#14 初めての失敗とハゲッツチーフ
次郎吉は新しいソーサリーファクトを開発する度に実験も兼ねて一年以上かけて調べた悪い商売をしている男爵たちの家を狙い出した。
まず開発したのが防犯装置の結界を突破するためのソーサリーファクト。これは手袋タイプのソーサリーファクトで結界に触れると結界の情報に次郎吉を対象外の人物だと書き加えることで防犯装置を突破する雷属性のソーサリーファクトだ。
この発想は次郎吉の生まれた家での経験から来ているのは言うまでもない。現代でいうところのハッキングに近いソーサリーファクトで電気通信を利用している。
更にこのソーサリーファクトにはアーベルトの勧めで人間の意識を失わせるぐらいの電気ショックを発生させる能力が追加された。流石にこれには次郎吉もちょっと不満だった。
「俺っちは攻撃するつもりはないんだがなぁ」
「そんなことは分かっておるが自衛手段はあったほうが良いぞい。犯罪していないときは襲われることはないという決まりはないんじゃからな」
「それはそうだが……なんか経験から言ってないか? それ?」
「まぁ、儂も魔法使いであり、ソーサリーファクトの魔道技師じゃからな。色々あるわい。力を持っておるとな」
それを聞いた次郎吉は魔道技師を教えた後にそれを言うかと思ったが今現在も次郎吉は殺し屋に狙われている可能性が高いので、問題ないかと結論づけた。
「わかったよ。付ければいいだろう」
「うむ。だが力を使うときはよく考えて使うようにな」
「はいよ」
そんなわけで次郎吉のソーサリーファクトの中では初めて意識的に攻撃能力を持たせたのがこの手袋タイプのソーサリーファクトとなった。そして実戦投入する。次郎吉は暗闇の中でいつもお馴染みのほっかむりを装備する。
「鼠小僧がやって来たぞ」
次郎吉は見事に防犯装置のソーサリーファクトに対してハッキングに成功して家に潜入することに成功する。そして次郎吉は靴のソーサリーファクトを起動させて音も無く壁を滑りながら登っていく。
これがアーベルトも階段で使っていた電磁浮遊の力だ。浮きながら移動するので、足音すらしない警備の人間からすると非常に厄介な力と言える。
屋根に登った次郎吉は穴を開ける。この時、次郎吉は楽に侵入経路を作るソーサリーファクトが欲しくなった。のこぎりでは流石に時間がかかり、音も発生するから見つかるリスクはかなり高く感じたのだ。
侵入経路を作った次郎吉は靴のソーサリーファクトを再び使用して家の中に侵入する。その際にもまた電磁浮遊で着地の音を消した。本当に泥棒からするととんでもない力だ。結果そのまま見つかることなく金庫の部屋に到達し、ピッキングで部屋のドアと金庫を開けて、風呂敷に金を詰め込んで家を出る。
その帰り際に外からもう一度防犯装置の結界に触れると自分の情報を削除して証拠隠滅成功。これでそのまま見つかることなく脱出したことで泥棒成功となった。
「なんかようやくこの世界に適した泥棒を初めて成功させた気がするな」
これは次郎吉の言う通りで家に侵入するまでがソーサリーファクトの力に依存し、家の中に侵入してから泥棒するまでは次郎吉の素の能力となる。ソーサリーファクトの能力と泥棒の能力の融合。これが次郎吉がこの世界で追い求めていたこの世界での泥棒としての姿だ。
自分の目指すべきビジョンが正確化したところで次に次郎吉が開発したソーサリーファクトはベルトタイプのソーサリーファクトで荷物の重さを軽減する土属性の重力を利用したソーサリーファクトだ。これで重い荷物をらくらく運べるようになった。更にこれには自分の体重を減らすことでジャンプ能力を上げる力も追加した。
着地する時に音が聞こえてしまうのが難点ではあるがそこは靴に搭載した電磁浮遊の能力でカバーできるので問題はない。ただ調整をミスするととんでもない跳躍を見せてしまうので扱いは難しいので、次郎吉が慣れが要求させることになった。
次が男の夢。透明になる光属性のソーサリーファクトだ。次郎吉のソーサリーファクトでは風呂敷タイプで泥棒時にはほっかむりとして使われるソーサリーファクトとなる。ただ透明になるといっても周囲の景色に溶け込むカメレオンやタコと同じ擬態能力があるソーサリーファクトだ。
これはソーサリーファクトを起動させると周囲の景色をサーチして自分の姿をその映像に見せることで透明化を実現させている。
一見すると万能のように見えるソーサリーファクトだが色々問題点がある。まず透明人間あるあるだがその場で存在しているので雨が降っていたりすると隠れていてもバレバレになる。
更に起動時の映像を反映しているので、例えば煙幕の中でソーサリーファクトを使用して煙幕に擬態しても煙幕は動き続けるのでバレバレになってしまう。これはあくまで起動したときに記録したのが周囲の絵、つまり静止画であるため周囲が動いていると擬態は無理なのだ。
これら二つのソーサリーファクトを実践投入した。まず侵入方法は前回と同じ。無事に家に侵入出来たがここで問題が発生する。
(犬!? まずい!?)
