#20 コーネの組織
次郎吉はべリアの村から一気にファクトライドの町まで一夜で移動した。おかげで靴のソーサリーファクトは魔力切れとなってしまったが犯人の組織がこの周辺で活動していることはほぼ確定と考えると情報の網に引っかかる前に離脱したほうがいいと次郎吉は考えた。
しかし次郎吉はすぐに家に帰ることはせずに宿屋で泊まることにした。これにはちゃんと訳がある。朝になるとコーネが起きる。
「ん~! よく寝た~!」
「直前まで男たちに縛らせて捕まっていた上に尻まで触られてた女が言う言葉じゃないぞ。ある意味、大物だな。お前」
「へ? あ、あぁ~! 思い出した! って? あれ? ここは? それにあなたは確か」
「アーベルトの爺さんにお世話になってた泥棒だよ。お前さんを男たちから盗み出したのは俺っちな。そのスケベ衣装で俺っちに多大な感謝しろよ? 宿屋の店主が俺っちを見る目がやばかったんだからな」
姉としたが姉がこんなスケベな衣装付けてぐっすり寝ていたら、色々変な妄想されてしまうのはしょうがないことと言える。
「スケベ衣装って……ひ!? ち、違うの! これはあたしの趣味とかそういうのじゃなくて! ビ……じゃない。この衣装を用意した人の趣味で!」
コーネは布団から自分の衣装を確認すると密偵の衣装であることに気が付いてそれを次郎吉に見られたことを考えると脳がパニックになる。
「そういう反応は胸がもう少し大きくなってからにしろ」
次郎吉がそういうとコーネは枕を次郎吉に投げつけた。
「うるさい! あるにはあるでしょうが! それにまだ成長期なのよ! 後、密偵は胸がないほうが動きやすくていいの!」
「そこは否定しない。お色気戦法は特殊性癖の人にしか使えなくなるがな。ほらよ」
次郎吉は夜の内に勝ってきた女性の服をコーネに渡す。普通の男だと無理だが、子供の姿だとお買い物のお手伝いという名目があるので便利だ。
「へ? 服?」
「その格好で外を出歩くつもりか? 後、悪いが男の俺っちに服の良し悪しを求めるなよ」
そういうと次郎吉は部屋の外に出て、朝食の買い物に行く。それを見てコーネは言う。
「スケベな子供だと思っていたけど、案外気が利くんだ」
そういうとコーネは次郎吉が用意した服装に着替えるのだった。その後、朝食を買ってきた次郎吉が部屋のドアをノックしてコーネの許可を得てから部屋に入る。
「どうして服のサイズがぴったりなのよ……」
「俺っちを誰だと思っているんだ? 次郎吉様だぞ? 女の体形くらい一目見ればわかるわ」
江戸時代に女遊びをしまくった男の経験値は伊達ではなかった。その後、朝食を食べることになるのだが、コーネは凄い勢いで食べる。どれくらい捕まっていたのか謎だが、結構な期間食べていなかったのだろう。多めに買ってきた朝食が一瞬で消えた。
「ふぅ……生き返った!」
「そいつはよかったな。それでそろそろ話を聞かせてもらおうか?」
「あ……。そうだね。助けてもらったみたいだし、あたしが話せることは話してもいいよ」
次郎吉からすると悪人ならここでとんずらを選択するべきだと思った。なぜなら次郎吉が勝手に恩を売ってきている状態なのだ。そんなことは頼んでいないと言われるとそれで詰む。コーネが善人で助かったと次郎吉が思うのはしょうがない。
ここでコーネの話を聞くと大体は次郎吉の予想通りの流れだった。コーネは魔道車のエンブレムを頼りに次郎吉がグレスの町から逃げ出した際に最初に立ち寄った荒野の村として知られているアセドの村で待ち伏せを食らって捕まってしまう。コーネはそこで気を失い、気が付くと縛られた状態で犯人たちのボスと面会した。
