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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
幼年・少年期編
21/38

#21 殺し屋との再会と依頼

次郎吉の周囲に人払いの結界が展開された瞬間、次郎吉は前に飛んで転がると背後から何者かの斬撃を受ける。


「やっぱり躱すか」


「お前は屋敷であった……ッ!?」


次郎吉を背後から襲ったのは次郎吉が生まれた屋敷で襲ってきた殺し屋だった。次郎吉が殺し屋を認識した途端、小石がとんでもない速度で次郎吉の額に向けて飛来してくる。それを次郎吉は反射神経だけで躱すと小石がぶつかった地面が衝撃波と共に砂埃が舞う。


それを認識した次郎吉は砂煙の中に逃げ込もうとしたが殺し屋も距離を詰めてきた。


「ちょっとお待ち! ゲオリオ! クイン!」


「なんでジロキチを殺そうとしてるの!? やめてよ!」


二人が止めたことで一旦殺し屋の刃が止まる。


「姐さん。コーネ。悪いが止めないでくれるか? 俺がシャギー伯爵の家でやり損ねた子供がこいつなんだ」


「そんなことは分かっているよ。結界を解きな。こんな真昼間の町中でドンパチ始めるんじゃないよ。全く……そこのあんたも逃げるなんてしないでおくれよ」


「俺っちがどう行動するかはあんたら次第だと思うが?」


次郎吉とビオラが視線でぶつかり合うとビオラが笑む。


「なるほど……これは一級品だね。確かにあんたの言う通りさね。あんたら、この子供に手出しするんじゃないよ。まずは二人で話させておくれ」


「姐さん。悪いがそれは賛同できないね。俺も話し合いに加わらせてくれ。俺にはその権利があるだろう?」


「それはそうだね。でもそれを決める決定権はこの子にあるよ」


「俺っちは構わないぜ。どうせ遠距離から狙われているんだ。近くに殺し屋がいても死ぬことに変わりはないからな」


次郎吉はそういうと四つのビルを指差した。そこはビオラが配置した組織の人間がいるビルだった。


「肝が据わっているじゃないか」


「犯罪を犯しているんだ。死ぬ覚悟ぐらい決めているのは当然だろ?」


「それはそうさね。コーネ。この子があんたの知り合いならこの子から少し悪党について学ぶといいよ」


「う……!?」


さらりとビオラから次郎吉以下だと評価されるコーネであった。一時休戦してまずはビオラ、コーネ、ゲオリオと呼ばれた殺し屋、次郎吉の四人で話し合うことになる。まずはコーネからことの成り行きが話されて、コーネの情報を次郎吉が保管していく。


「アーベルトさんが養子を新しく向かい入れた情報は入っていたけど、まさかあたしらが探している泥棒の子供とは流石に思わなかったわ」


「完全にノーマークだったな。俺たちの情報網に引っかからないから何か絡繰りがあるとは思っていたがまさか世界屈指の魔道技師の養子になっているとは誰も考えつかないでしょ。これ」


これがビオラとゲオリオの次郎吉に対する感想だった。それと同時に次郎吉はアーベルトに守られていたことに気づくことになる。元々そうなる可能性があるとは次郎吉もアーベルトの弟子入りする時に考えてはいたが想像以上の効果があったらしい。


「ま、そりゃそうだろうな。それで話を聞いたうえでどうする?」


「どうしようかしらね……いくつか確認していいかしら?」


「いいぜ」


「まず一つ。ゲオリオのことを誰かに話したかしら?」


ここはまず裏組織としては知っておかないといけないところだろう。次郎吉は即答する


「いいや。アーベルトの爺さんにさえ俺っちが殺し屋に狙われていることを伝えてねーよ」


「本当だな?」


「あぁ。こう見えて裏社会の最低限のルールぐらいは守るつもりでいるぜ?」


ビオラとゲオリオが視線を合わせると頷く。二人は次郎吉が本当のことを話していると意見が一致したようだ。ここでの裏社会のルールとは犯罪者が犯罪者の情報を他人に漏らさないという暗黙のルールだ。


