#24 ダークエルフの過去と選択
次郎吉が予定通りグソウとコーネが待つサイアの町に向かっている途中で一旦動きを止める。
「ここまで来れば流石に安全圏だろう。降ろすぞ」
「……はい」
次郎吉が抱えていたダークエルフを一旦降ろした。ここで次郎吉は頭をかく。完全にエルバーン子爵への復讐というか嫌がらせ目的で盗んでしまったダークエルフだったがその後のことを次郎吉は深く考えていなかった。
「さて、どうしたもんかな? というかこの場合はもう俺っちのことなんてどうでもいいか。お前さん、えーっと……」
「わたくしの名前はプラムと申します。泥棒さんのお名前を聞いてもいいですか?」
「あぁ~……俺っちの名前は次郎吉」
次郎吉は自分の名前を教えてもいいか悩んだ挙句、人間とエルフはほぼ繋がっていないこととダークエルフが移動中ずっと自分に抱き着いていたことを考えて教えても大丈夫だと判断した。次郎吉は経験則で女が男に密着する行為は相当な信頼がないとしないことを知っているからだ。
「ジロキチさん。いいお名前ですね」
月光に照らされて笑顔を見せるプラスの姿に次郎吉は見とれる。本来なら人間と異なる姿に恐れを抱くものだがそれを凌駕するほどプラムは次郎吉の好みを捉えていた。次郎吉は咳ばらいをして自分の気持ちを整える。
「んん! それでプラムさん。ぶっちゃけ俺っちはあんたを捕まえていた人間に嫌がらせをするためだけに盗んでしまったわけだが、ここから先は何も考えちゃいない。だからここから先はあんたの自由だ。故郷に帰りたいなら勝手に帰ってくれ。流石に送り届ける余裕は俺っちにはない」
グソウとコーネと合流して依頼を達成した後は消されて終わりだと次郎吉は考えている。次郎吉からしてもやれることはやった。生前と同じように自分の人生に悔いはない。
「わたしくの自由ですか……では一つお聞きしてもいいですか?」
「なんだ?」
「ジロキチさんは結婚したことがある相手でも好きになれますか?」
「はぁ?」
次郎吉からすると意味不明な質問だったが次郎吉はすぐ答える。
「離婚している女が好きになれるかって話か? 俺っちはなれるぜ? 女を好きになる理由に結婚がどうとかそんなもんは関係だろう? 女の見た目、女の心に惹かれて男は女に惚れるんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
次郎吉は凄く単純な男が女を好きになる理屈を話した。しかし結婚しているから無理って男もいるのも事実。ここら辺は好みやその人の思想が絡んでくることになる。少なくとも江戸時代に散々色んな女と遊び、四人も妻を持った男の考えはシンプルなものだった。
次郎吉の答えを聞いたプラムは微笑む。
「ふふ。確かに恋心とはそういうものかも知れませんね。では、ジロキチさん。わたしくを妻に……その年齢では無理ですね。あなたの傍においてくれませんか?」
急に次郎吉が子供であることに触れるプラムだった。次郎吉からするとエルフは完全に未知の存在なので自分が精神年齢おじさんとか普通に見抜かれているかも知れないと思っているだけにこのタイミングでそこに触れてきて呆れる。
「いや、まぁ、話の流れからそうなる気はしていたが……ちょっと待ってくれ。俺っちはこれから殺されるかも知れないんだよ。傍に置くとかそういうことは不可能」
「いいえ。できますよ。わたしくがあなたを殺させませんから」
「凄い自信だな……おい」
この自信はエルフの実力から来るものなのかプラム自身の実力から来るものなのか次郎吉にはわからない。次郎吉がわかることはプラムがもう覚悟を決めて梃子でも動かない状態にありそうということだ。
「はぁ……どうしたもんか。故郷に帰るって選択肢はないのか?」
「ありません。わたしくの心に決めた男性はわたしくを捕まえていた男の仲間に殺されましたから」
ここで次郎吉はプラムの身に何が起きたのか聞くことになる。プラムは魔霧の森で同じダークエルフの男と恋に落ちて一緒に生活していたらしい。
プラムの運命が狂った日はプラムは村ではなく森で夫や他のエルフと一緒に薬草集めをしていた。するといきなり人間が森に侵入してきて男のエルフはその場で殺してエルフの女性を捕まえたそうだ。ただ男たちは村まで攻撃することはなく深追いはせずに撤収。プラムはその男たちからエルバーン子爵の手に渡り、監禁されていたという流れだ。それを聞いた次郎吉は絶句した。
