#22 エルバーン子爵の屋敷
ビオラからの依頼を受けた次郎吉は数日待つことになった。その数日で次郎吉はソーサリーファクトの準備と吹き飛んだお店の後始末に使う。次郎吉がお店の掃除をしているとコーネがやって来た。
「ビオラさんからエルバーン子爵の情報よ」
「情報くれるために待ってほしいと言ったわけね……それじゃあ、見させて貰おうか。おぉ~。これは凄いな。屋敷の地図があるじゃん。後は家族構成に直近の予定まで。よくこんなもの手に入れれたもんだな」
「それは」
「あぁ~。言わなくていいぞ。というか俺っちに教えるな。今は共闘しているがこの先敵対する可能性もあるんだからな」
コーネは結構口が軽そうなのが密偵として致命的な欠点だと次郎吉は思った。後、人を信じやすいところもだ。アーベルトが言っていたが基本的には善人なのだろう。するともう一人、現代で言うところの配達のお兄さんっぽい男性がお店に入って来る。
「グソウさん」
彼がビオラが言っていたもう一人のお目付け役だ。組織での役割はメンバーを現地に送り届ける運搬役らしい。そりゃあ魔道車を運転できるならそういう役回りになるだろう。それだけこの世界において魔道車は万能の乗り物と言っていい。
彼の特徴は黒のアイパッチと緑の帽子がトレードマークで髪の毛は短髪黒髪の寝癖放置タイプだ。
「行くかい?」
「あぁ。すぐに出たい。明日開かれるパーティーとやらを狙わせてもらうよ」
「了解。準備出来たら、車に乗りな。俺のいつでも行けるからよ」
「そいつは助かる」
ここで次郎吉はコーネを見るとため息をつく。するとコーネに頭を叩かれた。
「その意味深なため息をやめろー!」
「グソウさんとコーネを比べるとな……」
「わざわざ言わなくていい!」
「ははは! コーネちゃんと俺と比べるのはダメだぜ? 俺のほうがずっと先輩だからな」
コーネがうんうんと頷いているがそこであっさり負けを認めてしまうのがダメなところだと次郎吉は思った。そして次郎吉は準備したものを車に乗せると三人はカリアの村に向けて出発した。
「今からだと夜にはカリアの村に付くぜ」
「それは好都合だな。手前のムーリオンの村近くで下ろしてくれ。合流地点はサイアの町の酒場にしよう」
「手馴れているな。了解だ」
ムーリオンの村は風車がいっぱいある丘陵にある村で位置的にはカリアの村とファクトライドの町の中間にあり、カリアの村寄りの位置だ。
サイアの町はカリアの村から見て上に二つの村を超えた先にある町となっている。この町は他国と完全に接している町で貿易で栄えた町だ。貿易の町なので当然魔道車は多い。普通の村で魔道車が目撃されると目立つからな。なのでムーリオンの村に入ることもない。
そんなわけで三人はムーリオンの村近郊まで一緒に移動すると次郎吉とはここで別れる。
「一応確認しておくが仕事の内容はエルバーン子爵の悪事の証拠だけでいいんだな? たぶんあいつらがコーネのソーサリーファクトを持っているはずだが」
「え? あ、じゃあ取り返して」
「裏社会で普通に出回っている代物だからそれを証拠に俺たちの組織に恐らく辿り着けないから無視でいい。最悪こっちで回収するからな」
「なるほどね。じゃあ、俺っちは俺っちの仕事に集中させて貰うぜ」
恐らく弁償になる頬を膨らませているコーネを無視して次郎吉は夜の間動き続けると深夜にカリアの村に到着する。次郎吉は人がいないことを確認した上で村に侵入し、牛舎の屋根裏に隠れて朝を迎える。
時刻は夕方となると次々魔道車がカリアの村にやって来た。
(おーおー。俺っちが良く知る奴らがちらほらいるな)
子爵が主催するパーティーなので周辺の男爵たちが集まるのは当然であり、同じ子爵の地位の人間も呼ばれるだろう。それ以上の地位の人間も呼ばれることもあるだろうが果たしてどうなるかまだわからない。次郎吉が分かるのは次郎吉が泥棒に入ったことがある男爵や貴族の地位にはいない政治家がいることだけだ。
そして人が集まり、屋敷の門が閉められるといよいよパーティーが始まる。それを確認した次郎吉はほっかむりを装備する。
「お仕置きの時間だ。エルバーン子爵。鼠小僧がやって来るぞ!」
次郎吉がそういうと行動を開始した。まず次郎吉が使ったのは透明になるソーサリーファクトだ。以前使用した擬態を用いたソーサリーファクトではなく光を透過、回折させるソーサリーファクトに進化している。