家の中に犬がいたのだ。次郎吉は慌てて透明化のソーサリーファクトを使用して壁に擬態した。
「スンスン……グゥ~……」
犬が鼻をクンクンさせて次郎吉の前まで来ると唸り声をあげる。
「ダメだよな! さらば!」
次郎吉は犬の嚙みつきを回避すると窓を破って靴のソーサリーファクトの電磁浮遊で下に音もなく着地するとすぐに家の敷地から逃げて防犯装置の結界に触れて証拠隠滅すると雷速でその場から離脱した。
「臭い対策をしないとダメだな。こりゃ」
これが次郎吉にとって初めての泥棒失敗となった。いくら次郎吉でも成功するときもあれば失敗する時もある。ただ今回は泥棒失敗、次郎吉は捕まらなかったので次郎吉の認識では引き分けという結果となる。
ただ今回の一件は後日新聞に載り、ソリスが捜査を開始したことが書かれていた。
「へ。上等だよ。捕まえるものなら捕まえてみやがれ」
そういう次郎吉は悪者らしく少し興奮した様子で不敵な笑みを浮かべるのだった。
一方ソリスのほうでも動きがあった。
「お待ちしておりました! ハゲッツチーフ!」
パトカーから一人の緑髪短髪の筋肉ムキムキのおじさん警部が現れる。彼の名前はハゲッツ。ソリスの中でも凄腕の土属性の魔法使いで貴族出身ではなく平民から成りあがった努力の人間である。
「おう。お疲れさん。それで通信で聞いたが防犯装置が発動せずに泥棒に入られたって?」
「そうらしいです。どうやら飼い犬に見つかり、窓から逃げたらしいのですが」
「防犯のソーサリーファクトより犬のほうが優秀なのは皮肉が効いてるな。それにしても窓からか……血痕は?」
「ありません。それどころか足跡すらないんです」
これが電磁浮遊の力だ。それを聞いたハゲッツは獰猛な笑みを浮かべる。
「そいつはまたとんでもない泥棒が現れやがったもんだな」
「はぁ……というと?」
「犯人はほぼ間違いなくソーサリーファクト使いだ。しかも並みのソーサリーファクトじゃねーだろうな。そうじゃねーと防犯装置のソーサリーファクトをすり抜けた説明がつかん」
「た……確かに。流石の推理です! ハゲッツチーフ!」
同じソリスの若い人がハゲッツに指摘に納得を示しつつ絶賛するがハゲッツは言う。
「そんな褒められるようなこと言ってねーよ。ほら。さっさと調べてこい。さぼりで怒られるぞ」
「は!? はいぃいいい!」
若い人が慌てて捜査に向かう中、ハゲッツは自分の拳と拳を合わせて独り言を言う。
「こいつは当たりを引いたかも知れねーな。久々に楽しくなってきやがった。誰か知らねーが必ず捕まえてやるぜ」
次郎吉は知らないところでハゲッツからライバル認定させるのだった。




