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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
幼年・少年期編
15/38

#15 怪盗の登場と下着泥棒の変態紳士

次郎吉がファクトライドの町に住んでいる悪い男爵や周辺の町に住んでいる悪い男爵を標的に泥棒を繰り返していると流石にところどころ新聞に載るようになってしまった。それでも犯罪の全てが載ることがなかったので、この世界でも江戸時代と同じでソリスの調査を嫌がる権力者が多いということだろう。


本来なら新聞に載ると殺し屋などに狙われる可能性が高くなるのだが、次郎吉と同時期にキャリコという名の怪盗が登場した。それについて次郎吉はアーベルトから質問される。


「怪盗ねぇ……」


「泥棒のお前さんから見て怪盗はどう見えておるんじゃ?」


「快楽主義者だな」


「ほぅ……儂には泥棒と同じに見えるがの」


確かに泥棒と怪盗は物を盗む犯罪者という枠でなら同じ犯罪者である。しかし次郎吉はきっぱりと同じじゃないところを指摘する。


「全然ちげーよ。泥棒の目的は物を盗むことだ。それに対して怪盗の目的はソリスや宝を持っている人間との勝負が目的になっているだろ?」


怪盗は犯行予告をわざわざソリスやその宝を管理している者に送りつけてから盗みを実行する。その過程の結果、怪盗と勝負する者は標的になった物を巡って争うことになる。そして怪盗が勝ち、物を盗むと次は物を盗んだ怪盗を捕まえるという勝負が発生するわけだ。


つまり怪盗は物取りと逃走の二回戦うことになり、その二つに勝利して初めて怪盗側の勝利となる。次郎吉にはその勝負の勝ち負けが怪盗の目的になっていると感じたのだ。


「なるほどのぅ。目的の違いと得られる快楽の違いか」


「そうだな。泥棒も勝ち負けの快楽は存在しているがどちらかというと目当ての物を手に入れた快楽のほうが強い。怪盗はソリスや宝を持っている人間に勝ったことのほうが快楽強いだろうな」


何はともあれソリスや世間の注目が怪盗キャリコに向いてくれるのは泥棒としてはありがたい限りだ。これならまだ次郎吉はこの町を拠点して泥棒が出来ると判断した。



そして次郎吉が弟子入りしてから四年の月日が経過した。流石にもう次郎吉は一人前の魔道技師となり、体も成長したことで身体能力もかなり向上している。


そんなある日、次郎吉が路上を歩いていると誰かに狙われている気配に気が付いた。次郎吉はアーベルトの爺さんに迷惑をかけないように市街地から離れた公園でその人物と相対する。そこにはステッキを持っているちょび髭がトレードマークの金髪の紳士がいた。


「俺っちに何か用か?」


「お初にお目にかかる。君を相当な手練れの悪者とお目受けした。私と一勝負してくれないかね?」


「勝負だと?」


「そうだ。いくぞ」


紳士がいきなり次郎吉に接近してきた。これに対して次郎吉は両手を構える。次郎吉は紳士の手を見て、紳士が泥棒であることを把握した。そして次郎吉に向かって紳士の手が伸びる。それに対して次郎吉は紳士の手を掴んで止めようとしたが掴めない。


(幻!? ソーサリーファクトか!)


