#18 極悪人でも感情がある人間
次郎吉はアーベルトのお店から出ると消防とソリスが集まってきて、次郎吉は保護される。するとそこにコーネがやって来た。
「あいつらは?」
「ごめん……逃がした……まさか街中で魔術まで使用してくるとは思わなかったわ」
「こっちはソーサリーファクトを使っているんだ。魔法や魔術を使えるなら使ってくるわな」
応戦しないと捕まるのはあいつらとなる。追いかけっこしたら、恐らく魔力切れを先に起こすのはコーネだと思われるがコーネがどんなソーサリーファクトを持っているのかわからないことを考えると応戦を選択せざるを得ないだろう。
ここで次郎吉たちは消防とソリスから取り調べを受ける。そこで次郎吉たちはアーベルトの養子であることを伝えて実際に調べてもらうとちゃんと証拠が出てきたので、次郎吉たちの証言は比較的信じて貰える流れになった。
次郎吉たちはここで怪しい魔道車が複数おり、車の車体にあったエンブレムについて話した。現代の車ではナンバープレートがあるがこの世界の魔道車はエンブレムで持ち主を特定する。というのもこのエンブレムが日本でいうところの家紋に当たり、魔道車は基本的に金持ちしか持てないので簡単に持ち主がわかるシステムだ。もちろん家主だけでなく商売人にもエンブレムが割り振られている。
しかしこれで簡単に特定させるわけがない。現代と同じで不正にエンブレムを変えてしまえば誰が持ち主かわからなくなる。もちろんそれをすると犯罪となり、しかも魔道車は現代と同じでメンテナンスが必要だ。そこで見つかるリスクが非常に高い。しかし犯罪者側もそういうことを知っているので手は打つ。例えば余分にお金を払うことで修理会社を黙らせるとかね。
そういうことをさせることを知っている次郎吉からするとエンブレムでの特定は難しいと思いながらも伝えるべきことは伝えないといけない。何せアーベルトの命を奪った犯人たちだ。次郎吉が情報を出し惜しむ必要はない。
その後消火活動が終わると次郎吉たちにアーベルトの死とお店が半焼したことを伝えられた。どうやら被害は一階のお店付近だけで終わったらしい。ただその情報の中にとんでもない内容が含まれていた。コーネが消防隊員に詰め寄る。
「おじいちゃんが自殺!? ちょ、ちょっと待ってよ! あたしたちは怪しい魔道車が複数お店から出てきたところを見ているんだよ? 自殺なんてありえない!」
「気持ちはわかるけどね。お嬢ちゃん。残念ながら現場を調べたソリスがそう判断したんだ。わかってくれ」
「そんなことわかるもんか!」
そういうとコーネは消防署から飛び出して行ってしまった。
(あの様子だと一人で敵討ちか何かしようだな)
ここで次郎吉はアーベルトの言葉を思い出す。
(コーネのこと、よろしく頼むか……とんでもない遺言を残してくれるなよ。アーベルトの爺さん)
次郎吉はため息をつくと消防の人に自分がこれからどうするか質問される。次郎吉はアーベルトの爺さんのお店に帰らせてほしいとお願いしてソリスが調査を終えるまでに消防の人が面倒臭い手続きを全部やってくれるとアーベルトの全財産は次郎吉の物になるという形になった。
これはアーベルトが仕込んだ物で市役所に遺言を残しており、自分が死んだときは全財産を次郎吉の物にするというのが残っていたらしい。その結果、次郎吉はアーベルトの爺さんが所有していたお店兼家とソーサリーファクト、アーベルトの爺さんの持ち物や持ち金の全てを継承することになった。
(俺っちを養子にしたのはこれが目的だな。アーベルトの爺さん)
アーベルトは死後自分のソーサリーファクトが人殺しの道具にされる可能性を恐れていた。それをさせないために地下の開発室にはちゃんと対策を用意していたのだが、確実に守るなら信用に足りる人物に任せるのが一番安心できるだろう。
(いいぜ。それであんたが天国で心安かに眠れるなら任されてやるよ)
ここでソリスの調査が終わり、お店に帰ることを許された次郎吉だったが外はもう夜になっていた。
「ふぅ……さて、やることをやりますか」
次郎吉は気持ちを落ち着かせるとアーベルトのお店の中を調べる。するとお店の奥と地下の開発室が無事であることを確認した。
「自分と俺っちのソーサリーファクトを守ったんだな。アーベルトの爺さん」
次郎吉はここにきて、ソリスの調査結果が事実の可能性が高くなったと思った。
(恐らくアーベルトの爺さんを襲った奴らはアーベルトの爺さんが作ったソーサリーファクトを狙った奴らだろう。コーネがいる組織が狙っているくらいなんだ。多くの悪の組織から狙われても不思議じゃない。俺っちは知らなかったがずっと交渉していてアーベルトの爺さんが断り続けたことで遂に強硬手段に出た感じか? いや、アーベルトの爺さんがソーサリーファクトをたくさん作るまで待っていた可能性もあるか)
