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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
幼年・少年期編
16/38

#16 もう一人の養子

次郎吉がアーベルトと出会ってから7年の歳月が立った。次郎吉は10歳となり、次郎吉の運命を大きく変える運命の日を迎えることになった。


次郎吉はその日、アーベルトから頼まれたソーサリーファクトの部品の買い出しを終え帰宅すると家の中から聞いたことがない女の声が聞こえてきた。


「おじいちゃんのソーサリーファクトが必要なの! お金はあるんだから売ってよ!」


「だから何に使うか言わんか! この親不孝者の家出娘! 儂は使用用途不明な人間にソーサリーファクトは売らん!」


「国には売って戦争の道具にしたくせに! もういい! お爺ちゃんにはもうお願いしたりしない!」


お店から一人のオレンジ髪のロングツインテールに学校の制服を着ている娘が出てくる。学校の服から見るとどうやら高校生らしい。次郎吉からするとどうにも入りづらい状況だが、もうバレていそうと判断して次郎吉はお店の中に入る。


「さっきの会話、聞こえておったか?」


「あぁ。さっきの小娘は?」


「名前はコーネという。儂が孤児院から引き取った戦争孤児じゃ。ジロキチからすると先輩の養子に当たるのぅ」


次郎吉は荷物を下してアーベルトに話す。


「俺っち以外に養子がいるのは初耳だな」


「……そうじゃな。実はお主が養子になる1年ぐらい前に大喧嘩してしまってのぅ。そこでコーネは家出して帰って来ることが無かったのじゃ。どこかで死んでいる可能性も考えていたがどうやら誰かの下で成長してくれとったらしい」


「ふっ。大喧嘩した割には嬉しそうな声じゃねーか」


「当り前じゃ。少ししか生活しておらんかったが儂からすると大切な娘じゃった。その娘が生きており、元気に成長しておったのじゃ。嬉しいに決まっておる」


次郎吉はアーベルトのところまで行くと椅子に座る。


「それで? どうしてその家出娘が今になって帰ってきたんだよ」


「それがいきなり儂のソーサリーファクトを売ってほしいとお願いしてきおってな。売るにしても何に使用するのか教えろと言っても教えようとせん」


「なるほど。それでさっきの喧嘩になったわけか。それは使用用途を話さないあいつが悪いな」


アーベルトの過去を知っているなら尚更使用用途を話さずにソーサリーファクトを売れと言うのは流石に無理だとわかるはずだ。するとアーベルトは逆に次郎吉に聞いてくる。


「ジロキチから見てコーネはどう見えた? 犯罪に手を染めておると思うか?」


「犯罪に手は染めてはいるだろうな。ただ殺人や俺っちの泥棒のような悪さじゃねーから安心しろよ。そもそも俺っちとすれ違って何も感じない時点で色々終わっている。たぶん性格的に犯罪向いてねーな」


「ふぉっふぉ。どうやら成長しても性格は変わっておらんらしいのぅ。しかしそうなると尚更用途不明でソーサリーファクトを売るわけには行かなくなったか」


もし悪い商売に手を染めているなら即アウト。そこから人殺しの道具にされてしまう可能性は極めて高いからだ。ただアーベルトで商売する気ならもっと早く声を掛けているはずだと次郎吉は考えた。


「教えたくないなら教えなくていいがどんな子だったんだ?」


「ダメなことにははっきりとダメというタイプじゃな。儂がソーサリーファクトの開発に夢中でコーネが何度も訴えてきたのに儂が開発を止められなかったのが原因で大喧嘩して家出したくらいじゃ」


「それはアーベルトの爺さんが悪いだろ……開発が止められない気持ちはわからんでもないが」


「ジロキチと同じでソーサリーファクトに愛と情熱があれば関係は上手くいったかもしれんが儂だけ夢中ではな。ジロキチの言う通りコーネについては全部儂が悪いと思っておるよ」


次郎吉の脳裏に開発に夢中なアーベルトの姿とその後ろで一人立っているコーネの姿が思い浮かぶ。この図はなかなかにきついものがあると次郎吉は思った。


しかもそんなアーベルトに対してご飯を作ってくれたこともあるらしいが開発に夢中で放置してしまったことがあるらしい。


「子を育てるために仕事をした結果がそれはなかなかにやばいな」


「儂も冷めた料理とその場にいなくなったコーネを見たときは絶望したものじゃよ。一応翌日謝ったが聞く耳持たれんかった」


「まぁ、そうなるだろうな」


次郎吉ならそれをされても仕事が忙しいならしょうがないなど色々理解を示すのだが普通の子供にそれは無理だ。そうなると子供の心が離れてしまうのは必然と言える。


それの反省があるためか次郎吉だとアーベルトと一緒に食べることがほとんどだった。ただこれは次郎吉だとソーサリーファクトの開発を一緒にしていることが多いから食事をするタイミングなども自然と合いやすいのが大きいと言える。ここで次郎吉はアーベルトの本音を聞くことにした。


「それで? アーベルトの爺さんはさっきの小娘。コーネとどうしたいんだ? 全く売るつもりがないわけじゃないだろ?」


「そうじゃな。儂の考えじゃが儂が作ったソーサリーファクトでお主やコーネが不幸や苦しんで欲しくないんじゃよ。例えば人を殺すソーサリーファクトは必ず使った本人に不幸と苦しみを与えると儂は思っておる。実際に儂がそれを経験したからの。逆にジロキチの靴のように逃げるソーサリーファクトは自分を守るためのソーサリーファクトじゃ。正しく使うなら不幸にはならんじゃろ?」


「そうだな。まぁ、雷速で人にぶつかると人を殺せるからそれが悪い使い方にはなるか」


「その通りじゃ。だから間違った使い方は決してせぬようにな。まぁ、ジロキチなら大丈夫だとは思うが」


次郎吉でも事故はどうしようもないがアーベルトの言いつけは守ろうと次郎吉は思った。因みにアーベルトのルール的には人殺しがアウトなだけで人に危害を加えるのはセーフとしていた。実際に次郎吉は相手の意識を奪うための電気ショックの手袋を開発しており、命を奪わない出力に調整させている。


「信頼してもらってどーも。つまり俺っちの泥棒と同じで犯罪でも使用用途によっては手を貸すつもりはあるわけだな?」


「そうなるのぅ。なんじゃ? もしかして行ってくれるのかの?」


「あんたには恩があるからな。ここらで一つ返させてもらうよ」


「そうか……コーネのこと、よろしく頼むわい」


そういうと次郎吉は店を出る。そんな次郎吉の姿にアーベルトは独り言を言う。


「お前さんにはもう十分すぎるほどの恩を返されておるよ」


アーベルトの顔には優しい親が浮かんでいるのだった。

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