#25 依頼達成と仲間入り
次郎吉とプラムはグソウとコーネが待つサイアの町が見えたところで一旦別れてプラムには隠れて貰うことにした。流石にダークエルフを人間の町に連れていくことは出来ない。プラムによると人間の姿になれる魔法も使えるらしいが用心に越したことはないという次郎吉の判断だ。
サイアの町に入った次郎吉は待ち合わせ場所の酒場に入るとグソウとコーネがいた。
「あ! ジロキチ!」
「無事に依頼達成したみたいだな?」
「あぁ……大収穫だぜ? 仕事の依頼としてもそれ以外もな」
「「それ以外?」」
「詳しい話は魔道車の中で話させてくれ」
そんなわけで次郎吉はプラムのために服を買いに行き、二人が待っている魔道車に乗るとプラムが待つ場所に行く。
「プラム、いるか?」
「はい」
声が聞こえると暗闇からプラムが姿を見せた。透明になる魔術も使えたようだ。
「「魔術? は?」」
「紹介するとだな。俺っちがエルバーン子爵から盗み出したダークエルフのプラムだ」
「「ダークエルフーーーーー!?」」
次郎吉のとんでもない行動に驚くグソウとコーネであった。
「ジロキチさんの所有物になったプラムと申します」
「「所有物!?」」
「え? え? え? それって~……それって~……ぷしゅ~」
コーネが顔を真っ赤にして倒れる。どうやら下ネタか何かと勘違いしたらしい。
「たぶん変な意味じゃないぞ。コーネ。確かに詳しい話は魔道車の中で話したほうがよさそうだな」
「だろ? 俺っちもダークエルフのことはほぼ知らないんだが、プラムの安全は保障する。怒らすとわからないが」
「怒らさないように注意しよう。俺の魔道車が木端微塵にされたくないからな」
「プラム、このローブを着てこの魔道車に乗ってくれ」
次郎吉が用意した服はフードつきローブだった。これでエルフの特徴である耳を結構隠せると次郎吉は踏んだ。車で移動してても窓から見られたら終わりだからその対策としては十分と言える。
移動している中、エルバーン子爵の屋敷で起きたことを次郎吉は説明した。それを聞いたグソウは大笑いする。
「ははは! 好きな女を盗み出すか! 確かにそれは泥棒としては最高の嫌がらせだろうな!」
「笑いごとじゃないですよ! グソウさん! ジロキチ? それは依頼に含まれていないでしょ? そんなことを勝手にやったらダメじゃない」
「「ダメじゃないだろ」」
次郎吉とグソウの意見が一致する。グソウがコーネに教える。
「いいか? コーネ。ジロキチは俺たちの仲間じゃない。あくまで仕事の依頼を受けてくれた泥棒だ。仕事の依頼を達成してくれれば俺たちからするとそれだけでいいんだよ。後の問題は次郎吉の問題だ」
「そーゆーことだな。好きな女盗まれて俺っちに復讐しに来るんだったらそれは俺っちが解決するべき問題だ。コーネたちは関係ない。もし余計なことをして欲しくなかったんだったら依頼内容に余計なことはするなと書いておくべきだったな」
「それを姐さんが書いていないってことは全部次郎吉に任せる判断をしたってことさ」
「そーかも知れないけど! なんか! なんかさ……」
納得がいかないコーネに次郎吉が教える。
「言っとくが俺っちが密偵なら情報を盗み出して終わってたぞ。でも俺っちは泥棒だ。金やお宝を盗み出すのが泥棒。今回は泥棒の仕事と密偵の仕事は被っただけの話だ。密偵としてならお前の判断のほうが正しいから安心しろよ」
「そういうことだな」
次郎吉に自分が抱えているモヤモヤを晴らされて元気になるコーネであった。それから次郎吉たちはビオラから指定された待ち合わせ場所に向かっている最中に朝を迎えて、昼前に待ち合わせ場所がある小さな村に辿り着いた。
プラムは人間の姿になる魔術を使用してから村に入り、待ち合わせ場所のお団子屋に入る。
「話は店長から聞いています。二階にどうぞ。皆さんのことをお待ちしてますよ」
若い売り子の女性にそう言われて、次郎吉たちは二階に行くとビオラとゲオリオが待っていた。
「よ。お疲れさん」
「ダークエルフのことはとりあえず置いておいて、まずはエルバーン子爵の情報を頂こうかしら?」
「あいよ」
次郎吉が証拠の書類の束をビオラの机の上に置いた。それを見たゲオリオは引く。
「おいおい……随分多いな」
「全部が悪さの証拠じゃないかも知れないがざっくり見た感じ結構な悪さしているぜ? あいつ」
「そうみたいね。これは奴隷商人との密売買。それから他国からの木材の密入、ソーサリーファクトの密売買、貴族同士の裏取引、他国への違法な支援金、村人には違法な高い関税、裏社会の人間への黒い依頼の数々。これはもう救いようがないわね。ゲオリオ」
