#13 罪の告白と養子
次郎吉の勉強が続いている間、次郎吉はずっとアーベルトと生活を共にしたことで飲食住には困ることが無く、お金もほぼ使わずに済んだ。しかもソーサリーファクトの開発は地下で行われる。ほぼ町に出ないことで次郎吉を追っているであろう殺し屋の情報を遮断できたのはかなり大きかった。
とはいえスーパーで買い物したり、この町で泥棒のターゲットになる人間を見つけてその人間の情報を集めてはいたので、ノーリスクというわけじゃなかった。なので次郎吉は警戒感を常に持って外では行動していた。
そんなある日のことだった次郎吉はアーベルトから正式にアーベルトの養子になることを勧められる。
「俺っちを養子にしても金は貰えないじゃないのか?」
「補助金の話を知っておるのか。その通りじゃが戸籍がないと最悪の場合国外追放にされてしまうことは知っておるか?」
「それは知らん」
このほかの影響からすると病院の利用やソーサリーファクトの部品の調達、国家資格の獲得、商売の権利、土地や家の権利など戸籍がないと困ることは多々あるらしい。ここで次郎吉はソーサリーファクトの部品の調達は犯罪に触れていたことを初めて知るのだった。そんな次郎吉だがちょっと悩んだ様子を見せてから発言する。
「んん~……国外追放になっても別に困らんのだが? そもそも捕まることも見つかることもないと思うんだがな」
「凄い自信じゃな……じゃが年寄りの言うことは聞いておくものじゃぞ?」
そういうアーベルトの姿を見て、次郎吉は自分の悪事を告白することにした。
「今まで黙っていたが……俺っち泥棒なんだよ。アーベルトの爺さん」
本来なら悪者が自ら罪の告白をすることはあり得ない。それでも次郎吉が告白したのは通報されても逃げ切れる自信があることと数か月アーベルトと生活してアーベルトは信用するのに足りる人物だと思ったからだ。そんな次郎吉に対してアーベルトは当然のように返答する。
「……犯罪をしていることには気づいておったよ。ソーサリーファクトを見ればわかる。これは明らかに逃走用のソーサリーファクトじゃからな」
移動用のソーサリーファクトなら風のソーサリーファクトのほうが自由度と安全面において圧倒的な差がある。ただ速さがないからそこをどうクリアしていくかが一つソーサリーファクトの業界の課題だったりする。
「ジロキチが告白するなら儂も自分の罪を告白するとするか……儂は自分の魔法やソーサリーファクトで人をたくさん殺してきた大罪人じゃ。悪者同士引き合ってしまうのかも知れんな」
「まぁ、そうだよな。原因はやっぱり戦争か?」
「そうじゃ。この国を守るために他国の人間をたくさん殺した。それだけでなく儂のソーサリーファクトはこの国の軍事力となり、殺人兵器として使われてしまったのじゃ」
「その言い方だと国に騙されたって聞こえるが?」
次郎吉がそう指摘するとアーベルトは告白する。
「騙されたと言えばそうなるのぅ。国からの依頼は荷物を軽くするソーサリーファクトや足を速くするソーサリーファクトじゃった。本来の使い方をするなら殺傷能力はない。しかし大岩を持ち上げて人に投げつければ人は死ぬ。足を速くするのではなく弓矢などを速くするように改造すれば兵器となる。儂もその可能性には気づいておった。しかし国を信じてみたのじゃ。その結果がこれじゃよ」
「それは……きっついなぁ」
技術者として最悪の結果だ。これが原因となり、アーベルトは人に自分のソーサリーファクトを売ることを辞めたらしい。それでもソーサリーファクトのことが好きで開発だけは続けてきたそうだ。それを聞いた次郎吉は救われた気持ちとなる。
「アーベルトの爺さんは根っからの技術者なんだな」
「まぁ、そういうことになるのかのぅ。これが儂の告白じゃ。さて、次郎吉はどうするかのぅ? この家を出るのも自由じゃ。儂は止めはせん」
「俺っちは出ていくつもりはねーよ。まだソーサリーファクトのことを全部教えてもらったわけじゃないからな。それよりも問題はそっちだろ。泥棒の俺っちを養子になんてしていいのか? 俺っちは泥棒を辞めるつもりはないし、俺っちが作ったソーサリーファクトは泥棒に使われるぜ?」
「それは別にいいわい。人を殺すわけじゃないんじゃろう? お主の悪さについても儂は一切口出しはせん。自由に生きて我が道を進み続けてくれればそれが儂の幸せじゃ」
アーベルトにとってソーサリーファクトが人殺しの道具にならなければいいと考えていた。それは自分が背負った罪の十字架を次郎吉に背負わせたくない親としての言葉だった。
それを聞いた次郎吉は目を見開く。生前の次郎吉にはちょんとした親がいた。残念ながら良好な関係とは言えなかったがなぜかアーベルトの姿と自分の生前の父親の姿と被って見えてしまったのだ。こんな幻影が見えてしまうほどここ数か月の二人の生活は良好なものだったと言えた。その結果、次郎吉は降参のポーズを取る。
「……そこまでアーベルトの爺さんに言われたら、許可出すしかねーよ」
「ふぉっふぉっふぉ。決まりじゃな」
次郎吉はアーベルトの言葉と去る姿を見て、自分にもし老後があるならこんな年寄りになってみたいと思うのだった。こうして次郎吉とアーベルトは家族となり、そこから月日が経過して遂に次郎吉の靴のソーサリーファクトを改造させることに成功した。
「ふぃ……まさか一つのソーサリーファクトにこれだけの機能が追加させるとはびっくりだぜ」
次郎吉の靴のソーサリーファクトは一つで電磁誘導が可能となり、更に靴底には衝撃緩和の安全装置と電磁力を利用した物体への吸着能力、短時間の電磁浮遊を付け加えた。そしてそれらのスイッチを頭で考えるだけで押せるようにした。このスイッチは脳の電気信号を利用したアーベルトが考えた最新技術だ。
殺傷能力については雷速で移動するのであるにはあるが悪用しなければほぼ殺傷能力はない泥棒に特化したソーサリーファクトとなった。
「弱点があるとするなら長時間使えないことだな」
「靴という形じゃからな。どれだけ小さい魔力バッテリーを使っても限界はある。それでもよく二年ちょっとで完成させたものじゃよ」
「ここの設備と教えた方が上手な先生と部品を集めてくれたおかげだよ」
「ふぉっふぉ。役に立てたのならよかったわい」
次郎吉の今までの靴は靴とは呼べないほどのいかつさがあった。しかし完成したソーサリーファクトは見た目が完全に普通の靴となっている。この差は魔力が流れるパイプラインの存在だ。次郎吉がアーベルトの作業場にある機材の中で魔力ラインを人工的に作り出す装置があった。
これのお陰で金属のパイプラインが必要なくなったので、大幅な軽量化にも成功している。ただこれが針に糸を通して縫い合わせる作業を更に繊細さが求められる作業で次郎吉はこれにかなり苦労した。
何せ接続するべき場所にちょっとでもずれたら最初からやり直しをさせられる作業だった。
「だー! 揺らすんじゃーねー!」
店の前に魔道車が通る度に揺れが発生し、失敗を繰り返す中で本当によく開発したものだ。それだけ次郎吉はソーサリーファクトに魅了させたといってもいいだろう。
何はともあれ一つ完成させたことでここから魔道技師となった次郎吉の開発速度は格段に上がっていくことになる。