犯罪者同士の情報のやり取りは普通にある。だがソリスや一般人に犯罪者の情報を流すのはルール違反。それをした瞬間、命を狙われても文句は言えない。それだけの重罪だ。


「そう。それなら信じされて貰おうかしら。じゃあ、次の話よ。話からするとあなたがアーベルトさんの財産を相続したということでいいのかしら?」


「そうだ」


「そうなの!?」


コーネはこの時、初めて次郎吉に全て取られたことを知るのだった。


「言っとくが俺っちは取引なんてしないからな? ソーサリーファクトが欲しいなら他を当たってくれ。因みにもう罠に引っかかったあんたらならわかると思うが俺っちを殺してもアーベルトの爺さんのソーサリーファクトが手に入ることはないからな」


次郎吉は牽制球を投げた。ビオラたちが暗証番号付きのソーサリーファクトに触れたことと解除に失敗したことを次郎吉は分かっていた。ちゃんとその情報を次郎吉に伝えるソーサリーファクトを次郎吉は開発していたのだ。


だからこそ次郎吉は警戒したし、ビオラたちの動きにも気づけた。つまり次郎吉視点ではビオラたちは明確にアーベルトのソーサリーファクトを狙った盗人集団に見えていたわけだ。


「あれ以外にも罠があるのか」


「部屋の壁を破壊する方法と強引に侵入する方法、後は時間制限で罠が発動するようになっている。この罠が発動すると中にあるソーサリーファクトは全て魔力暴走を起こして自爆するらしい。アーベルトの爺さん曰く、これで町が一つ吹き飛んでも儂は一切責任取らんらしいぜ?」


これを聞いたビオラとゲオリオは流石に引く。魔力暴走とは魔力の制御不能状態のことを言う。魔法使いだと感情が高まり、魔力コアで貯蔵量を超える魔力が生産されると魔力が制御不可能となり、外に魔力を強引に放出することになる。そうなると外のマナに魔力が魔法反応を起こして制御不能となった魔法が周囲に放たれることになるのだ。これはよく新聞に載るほど起きる事故だ。


ソーサリーファクトでは設計ミスをした結果、魔力が暴走して大爆発を起こすことになる。これが発生するとソーサリーファクトに組み込んだ魔法陣や魔力ラインなどが全部吹っ飛ぶことになるのでソーサリーファクトは完全な鉄くずとなってしまうのだ。ある意味一番簡単でソーサリーファクトの情報を一切残さない最強の処理方法と言える。


ただ爆発が起きるので、被害が出るところに問題がある。これが一つだけなら問題は少ないがアーベルトほどの世界的な魔道技師が保有する全てのソーサリーファクトの連鎖爆発となると話は変わって来る。


次郎吉がアーベルトから聞いた話では最低でもお店は吹き飛ぶ。最悪の場合だと町ごと吹っ飛ばすかも知れないとのこと。それを聞いた次郎吉はアーベルトのやばさを認識したのは言うまでもない。


「おいおい……」


「危なかったわね……」


ビオラとゲオリオほどの大人になると流石にある程度の被害の予想は付くらしい。それだけこの二人は経験が豊富である証拠だ。


「わかったわ。アーベルトさんのソーサリーファクトは諦めましょう。後はあなたの目的ね。話を聞いている感じだとコーネと同じアーベルトさんの死に追いやった奴らを狙っている感じだけど?」