「あぁ。これだけの証拠があれば十分だ。俺たちの依頼主様も許可してくださるだろう。ここから先は俺の仕事だ」
これで恐らくゲオリオがエルバーン子爵の排除に向かうことになったことを次郎吉は理解する。それと同時にビオラたちの上に誰か支援している人がいることもこれでわかった。その存在はゲオリオが敬語を使うほどの大物であり、その人が許可を出さないとビオラたちは簡単には動けない組織だと判明した。
「俺っちを消す前に一つ教えてくれるか? あいつらがアーベルトの爺さんを狙った理由はなんだったんだ? やっぱり爺さんのソーサリーファクト狙いか?」
「そうみたいね。暗殺の依頼とかはないみたいよ。死因が自殺で間違いないならアーベルトさんは自分のソーサリーファクトを悪者たちから守ったってことになるんでしょうね」
「なんとも爺さんらしい。さぁ、俺っちを消すならさっさとしてくれ」
「あなたが言っていることとそちらのダークエルフのお嬢ちゃんがやろうとしているが真逆なのだけど?」
プラムが魔力を高めたことでビオラたちはやばさを感じる。するとゲオリオが言う。
「落ち着きな。ダークエルフの嬢ちゃん。俺たちからすると次郎吉は殺すんじゃなくて仲間に入れたんだよ」
「仕事は出来るし、ダークエルフまで味方にしたなら流石に無視することは出来ないわ。最も次郎吉君が入りたいかどうかだけど」
「入らない選択すると死ぬことになるよな」
プラムとコーネが次郎吉を見る。期待と不安が混じっている目だ。次郎吉に仲間入りして欲しいコーネだが、組織のことを知っているだけに次郎吉を巻き込んでいいものかコーネにはわからない。
一方プラムは次郎吉の命を守ることが最優先。彼女はもう次郎吉がどんな道を選んでも共に歩むことを決めている。しかしそれでも不安は残ってしまうものだ。
「入るか決める前にまずあんたらの組織について教えてくれるか? それがわからねーと決断も出来やしねーよ」
「それは確かにそうね。じゃあ、簡単に説明させてもらうと私たちの組織の目的はこの国の正常化よ」
「国の正常化とは……また規模が凄いことになったな。おい」
「確かにそうね。でもあたしらの依頼主がやりたいことがそれなのだからどうしようもないわ」
ここで次郎吉は謎の依頼主に対して思い浮かんでしまった。
「国の正常化を依頼するってことはお前たちの組織の上ってまさかとは思うが」
「王族よ。誰かはまだ教えられないわ」
「そういうことになるよな~」
次郎吉は生前死ぬ前に牢屋で会話した男のことを思い出した。あの時と状況がそっくりなので思い出すのも無理はないだろう。
「つまりお前さんたちの仕事はソリスや国が手出し出来ない大物の悪者退治といったところか?」
「流石に理解が早いな。だから俺のような殺し屋が組織にいるわけ」
「国に所属している騎士が貴族の殺し屋しているとは誰も思わないよな」
「「「っ!?」」」
その場にいた全員がゲオリオの正体を暴いた次郎吉に驚くが次郎吉は冷静だ。
「今更驚くなよ。お前、最初に出会った屋敷で執事の老人と戦っているときに国からの回し者って指摘されてただろう?」
「ちゃんと聞かれていたわけね」
「泥棒は音が命なもんでね」
次郎吉はアーベルトからこの国には国を守る騎士団があることを聞いていた。それを知った次郎吉はゲオリオの正体に仮説は既に立てていたのだ。
「組織の目的は分かった。じゃあ、お前さんたちは俺っちを仲間に入れて何をさせるつもりだ?」
次郎吉にとってこれが一番重要な質問となる。今回のような密偵の仕事を次郎吉にやらせるつもりなら論外だ。なぜなら次郎吉は泥棒だからである。この質問にビオラは即答する。
「もちろん泥棒よ。しかも狙うのは不正に稼いでいる貴族たちのお金ね。あたしたちがターゲットの情報を渡してあなたに盗んで欲しいのよ。ただその盗んだお金はあたしたちに渡してもらうことになるけどね」
「そいつはダメだな。論外だ」
「報酬は弾むわよ?」
「ダメだ。お前たちの組織が不正に稼いでいる貴族の金を狙うのは金の流れが止まり、経済が悪化するからだろう? なら俺っちが盗んだ金を全部使うなら経済は正常に回るはずだ。違うか?」
ビオラは痛いところを付かれた。ビオラや王族の考えだと盗んだ金を必要なところに回す計画だった。それで貧困の差が埋まり、貧困で苦しんでいる人もお金を使えるようになるならそれが一番いい。しかしそれは善人が考える理想論だ。ここで次郎吉は質問する。
「これだけははっきりさせてくれ。お前たちの組織は正義の組織のつもりなのか? 悪の組織のつもりなのかどっちなんだ? 話を聞いた限りだと俺っちにはどっちかわからねーよ」
