お引き取り願います!
シェリアは扉の奥にいるであろう腹黒王子を想像して、憂鬱な気分になっていた
(私の態度が変わったにも関わらず同じように来たってことは、やっぱり『聖女』に近づきたいってことね)
エドガー王子が来た理由、それは聖女であるシェリアを自分の駒とするためだ
聖女を自分に都合のいい存在にし、今後の政治を有利にさせたいのだろう。
そのためにシェリアと距離を縮めようとしてくるのである
しかも第一王子がダメなら第二王子、第二王子もダメなら第三王子に性格を変えて何度も訪ねてくるのだ
ちなみに、3人とも合わなかった場合は新たな人格を作ってくる。思い出すだけで怖い。
今まで「わざわざご足労いただく必要は...」とか言って遠回しに追い返そうとしたことはあったが、なかなかに頑固で結局追い返せたことはない
(今回はハッキリ拒絶しなきゃ)
シェリアは再び悪役聖女のイメージを頭の中で作り上げ、そして扉に向かって口を開く
「王子だからって何ですの?私には関係ないことだわ。
そもそも私は休むと言ってこの部屋に来たのに、それを邪魔するのは失礼じゃなくて?」
今度は声まで震えてしまった
腹黒王子に横柄な態度をとるのは王様よりも怖い。
なぜなら少しでも反抗するような部下はすぐに切り捨てるのだ。場合によっては物理的に。
しかもそれを周りに悟らせないのがまた怖いところだ。
だから反抗したシェリアも最悪、3年と待たずに死ぬかもしれない。
しかしこうでもしなければ変わらないのは事実だ。生きるために命をかけるというのは矛盾しているような気もするが、他に手段はない
「あぁ、すまない。だが聖女様は初めてこの世界にきたのだし、何か困っていることでもあるのではないかと思ってだな」
「何もないわ」
シェリアは最低限の返事しかしない。
下手に言葉を増やすとボロが出かねないからだ
「ふむ...失礼かもしれないが、聖女様はなぜこの部屋のことを?」
「聖女の力よ」
この言い訳は今まで何度も使ってきた。そして有効であることは実証済みである。
聖女の力とは伝承でしかないので未知なのだ。そこに多少、知らない力があったとしてもそんなもんかと納得してくれる
「そんな力があるとは聞いたことがなかったが、そうだったのか...」
エドガー王子も予想通り、深く突っ込んではこなかった
(このまま納得して帰ってくれないかしら...)
シェリアが祈るような眼差しで扉を見ていると
しばらく黙っていた王子は、他には何も聞かず「失礼した」と言って去っていった
エドガー王子がいなくなったことを確認すると、緊張の糸が切れたシェリアはベッドにダイブして、大きく息を吐いた
「は、初めて撃退に成功したわ...!!」
完全に化け物扱いだがそんなことを気にしている余裕はシェリアにはなかった
「...でも変ね?今まではこっちのことなど気にせず勝手に入ってきたりとかしてたのだけど...」
多少拒否したぐらいで引き下がるような性格ではなかったはずだが
まぁいいか、とシェリアはそのまま眠ることにした
今までの人生でエドガー王子が部屋を訪れてくる際、必ず連れていた護衛が今回はいなかったことに
達成感で満たされていたシェリアが気づくことはなかった
とりあえず、エドガーとシェリアの出会い編(出会ってないけど)の本編は終わって
次章は他の人出す予定なのですが、その前に何話かエドガーsideのお話書きます