「おいおい……正気か? そいつら? そんなことをしてエルフたちが黙っているのか? 怒らせて戦争にもなったらどうするつもりなんだよ」
「勝てる自信があるということでしょう。実際にわたしくたちの魔法は侵入してきた人間たちに通用しませんでしたから」
「魔法が通用しない? 魔法が無効化されたってことか?」
「はい……恐らく次郎吉さんが足につけている代物と同じ物で魔法を無効化していました。エルフの結界を突破したのも同じ方法でしょう」
プラムの話を聞いて、次郎吉は考える。
「魔法を無効化するソーサリーファクトか? いや、魔法を吸収するソーサリーファクトだな」
魔法を無効化することは一応可能ではあるが全ての魔法を無効化することは理論上不可能だと次郎吉はアーベルトから教わっている。何せ全ての魔法に対して有利が取れる魔法が存在していないので、無効化は不可能という理論だ。
逆に魔法を吸収するだけなら次郎吉は可能だと思った。何せソーサリーファクト自体は魔力を吸収というか充電する機能を持っているのだ。魔法から魔力のみをソーサリーファクトに吸収出来れば魔法を不発させることが可能となる。
(ただそれをどう実現されているのか俺っちにはわからない。アーベルトの爺さんならわかったんだろうけどな。まさかとは思うがそれが理由で命を狙ったわけじゃないよな?)
次郎吉はここで初めてアーベルトのソーサリーファクトを狙った犯行動機以外の可能性が浮かんだがプラムが話しかけてきたので気持ちを切り替える。
「わたしくの話を聞いただけでお判りになるんですね。正解です。わたしくが見たのは魔法が人間が持っている箱に吸い込まれる姿でした。そしてあなたが外してくれた手錠には魔法を使えなくする力がありました」
それを聞いた次郎吉は納得した。エルフの実力なら脱走はもちろんあの場にいた人間全員倒すぐらいは余裕で出来ると思っていたからだ。しかし魔法を封じられていたのなら普通の女性と変わらない。エルフの身体能力がどれほどなのか知らない次郎吉だが腕力だけで手錠を破壊するような存在じゃないことだけはわかった。
ただそれらのソーサリーファクトの開発に成功しても魔法に限界があるのと同じでソーサリーファクトにも限界がある。それを考えると人間とエルフが戦争したら、エルフが勝つと次郎吉は思った。しかしそうなると魔霧の森を襲撃した犯人たちの見方が少し変わる。
バルバリス王国がエルフに対して仕掛けたのだと次郎吉は思っていた。かなりの武力国家らしいので、ありえなくはない。ただエルフにちょっかいを出して、大被害が出たらそれを知った他国からしたら格好の狙い場となる。そんなことを果たしてするのか次郎吉は疑問だったのだ。
考えられるとするならその人間たちがバルバリス王国の人間じゃないパターンだ。エルフとバルバリス王国を戦わせて漁夫の利を狙おうとしているなら話の流れ的には筋が通る。
「どうにもきな臭くなってきたな……あぁ~……やだやだ。どうして平和に人生終わろうとしないかね~」
「その意見には同意いたします。ただジロキチさんは平和に人生を終えようとしているようには見えませんが?」
「まぁ、泥棒なんてしているからな。それでも俺っちなりに平和的に人生終えるつもりではいるぜ? 被害にあう金持ちたちからするとうざいことこの上ないだろうけどな」
生前の次郎吉は世間を騒がしくさせたが平和をぶっ壊すまでは行かなかった。金持ちたちの平和は確実に奪ったけどね。結局最後は捕まって、死刑されて終わり。平和的な終わりといえば終わりと言える。
「そうですか……ではあなたの人生が終えるのを見届けさせてくださいませ」
「あぁ……わかったわかった。それと悪者である俺っちが謝るのも変な話だが、人間が悪いことをして悪かったな」
「ふふ。やはりあなたは悪い人間じゃありませんね。エルフの中にも良いエルフと悪いエルフがいます。人間も同じであることはエルフも分かっていることですから大丈夫ですよ」
「やっぱりそうなのか……生き物はみんなそういう存在になってしまうもんなのかね? とにかく話は終わりだ。まず俺っちの仕事の依頼を終わりにさせてくれ」
次郎吉の言葉にプラムは頷くと次郎吉は再びプラムを抱きかかえると雷速で移動するのだった。




