#11 始まり魔道技師と弟子入り
モノクル:別名片眼鏡。片方の目だけ付ける眼鏡で耳にかけない代わりに落下防止の紐や鎖を付けている。この眼鏡の老眼になった時に片眼鏡をかけている目で近くを見て、かけてない目で遠くを見ることで遠近両用レンズを使わずに済む利点があった。
カリアの村を出た次郎吉は村を転々としていると次郎吉が生まれたグレスの町より発展している町に辿り着いた。
『次はファクトライドの町。お降りの方は代金を支払ってからお降りください』
次郎吉が魔道バスから降りる。リスクはあるがこちらの移動手段がバレている可能性を考えると移動手段を変えることは悪い手ではないと次郎吉は判断した。
「これはまた今までの町と全然違うな」
ファクトライドの町に降りた次郎吉が最初に感じたのは金属を叩くハンマーの音だった。それが町中から聞こえてくる。これだけで鍛冶が盛んな町であることが分かる。次郎吉がご飯を食べながら町を歩いているとビル街に辿り着いた。そこではガラスケースに様々なソーサリーファクトが展示されていた。
「こらこら! 子供が入ったらいかん!」
次郎吉は店員の隙を付いてさりげなく店の中に入ったがソーサリーファクトの展示会が開かれているところで店員に見つかり、外に放り出された。
「は! お前の店に展示されているような面白くないソーサリーファクトになんか興味なんてねーよ! バーカ! バーカ!」
実際に次郎吉は少しだけ見ることが出来たが売られているのは日常的に使うソーサリーファクトばかりだった。しかも性能を比べているだけでぶっ飛んだアイデアが無かった。
最初は次郎吉も現代でいうところの冷蔵庫やコンロを見て目を輝かせたがそれがたくさん並ぶと流石に飽きる。ソーサリーファクトはアイデア次第で色々なことが出来る夢に溢れた道具だと次郎吉は思っていたので、店の中に展示されている普通のソーサリーファクトにがっかりしてしまったのだ。
「ふぉっふぉっふぉ! その意見には同意見じゃな!」
次郎吉が声をしたほうを見るとちょうどお店から出てくるところのお爺さんがいた。お爺さんは杖を突いており、モノクルを右目に装備しており次郎吉からするとお洒落なお爺さんに見えた。そのお爺さんが近づいてきた。ここで次郎吉の鼻と目が発動する。悪い金の臭いはするし、血の臭いもしたが目と気配がその人を完全な悪者と判断はしなかった。
残念ながら次郎吉には経験がないが恐らく大きな戦を経験した老戦士がこの気配に近いと次郎吉は考えた。大きな戦いがあったなら勝つために手が血で汚れるのはしょうがない。長く生きているなら多少の悪い金稼ぎぐらいはするものだろう。それらは次郎吉にとっては許せる類の物だったので警戒を一旦解くことにした。
次郎吉の目の前まで来たお爺さんは座ると次郎吉の靴を見ながら口を開いた。
「お主が作ったソーサリーファクトは面白いのぅ。危なっかしいが夢と希望、情熱に満ち溢れておる。最近の若い魔道技師たちに見習って欲しいものじゃ」
「爺さん、誰だよ。っていうか俺っちがこのソーサリーファクトを作ったことわかるんだ?」
「そりゃあ、わかるわい。何せ儂はソーサリーファクトを最初に生み出した五魔道技師の一人じゃからな」
「は? ……何ぃいいいいい!?」
流石の次郎吉もお爺さんの自己紹介に驚いた。
「ちょっと待ってくれ。あんたがソーサリーファクトを生み出したのか?」
「そうじゃよ。正確には五人でソーサリーファクトの理論と基盤を完成させたのじゃ」
「……うっそだ~。俺っちは信じねーぞ」
「ふぉっふぉっふぉ。疑い深くて結構結構。気になるなら儂の後についてきなさい。お主が求めている物に出会えるかも知れぬぞ?」
次郎吉は悩むが付いていくことにした。次郎吉は直感的にこのお爺さんが言っていることが事実だと理解してしまった。それならソーサリーファクトにはまってしまった人間としては付いていくしかないだろう。
次郎吉が辿り着いたのはビル街の裏手にあるお店が立ち並んでいる場所でその中でも建物が古そうなお店に案内される。
「ここが儂の仕事場兼住宅じゃ。入ってきなさい」
「お邪魔しまーす」
次郎吉がお店の中に入るとそこはお店としては機能してなかった。ケースには白い布で覆われており、完全に店仕舞いされた家って感じだ。
「こっちじゃよ」
次郎吉が通されたのはカウンターの裏側だった。ここで次郎吉は輝かせる。
「おぉ~!」
そこには山のように積まれたソーサリーファクトの部品や完成品の数々があった。しかし泥棒としての次郎吉はお宝を求めてしまうものだ。すぐに視線が別のところを見る。
