でも出来るわけがないだろうからな。これは偶然か?」
「この家を襲った犯人に心当たりがあるのかの?」
「心当たりがあるというか結界のソーサリーファクトをすり抜けて泥棒をしている奴が存在しているのを知っているだけです」
「ほぅ……ならソリスとしては早くそいつを捕まえることじゃな。裏社会にそんなソーサリーファクトが流れたら大変なことになるぞい」
「分かっています。そいつは必ず俺が捕まえるので、安心してください」
ハゲッツがそういうと捜査させて欲しいとエルバーン子爵に話したが断れてしまう。貴族に断れてしまうとソリスの権利じゃこれ以上の深追いは出来ない。これが権力者というものだ。
ハゲッツも最近この周辺で貴族を狙った泥棒が複数件発生しているのは知っている。ただ普通に逮捕者が出たり、怪しい人間の通報が増えてきたりしてどうにも犯人を絞りづらい状況だ。しかも貴族たちは家の中は調査させてくれないんだからソリスは犯人のことを調べることが出来ず、後手に回らざるおえない状況となっている。
「チッ。やりづれーな。これも全て計算の内か?」
「どうしますか? ハゲッツチーフ」
「今までと同じだよ。この周辺で金持ちの貴族が狙われる可能性が高い。そこに網を張るしかねーだろうな」
ハゲッツは次郎吉の狙いに気が付き、先回りを仕掛けることにした。ただ先回りしても泥棒の現場や泥棒が見つかり現行犯であることが確定しない限りソリスとしては手出しできない。
「引っかかりますかね?」
「わからん。だがいずれお目にかかる日は来るはずさ。完全犯罪を無限に続けられる犯罪者はいないんだからな」
そういうとハゲッツはエルバーン子爵の屋敷を去るのだった。
それからしばらくするとエルバーン子爵とその関係者、グレスの町で教会を営んでいた神父と孤児院にいたチンピラ、神父と繋がっていたソリスが謎の殺し屋によってほぼ同タイミングで消されるニュースが世間を騒がせる。
「ハゲッツチーフ! エルバーン子爵の新聞見ましたか?」
「あぁ……もう見たよ。ったく、こっちの脳を乱してくれるな。全く」
「殺人の犯人は我々が追っている泥棒なのでしょうか?」
「それはない。エルバーン子爵を殺したのは新聞の通り『貴族殺し』の仕業だろう。ただ気になっているニュースがある。『シャギー伯爵邸強盗殺人事件』だ。これは『貴族殺し』が関与している事件ではあるのだが、唯一『貴族殺し』が強盗した事件なんだよ」
ハゲッツの部下が慌てた様子で質問する。
「まさか我々が追っている泥棒と『貴族殺し』には何か関係があるのでしょうか!?」
「それはわらかん。『貴族殺し』の犯行はこの国中で行われているからな。俺たちが追っている泥棒とは行動が矛盾している気がする。しかし貴族を狙っている犯罪者という意味でなら一緒だ。とにかく事件からだいぶたっているがシャギー伯爵邸を調査する価値はあると俺は思う」
「分かりました! 魔道車回しますね!」
こうしてまたハゲッツは次郎吉に少しずつ近づいていくのだった。