「あいつらの雇い主か何かと出会ったのか!?」
「うん。お爺ちゃんをなぜ襲ったのか色々自慢げに話してくれたよ」
「どれだけ馬鹿なんだ? そいつ」
アーベルトの爺さんを自殺に追い込んだ黒幕がそんな間抜けだと知った次郎吉は頭が痛くなるのだった。密偵に姿を見せるのもアウトだし、密偵に情報を話すのもアウトだ。よほど自分の思った通りに事が運んで嬉しかったんだろうが悪者としては三流以下という評価を次郎吉は下した。
そしてコーネから情報が引き出される。黒幕の正体はエルバーン子爵。次郎吉がグレスの町から逃げ出したときに立ち寄ったカリアの村にあった屋敷に住んでいる人物だ。
「あいつか……なるほどね」
犯人を知った次郎吉は納得する。何せエルバーン子爵から次郎吉は女の臭いを感知している。部下から女の密偵を捕まえた報告を受けて自分のもとに連れてこいと命令したんだろう。女好きなら取りそうな行動だ。
その後、コーネから情報を聞き出そうとセクハラは受けたが酷いことはされなかったらしい。その理由がコーネを他国の奴隷オークションに出品するのが目的だったそうだ。しかしここでコーネは場所を移されてあの洞窟に監禁されることになる。なぜ場所を移したかはコーネにも謎だった。
後は次郎吉が見たように水だけ与えてつつセクハラを繰り返してコーネから情報を聞き出そうと部下たちが頑張っていたわけだ。
「あいつらも性欲我慢するの大変だっただろうな。同情するよ」
「あたしにも同情してよ! 見たくもないものを見せられたんだから!」
次郎吉は男たちが何をしたのか容易に想像ついたがそこには触れないことにした。男のそんな話を聞いても不快なだけだからな。
「はいはい……よく頑張ったな。それにちゃんと密偵の仕事が出来るんじゃないか」
「まあね!」
「捕まってだけどな」
「一言多いわよ! そこには触れないで! 本気で凹むから!」
とにかくこれで次郎吉の次の標的が決まった。ただすぐに行動を移せない。
「どうしたのよ? あなたの家はお爺ちゃんの家じゃないの?」
「そうなんだが……見張られていてな。帰ろうにも帰れないんだよ」
次郎吉は自分の家が複数人に見張られていることに気が付いて家に帰ることを断念したのだ。
「もしかしてあいつら?」
「いや、もっとちゃんとした組織だな」
「ちゃんとした組織……もしかして!」
コーネはそういうとアーベルトの爺さんの家に走り出した。次郎吉は気配を消して、遠目で様子を伺うとコーネの前に成熟した女性が現れた。
「コーネ!」
「ビオラさん!」
二人が出会うと周囲を覆っていた監視の目が消えた。どうやらコーネが所属していた組織がここを見張っていたらしい。
「どこにいたのよ! アーベルトさんが自殺したニュースを知ってたからあなた一度も連絡してこなかったでしょ!」
「あ……あぁ……それは……その……こちらにも事情がありまして……」
「まさかあなた悪者を捕まえに行こうとして逆に捕まっていたりしないわよね?」
ビオラの鋭い指摘にコーネがビクッとしたことでビオラは確信する。
「コーネ! まさかあなたあたしたちの情報を!」
「話してません! あ、でも……ソーサリーファクトや持ち物は取られちゃいました……」
「はぁあああ!?」
ビオラが頭を押さえてふらつく。出来が悪い部下を持つと上に立つ人間は大変だねと次郎吉は思うのだった。
「早く手を打たないとまずいわね……というかコーネ、捕まったのにどうして無事なのよ」
「あ、それは助けてくれた子供がいたからです! ジロキチ! こっちにきて!」
呼ばれた次郎吉が気配を解いた瞬間、次郎吉は二つの殺気を感じるのだった。