「地下室か?」
「ふぉっふぉっふぉ! やはりお主は只者じゃないのぅ。正解じゃ」
お爺さんが杖で地面に突いてから魔力を発生させると部屋中の絡繰りが動き出して、地下への道が開かれる。
「おぉ~! かっこいいな!」
「そうじゃろう。そうじゃろう。さぁ。付いて来るといい。この下が儂の本来の仕事場となっておる」
「……随分手が込んでいる仕掛けを用意しているんだな?」
「仕掛けは派手なほうが面白いからのぅ。それに影響力が高すぎるというのは色々大変なんじゃよ」
「なるほどね」
次郎吉はお爺さんが大変な立場にあることを理解した。そりゃあ、魔法が重要な力として認知されているならソーサリーファクトを生み出した人もまた重要な力という認識になるだろう。そうなるとどういうことが起きるのか想像はしやすい。要は魔法と同じで奪い合いが発生する。
次郎吉はお爺さんからそんなくだらない争いに飽き飽きしているのを感じた。そんな爺さんの様子を見て次郎吉はこうはなりたくないと心の底から思うのだった。
お爺さんが地下に降りてドアを開けるとソーサリーファクトを生み出すための最新の作業台や機材が置かれている部屋に辿り着いた。そこでお爺さんは次郎吉に話しかける。
「ここで自己紹介をしておこうかのぅ。儂の名はアーベルト。アーベルト・ウィンハークじゃ。お主の名はなんと言うんじゃ?」
「俺っちは次郎吉」
「ジロキチ。聞いたことがない響きの名じゃが呼びやすいいい名じゃな」
「そりゃどうも。それであんたは俺っちをここに通して何が目的なんだよ?」
次郎吉が質問するとアーベルトは本題を話す。
「うむ。端的に言うならお主、儂の弟子になる気はないかの?」
「はぁ?」
この提案に次郎吉は驚いたがオーベルトにはアーベルトなりの事情があった。ここでアーベルトの視点を見てみよう。
まずアーベルトが次郎吉を見つけたのはビルで行われていたソーサリーファクトの展示会場だった。
(つまらんソーサリーファクトばかりじゃのぅ)
ソーサリーファクトを販売するお店からすると日用品のソーサリーファクトが一番安定して売れる。現代で言うところの電化製品に相当するのがソーサリーファクトだからだ。しかも電池と同じでソーサリーファクトも魔力のチャージが必要となる。となると消費が激しい日用品は売れる流れになるのは自然と言えば自然だった。
しかしソーサリーファクトの技術者からすると毎日同じようなソーサリーファクトを見ていたら、飽きるのは当然であり、ましてや生みの親なら自分じゃ思いつかないような素晴らしい発明品を作り出して欲しいと期待するのもまた当然だろう。
そんな状況下で突如アーベルトの視界に入ってきたのが展示会に入れないはずの子供だった。しかもその子供が見たこともない用途不明、安全や安心とはかけ離れたぶっ飛んだソーサリーファクトを身に着けていたのだから嫌でも気になってしまうものだ。
しかしその子供は店員に捕まってしまったので、アーベルトは展示会を放り投げて次郎吉の後を追うことにしたのだ。次郎吉を追っている間にアーベルトは次郎吉を弟子にすると決めた。それで自分のつまらない時間が終わりを迎えると確信したからだ。
「儂がお主を弟子に誘う理由はそんなところじゃ」
「自己満足のためかよ!」
「そうじゃよ。ジロキチに発想力があるのはそのソーサリーファクトを見ればわかる。しかもまだ現代のソーサリーファクトに染まっておらん。これほど面白い逸材はそうそう見つかるものではないじゃろ」
「面白い逸材ね……そう評価してくれるのはありがたいが本当に俺っちなんてろくでなしを弟子にしていいのか? 後々後悔することになるぜ?」
何せ次郎吉は泥棒であり、現在は殺し屋に目を付けれている相当な厄介者だ。次郎吉はアーベルトを不幸にしてしまう自信があったがアーベルトは次郎吉の上を行く。
「ふぉっふぉ。老い先短い爺が今更後悔などするものか。お主も色々問題を抱えておる用じゃが、聞くこともせんわい。弟子を取るのに必要な事柄ではないからのぅ」
この言葉を聞いて次郎吉はアーベルトは梃子でも動かすことは出来ないと理解した。その結果、次郎吉は両手を上げる。
「……はぁ。降参だよ。爺さん。いや、アーベルトの爺さん。そこまであんたに言われたなら俺っちもお世話になる覚悟を決めさせてもらうぜ」
「決まりじゃの」
こうして二人の実に奇妙な生活が始まることが確定するのだった。