一瞬の攻防、一瞬の交差で勝負が決まった。


「私の勝ちだな」


「……おっさん、下着泥棒かよ」


紳士の手には次郎吉が履いていたパンツがあった。


「いかにも。言っておくが私が好きなのは女性物の下着だよ。勝負でもなければ男のパンツなど触りたくもない。ほら。これは返そう」


「男ならそれはそうだろ」


流石にこの場でズボンを下して履くわけにはいかないので、次郎吉はズボンのポケットに自分のパンツをしまう。


「それにしても勝負なのに不意打ちはズルじゃないか?」


「負け惜しみかな?」


「いいや。勝負はこれからだろ?」


次郎吉はジャケットのポケットからモノクルを取り出して自分の右目に装備してソーサリーファクトのスイッチを押すと遠くにいる女性を指差す。


「あの女性の下着はレースの薄ピンクだな」


「ッ!?」


次郎吉の発言に下着泥棒の変態紳士は目を見開くと次郎吉を震える手を向けた。


「ま、まさか……君のそのソーサリーファクトは……」


「服を透視するソーサリーファクトだよ。設定次第で下着姿はもちろん下着すら透視可能って代物だ」


「ぶはぁ!?」


下着泥棒の変態紳士が鼻血を浮き出して倒れこむと次郎吉は変態紳士に近づく。


「あんたのソーサリーファクトとあんたの実力は実に見事だったよ。だが変態さでは俺っちのほうが上だ」


変態紳士が使ったソーサリーファクトは幻を見せるだけではなかった。変態紳士が次郎吉の下着を取るためには以下の手順が必要となる。


まず一。ズボンを透過させて手をすり抜けなければならない。

その二。ズボンを透過させている状態を維持しつつ下着を透過させずに手で掴まなければならない。

その三。ズボンを透過させている状態を維持しつつ掴んだ下着を透過させなければならない。

その四。透過させた下着を同じく透過させているズボンを通過させなければならない。


透過させる手段は属性によって色々な手段があるが基本的には同じで手が物質であるという法則を改竄して透過させる方法だ。例えば手が物質ではなく光だったらズボンをすり抜けることが出来るという理屈になっている。これが水でも風でもズボンをすり抜けることは可能だ。


下着泥棒の変態紳士が使った手段は土属性を使った物で手が物質ではないという改竄だ。物質でないなら物質をすり抜けることが可能という理屈だ。


ただここで問題となって来るところがある。それが物質と非物質との境界線の問題だ。手を物質でないと定義したなら物質であるパンツは掴めない。ならば手を物質に定義しないといけないわけだが、そうなるとズボンの物質といきなり現れた手という物質が物理学を無視した形でぶつかり合うことになる。


そうなると世界の法則を元に戻そうとする力が発生して、法則を改竄した側が弾き飛ばされることになるのだ。つまりこのソーサリーファクトは失敗作となる。


だが下着泥棒の変態紳士はこの問題を泥棒の腕前でひっくり返してきた。この世界の法則を元に戻そうとする力が発生するためには若干のタイムラグが存在している。まるで世界がそのルールは違反ですよと認識するのに時間がかかるような現象が起きるのだ。


ここに目を付けた下着泥棒の変態紳士はタイムラグの間に下着を盗み、世界の法則を正常の形に戻せば大丈夫だと結論づけた。それだけ下着を盗む速度に自信があったわけで見事にそれを成功させた。それを次郎吉は称賛したのだ。


次郎吉の勝利宣言を受けて、下着泥棒の変態紳士はゆっくり震えながら起き上がる。


「ま……まだだ……そもそもその手のソーサリーファクトは山ほどある!」


確かに男のロマンを追い求めるソーサリファクトは多い。残念ながらセンシティブなソーサリーファクトは製造、販売が禁止されている。しかし裏市場にはそういうのが出回るものだ。その指摘に対して次郎吉ははっきり返す。


「そこらの不良品と俺っちのソーサリーファクトを一緒にするのか? じゃあいいぜ。教えてやる。俺っちのソーサリーファクトは光を分析して結果を眼鏡に出力するソーサリーファクトだ。人の目は光によって色を認識する。服の色も下着の色も光がぶつかり、反射して目に入ることで脳が情報を処理し、目に映像として出力すると言われている」


次郎吉は科学者じゃないので、あくまでソーサリーファクトを作るうえで調べた知識である。次郎吉は説明を続ける。


「ここで問題となるのは服を着ている状態の人間からどうやって下着の情報を得るかだ。そこで俺っちが注目したところは衣服は基本的に繊維であるということ。繊維なら目視だとわからないほどの穴が開いている。その穴は光を通し、光を反射している。つまりその光の情報の中には必ず下着の情報が含まれていると思わないか?」


下着泥棒の変態紳士は次郎吉の理論を聞いて震えた口を開く。


「お、思う……つまり後はその情報を分析して通常の服の情報を削除したうえで映像結果を出力すればいいということか!」


「そういうことだな。さて、俺っちとあんたの勝負だが、あんたのソーサリーファクトは俺っちの男のロマンを越えられるのか?」


下着泥棒に特化したソーサリーファクトは実に見事な出来栄えであり、下着泥棒の変態紳士の技術は下着泥棒としてなら次郎吉を越えている。しかし歩いている女性の服を透過して下着姿を見るという男のロマンを実現させたソーサリーファクトに勝てるのか?と次郎吉は聞いた。下着泥棒の変態紳士の答えはすぐに出る。


「ぐ……私の負けだ……私の目に狂いはなかった」


下着泥棒の変態紳士はそういうと倒れるのだった。そして下着泥棒の変態紳士は口を開く。


「そのソーサリーファクト、売ってくれ」


「売るわけねーだろ。じゃあな。いい勝負だったぜ」


「ちくしょおおおおおお!」


変態紳士の魂が籠った男の無念の咆哮が広場に響き渡るのだった。

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