これは完全に光学迷彩と言っていい代物だが致命的な弱点がある。それはこちらかも外の情報が見えなくなるという弱点だ。理論的には次郎吉の周囲を正四角柱の壁で囲って、その壁が光を透過、回折させる作りになっている。
つまり次郎吉からするとサイコロの中にいる状態となっており、壁が透明なら外の景色が見えるのだが、今のところの理論だと透明な壁は不可能だった。
なので足跡や物音をたてないように慎重に進む必要がある。ちゃんと人の気配を読んで正門から堂々と向かっていく。これにはちゃんと理由があった。
まず正門の見張りは基本的には動かない。門を守っているんだから当然と言えば当然だ。更に人数も多いからわざわざ動いて周辺警戒する必要性がない。次郎吉からすると動いて自分とぶつかると存在がバレてしまうので敢えて正門を侵入経路に選んだ。
そして次郎吉は見事に正門の結界に触れるとハッキングに成功し、次郎吉は自分の体重を軽くするソーサリーファクトを発動されると正門を飛び越えて屋敷の屋根に電磁浮遊を使って着地する。
次に次郎吉が使うのは指輪タイプのソーサリーファクト。スイッチを入れると指輪の先から細い水流が発生し、屋根を音もなく切断していく。これは現代でいうところのウォーターカッターだ。超高圧で細い水流をぶつけることで物を切断する技術で金属からゴムまでなんでも切断することできる。
次郎吉は音の小ささと目立たないところに目を付けてこの技術を採用した。ガスやプラズマ、レーザーなどは光を放つのでどうしても目立ってしまうからウォーターカッターを選択するしかなかったともいえる。
屋根を開けて屋根裏に侵入することに成功した次郎吉は一旦全てのソーサリーファクトのスイッチを切り、屋敷の様子を伺う。
ビオラから渡された地図によるとこの屋敷は四階構造。パーティーが開かれているであろう大広間は二階にある。三階が使用人たちの部屋で四階がエルバーン子爵の家族が使っている。権力者はどうして上の住みたがるのか次郎吉には理解できないが屋根裏から侵入する泥棒からすると楽でしょうがない。
次郎吉は書斎がある部屋に向かい、気配を読み、人がいないことを確認すると屋根裏の床をウォーターカッターで切断する。
(危ない……危ない……流石に子爵となると防犯意識が高いな)
次郎吉がモノクルタイプのソーサリーファクトを付けて、スイッチを押すと防犯センサーの光線を確認する。次郎吉はここで手袋を変える。変えた手袋は吸盤の力を持っているソーサリーファクトだ。風属性のソーサリーファクトで気圧を利用している。
これで次郎吉は逆さまのまま上を歩いていくと防犯センサーのソーサリーファクトを自分が最初に発明したソーサリーファクトを進化されてソーサリーファクト全体を闇に包み込むソーサリーファクトを使って完全に無力化させた。
全てのソーサリーファクトを無効化した次郎吉は目当ての不正の証拠を机から探すと次々と書類が出てきた。
(基本的には他国との不正な取引だな。どれだけ必要か教えてもらってなかったが見つかった分だけ持てばいいか。後はソーサリーファクトの金庫だな)
次郎吉は手袋を付け替えて、ソーサリーファクトの金庫に手袋で売れると暗証番号を解読して次郎吉が入力すると解錠に成功し、金も盗む。市販に売られているようなソーサリーファクトの金庫では今の次郎吉は止められない。そもそもアーベルトがどういう仕組みなのか全部知っていたのだ。仕組みがバレている防犯装置なら突破方法はいくらでも考えられる。
さて、今回の仕事の内容が不正の証拠だったが金を盗むのが禁止とは言われていない。元々泥棒としての復讐が目的なのだ。これぐらいはやらないと次郎吉の腹の虫は収まらない。
後は撤収するだけだ。手袋を持ち替えて、天井に張り付くと防犯センサーを無効化するソーサリーファクトを回収すると侵入経路から屋根裏に戻ると一度透明になるソーサリーファクトの魔力コアを予備と交換する。
大掛かりのソーサリーファクトなのでコスパが悪いのも難点。しかしそれだけの価値があるソーサリーファクトとも言える。ここで次郎吉は逃げるはずだったのだが、何やら重い音が外から聞こえてきた。次郎吉が屋根から音が聞こえたほうを見ると地面に穴が開いていた。
(地下室か。ビオラさんから貰った屋敷の図面には無かったな)
恐らく後から追加した部屋なのだろう。これはお宝の臭いがするのもしょうがないことだ。お宝の臭いがしたら泥棒としては行かないといけない。そんなわけで延長戦が決定するのだった。