「今はそうだな。ただ命を狙っているわけじゃないぜ? 何せ俺っちは泥棒だ。そっちの兄さんのように人殺しじゃない」


「噓でしょ!? 敵討ちを一緒にしてくれるんじゃないの!?」


「いつそんな話を俺っちがしたんだよ」


コーネは完全に次郎吉と一緒に敵討ちをする気満々だったらしい。だが次郎吉はそんなつもりはなかった。


「あなたは何を狙っているのかしら?」


「もちろん金さ。もしくはあいつが大切にしている宝でもなんでもいい。とにかく俺っちは泥棒としてアーベルトの爺さんを死に追いやった奴らに復讐する。俺っちがあんたらにお願いすることがあるとするなら俺っちが復讐を終えるまで殺すのを待ってほしいくらいだな。それが終わった後なら俺っちの首くらいくれてやるよ」


次郎吉の覚悟と目的、要求を聞いたビオラとゲオリオが二人で一旦話をするために離席するとコーネが聞いてきた。


「ジロキチはそんな復讐で満足いくの?」


「いくわけないだろ? 復讐心を舐めるな? 人間が持つ感情の中で最も強い負の感情だぞ。俺っちだって内心はぶっ殺したいと思っているさ。だが俺っちの信念がそれを許さない。俺っちは泥棒として生き泥棒として死ぬと決めているからな。お前が犯罪者を続けるなら覚えておくといい。信念を最後まで貫き通した者が強く、信念を曲げた者は弱い」


コーネは次郎吉の言葉に息を呑む。それは人生の最後まで信念を貫き通した男の言葉だ。言葉の重みが別次元でそれをコーネは感じたのだった。ここでビオラとゲオリオが帰って来る。


「お持たせ。結論が出たわ。次郎吉くん。一つ私たちの依頼を受けてくれないかしら?」


「依頼だと?」


「えぇ。内容はエルバーン子爵の不正をしている証拠の窃盗よ」


ビオラの提案を聞いた次郎吉が思考が止まる。すると次郎吉の気持ちをコーネが代弁してくれる。


「ちょっと待って! ビオラさん! それはあたしの仕事じゃないの!?」


「そうね。でもコーネはもう顔が知られているんでしょ? そんな状態で密偵が出来るのかしら?」


「う……」


一応幻を作り出すソーサリーファクトで姿を誤魔化すことは出来る。ただそれを使うにしても難易度は高いだろう。更に言うとソーサリーファクトを常時発動していないといけないことを考えるとコスパが悪い。


「専門外ではあるがそれをして俺っちになんの得があるって言うんだ?」


「エルバーン子爵をあたしたちが殺してあげるわ」


これは予想外の提案が来たものだ。


「……なるほどね。つまり俺っちに人殺しの手助けをしろってことか」


「簡単に言うとそうなるわね」


次郎吉は考える。やることは盗みだ。それは泥棒の範囲内だろう。しかしその結果の果ては人殺しに繋がっている。ただこれを人殺しと判断するかどうかだな。現代の法律でいうと殺人教唆(さつじんきょうさ)に該当するかという話だ。


殺人教唆とは他人をそそのかして他人が殺人を犯した場合、そそのかした人が殺人教唆を行った人となる。今回の場合だと次郎吉が渡した物をきっかけに殺人が行われるとした場合殺人教唆が成立するかどうかだ。


因みにビオラは教唆が成立している。次郎吉に盗むようにそそのかしているからね。


「魅力的な提案ではあるが……どうしたもんかなぁ」


不正をしている証拠を盗んで渡しただけで殺人教唆になるかと考えると微妙だ。結果殺人が行われると知らなければ間違いなく教唆は成立しない。ここは泥棒としての次郎吉が判断を下す。


「あんたたちが不正をしている証拠を買うというならその依頼を受けてもいい」


「なるほど。あくまで泥棒としての商売とするわけね。なら交渉成立ね。悪いけど、お目付け役にコーネともう一人付けされて貰うわ」


「俺っちに逃げられてもしょうがないからな」


「話が早くて助かるわ。因みにお目付け役の一人は魔道車の運転が出来る子だから好きに使ってちょうだい」


移動手段の提供は次郎吉からすると非常にありがたい。こうして一旦この場は休戦という形で終わり、エルバーン子爵へのお仕置きは協力体制を取ることになるのだった。

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