次郎吉は開発室に行くと自分のお金やアーベルトの爺さんと自分が作ったソーサリーファクトの無事を確認した。そしてお店の上にある部屋に入り、部屋が荒らされていないことを確認すると目を閉じて思考する。
「ソーサリーファクトを手に入れられなかったとしたらあいつらがまた来る可能性も高いがどうしたものか。ってそうか。俺っちから財産権を奪うなり、家ごと俺っちから所有権を奪う手段もあいつらは取れるのか」
事務所で調べてばアーベルトの爺さんの財産が誰のものになったのか調べるのは簡単だ。そして次郎吉はまだ子供。現時点では問題ないかもしれないが裁判などになると面倒臭いことになると次郎吉は思った。
「なら待つ選択肢はなしだな。あいつらもソリスが警戒している中、すぐには動けない。それなら今が攻め時だな。だが犯人を絞る何かがないと無理だ。思い出せ。あいつらの姿を。何かないか? 個人を特定できそうな物」
次郎吉は自分の記憶を辿ると犯人の一人が身に着けていた物を思い出した。
「服につけられていたバッチ……あれに賭けてみるか」
次郎吉はそういうと眠りについた。
翌朝、次郎吉はとある人物を見つける。
「ッ!?」
「見つけたぜ? 下着泥棒のおっさん」
次郎吉が探していたのは以前次郎吉と変態勝負をした下着泥棒の変態紳士だった。その下着泥棒の変態紳士は今、冷や汗をかいている。自分が一切気配を感じることなくいきなり背後から悪意を感じたことに驚いたのだ。
「な、なんだ。お前さんか……脅かすじゃない。寿命が縮んだぞ」
「それは困るな。あんたと交渉したい。交渉材料は服を透過出来るソーサリーファクトだ」
「……ほぅ。では、場所を移るとするか。付いてきなさい」
次郎吉は町の路地裏にある一つのバーに通された。そこには悪人がたくさんいた。
「あん? なんだ? このちび助?」
「おいおい。ホーキング。子育てでもはじめ」
「「「「ッ!?」」」」
悪人たちに寒気が襲い掛かった。それが今、自分たちとすれ違った子供から放たれたものだと知り、戦慄する。そしてホーキングと呼ばれた下着泥棒の変態紳士と次郎吉が店の奥の部屋に消えると全員が一斉に息を吐く。
「な、なんだ? あのちび助……おっかねー」
「子供が放つ怒気じゃねーぞ」
「ホーキングさんの客人だ。分かっていると思うがあの子については他言無用だぞ。下手に関わると自分の首を絞めつけることになるからな」
バーカウンターを任せていたおじさんが悪人たちに注意喚起すると悪人たちは頷いて、お店の奥の部屋を見るのだった。
「さて、何が起きた?」
「昨日の爆発事件のことは知っているだろ? 実は俺っちはアーベルトの爺さんの養子でね。ちょっとこれについてあんたに調べてほしいだよ」
次郎吉は映像を映す水晶タイプのソーサリーファクトで犯人の一人が身に着けていたバッチをホーキングに見せる。
「バッチか……どうして私にお願いするんだ?」
「あんたの年齢でソリスに捕まっていないことを考えると相当裏社会に詳しんじゃないかと踏んだ。違うか?」
「まぁ、色々な悪人との繋がりは確かだな。しかしこのバッチの情報を得てどうするつもりだ? 復讐でもするつもりなのかな?」
「復讐はさせてもらうが人殺しはしねーよ。俺っちは泥棒であって殺人鬼じゃないからな。ただどんな極悪人でも感情がある人間だ。俺っちなりの義理人情は通させてもらう」
次郎吉の言葉にホーキングは笑みを浮かべる。
「確かに裏社会にもルールがあり、人としての正しさは求めるものだな。いいだろう。交渉に応じてあげよう」
次郎吉はホーキングに服を透過出来るソーサリーファクトを渡した。
「時間は貰うぞ。受け取りたまえ」
「これは通信のソーサリーファクトか……いいのか? 俺っちにこんなもの渡して」
「かまわん。私は君のことを気に入っているのでね。後、私のことはホーキングと呼び捨てていいよ」
「そうかい。じゃ、俺っちのことはジロキチと呼んでくれ。これはありがたく貰っていくぜ」
次郎吉はここでお店に出るとホーキングとバーカウンターのおじさんが会話する。
「良かったのかい? ホーキング」
「あぁ……善人でも悪人でも一本筋を通している人間は強い。特に悪人であそこまでぶれずに筋を通している人間は稀だ。あいつは大物になるぞ」
「そりゃあ、あんな子供が大人に成長したらとんでもない悪人にはなるだろうね。唾つけておくのも悪くないか」
「そういうことだ」
出されたお酒を飲むとホーキングは早速バッチを元にアーベルトの自殺に追いやった犯人捜しを始めるのだった。
家紋:家族や個人が持つ紋章またはシンボルの一種。自らの家系の象徴として使用される。現代では結婚式や葬式、美術品、建造物に用いられる。