「……そうね。まずそこをはっきりするつもりだったわ。もちろん悪の組織よ。あたしたちがやっていることは犯罪だもの。正義を掲げるのはあたしたちの依頼主の仕事ね」
「汚れ役をする覚悟はあるわけね。なら後は金の話だけだな」
「そうね。ここはちゃんとお互い話し合って決めましょう」
次郎吉とビオラの攻防が続く。そして決着がつき、ビオラがまとめる。
「あなたが盗んだ金銀財宝はあたしたちの取り分。紙幣や硬貨はあなたの取り分。これでいいわね?」
「あぁ。どうせ俺っちには金銀財宝を金に変える手段はねーからな。下手に売ると足が付く。でもバックに王族がいるならこのあたりのことは大丈夫だよな?」
「そうね。言っとくけど紙幣を優先するとかはなしよ」
「は! 俺っちを誰だと思っているんだ? 天下の大泥棒の次郎吉様だぞ? 盗める宝は全部盗んでやるよ。それが例え女でもな」
次郎吉がそういうとプラムは微笑む。
「それは頼もしいわね。それじゃあ契約成立ってことでいいわね?」
「おっと……その前に俺っちが仲間になる条件をいくつか言わせてくれ」
「何かしら?」
「一つ。どこかの村に大きめの地下室がある家が欲しい。俺っちたちが活動する上でアーベルトの爺さんの家は使えなくなったからな」
使えなくはない。ある意味地下に要塞があるようなものだからね。しかし身バレなどしたときにアーベルトの爺さんの養子である情報はすぐに掴める。そうなるとアーベルトの爺さんの家が狙われて壊される危険がある。それを避けるために住所を変えた情報を更新する必要があるのだ。
「そうね。家ぐらいなら任せてちょうだい。これでも色んな国で宿屋から飲食店まで色々経営しているから余裕よ。でも地下室が欲しいってことはソーサリーファクト関連かしら?」
「あぁ。俺っちが泥棒を続ける上でどうしてもソーサリーファクトの開発は続けねーと勝負にならないからな」
「アーベルトさんはちゃんと跡取りを残したわけね。流石だわ」
ビオラはアーベルトと面識があり、会話を交わしたことがあった。それはまだ組織が出来ておらずコーネを仲間に入る前の話だ。国に裏切られたアーベルトはビオラに自分の今後の話をして跡取りを残したいと話していた。
「あたしたちと交渉することは可能かしら?」
「ソーサリーファクトの種類や使い方による。アーベルトの爺さんが殺傷能力があるソーサリーファクトを禁止した以上俺っちもそれを守るつもりだ。ただ俺っちが使っているソーサリーファクトみたいに逃げる専用のソーサリーファクトや潜入に便利なソーサリーファクトくらいなら交渉してもいいぜ?」
「それで十分でしょ。まぁ、俺的には武器を作って欲しい気持ちはあるが密偵たちには凄い武器になるじゃないっすか?」
「そうね。ならあたしたちはあなたというかあなたたちになるのかしら? 色々サポートさせてもらうわ。商売のルートとか知らないでしょ?」
「それは助かる」
これで次郎吉とプラムは住処と表向きの商売を手に入れた。次郎吉は次の要求をする。
「一つ。これは仕事の依頼だな。グレスの町にある教会と孤児院を潰してくれ」
「そこで何が行われているかに寄よるわ」
「子供の誘拐と魔法使いの人身売買、捨てられた赤ん坊の補助金の不正受給、ちょっと突くとグレスの町のソリスの不正も出てくるはずだ。これじゃあ、仕事は受けられないか?」
ビオラがゲオリオを見るとゲオリオは頷く。
「証拠が必要だけど動けるわ。貴族ばかり狙っていたら、足が付きやすいから悩んでいたところだし、いいきっかけだわ。コーネ、証拠を集めてくれるかしら?」
「任せてください! ビオラさん!」
「……」
「そこ! 心配そうな視線を向けない! お姉ちゃんに任せなさい!」
自信満々のコーネだが、物凄く心配になる次郎吉である。流石にチンピラと偽神父に後れを取ることはないと次郎吉も思っているのだが不安は消えない。しかしビオラの指示なので任せることにした。
「一応聞いておくがどうしてそこを狙って欲しいんだ?」
「こんな組織に入ることになったからには俺っちなりのけじめを一つ付けたくなったのさ」
時間は経過してしまったがあの時の光景はちゃんと次郎吉の記憶に残っている。泥棒として生きるなら無視し続けるのだが、ビオラの組織に入るとなった以上、潰してさっぱりしたいのが次郎吉の気持ちだ。
後はプラムの話をしなければならない。次郎吉はプラムの戦闘員としての扱いを禁止した。あくまでプラムの仕事は次郎吉のサポートとなる。
「他に要求はないかしら?」
「ないな」
「じゃあ、改めて。ようこそ『アルバ』へ。あなたたちを歓迎するわ。ジロキチ、プラム」
こうして次郎吉はビオラたちの組織『アルバ』の一員となり、命は助かることになるのだった。




