シェリアとライドの運命の糸
全キャラ登場した直後ぐらいで、マルクと割と仲良くなってきた頃のお話。
「マルク!今日もお散歩行きましょう!この前マルクが教育してた後輩騎士くんから愚痴を聞いてきたわ!!」
「えぇ、何その話。ダメージがダブルでくる...いつのまに彼と仲良くなったんですか...」
「昨日よ!」
ドヤ!と胸を張るシェリアと負のオーラを漂わせるマルクがいるこの場所は
聖女の部屋と騎士の宿舎のちょうど真ん中あたり。休憩所として使われている場所だ
日課...とまではいかないが、恒例となりつつあるマルクとの庭の散策は
クリスタルローズの話はさすがのシェリアでも尽きてしまったのか、いろんな話をする場となっていた
「とても聞きたいようで聞きたくない話ですが、申し訳ありません。今日は予定が入ってまして」
マルクは申し訳なさそうに頭を下げた
「あら、珍しいのね!予定ってことは訓練以外よね。何かイベントでも入っ...ん?今日って...」
少し考えていたシェリアは「あぁ!」と顔を上げた
「ライドの誕生...」
と言いかけたシェリアはハッとするも既に遅く、マルクは悲しそうな顔をしていた
シェリアがライドの誕生日を知っているのは別におかしなことではなかった
いろんな話をする内に兄の話もしていたのである。
だが、今日の誕生日は特別なものだった
体の弱いライドは1年と待たずに死ぬ。それは今年の誕生日が人生で最後の誕生日であることを意味していた
それをわかっているからこそ、マルクは悲しそうな顔をしているのである
「...私も、会わせてくれないかしら」
シェリアは、ずっとライドと会うのを避けていた
悪役聖女をやろうとしているシェリアにとって、ライドと会うのはすごく不安だったからだ
今までの人生でライドと関わった時、彼はシェリアに告白するのだ
それが運命であるかのように、鈍感なシェリアでもわかるぐらい真っ直ぐな言葉で愛の言葉を紡いでいた
シェリアは今まで応えることができなかった。なぜなら『聖女』だったから
なら、今は?
しかし、そんなことはライドを見捨てる理由になどならない。
そう思ったからこそ、シェリアは"奇跡が起きてもおかしくない"この日に会おうと決めたのだ
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シェリアのお願いを快く受けてくれたマルクと一緒に、リーディン家に訪れていた
「ライド、誕生日おめでとう!」
最後の誕生日。けれど、そんなことを思わせるようなことはしない。
家族はそう心に決めて、いつも通りの誕生日を演じていた。
「みんなありがとう。ごめんね、ベッドから出れなくて」
「いいのよ、気にすることなんてないわ」
「そうだ。今日はお前が主役なんだからな」
「母上、父上...。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう言って明るく笑う彼が、1年もせずに死んでしまうなんて誰も信じられなかった
「兄さん、さっきも軽く紹介したけど。
今日が兄さんの誕生日だって知って聖女様も来てくれたんだ。」
「あぁ、弟と仲良くしてくれてるって聞いたよ。世話がかかるだろうが、よろしく頼む」
そう言って微笑むライドに、シェリアは違和感を覚えていた
(あ、今回が初めてなんだ)
今までライドと会った時は、マルクとの関係どころか聖女であることすらライドは知らなかった
シェリアが変装して王宮から逃げ出そうとしてる時、ライドが死に恐怖して夜中に抜け出している時、シェリアがお忍びで町へ出かけた時...
(不思議な感覚だわ)
シェリアは心の中でうふふ、と笑いながら「こちらこそ」と返した
誕生日会は特に何事もなく終わった。
シェリアはもう帰らなければいけない時間になったので、マルクが「送るよ」と馬車の準備をしに部屋を出た
マルクの両親は既に自分たちの部屋に戻っていたため、ライドとシェリアの2人きり。
「ねぇ、ライド」
真剣な眼差しで見つめるシェリアを、ライドは不思議そうにしながら「なんだ?」と返す
「ごめんね」
「?何の話だ」
「...ううん、何でもないの。あぁ、今日は綺麗な満月ね。こんな日は奇跡が起きてもおかしくないわ」
「さっきから何を」
「『聖女の祈り』」
シェリアがそう言うと同時、ライドを淡い光が包み込んだ
「うふふ、やっぱり奇跡は起こるのね」
「...え?いやいや、今のは完全にあなたが」
「聖女様!馬車の準備ができましたよ」
「はい、今行きます」
立ち去ろうとしたシェリアはふと足を止め、ライドの方へ向き直った
「それでは。もしかしたらもう会えないかもしれないけれど、私はあなたに会えて嬉しかったわ」
シェリアの、たぶんあれは10回目ぐらいの人生の時
王宮から逃げ出そうとしていたシェリアをライドは匿ってくれていた
結局見つかってしまい、聖女の力で記憶を消してこの言葉を告げたのだが
今のライドにはわかるわけがない。だからシェリアの自己満。
あれだけ愛を語っていたライドが私を忘れてしまったことへの当てつけ。
そう、思ったのに
「....セレナ?」
「えっ!?」
あの時、ライドに教えていた偽名。
ライドしか知るはずがないし、ライドが知るはずがない名前。
「時々夢を見る。顔は見えないけれど、綺麗な女の子がいつも1人で苦しんでいる
それを救ってあげたくて、愛の知らないその子に愛を教えてあげたくて。ひたすら、愛の言葉を紡ぐ夢。その女の子の名前がセレナだった。」
「...そう、あなたはいつも苦しみから救おうとしてくれていたのね。
ありがとう。ならやっぱりさようならだわ」
「!やっぱり君はセレナなのか!?」
「...もしまた会えたら、教えてあげるわ」
意地悪そうに笑うシェリアを、困ったように見つめるライド。
するとドアをノックする音と共に、マルクの声が聞こえた
「聖女様?まだですか?」
「ごめんなさい、話しこんでしまって。それでは」
さっきまでと一転して嬉しそうに去って行くシェリアを、ライドは不思議そうに見つめるだけだった
その日、普通に生活を送れるまで回復したライドを見て両親は泣いて喜んだ
ブラコンなはずのマルクがそんなに大げさに喜ばなかったのは、シェリアが何とかしてくれると思っていたからなのかもしれない。
結局ライドが何者なのか
シェリアすらわからなかったそれは、神のみぞ知ることだった
ライドが何者なのかですけど
0話に関連するんですが、シェリアができる前の失敗作たち。その子たちの魂みたいなものが、ライドに乗り移ってるわけですね。
だから体弱いんです。そして、シェリアの心の声を聞くことができたし、今までの記憶も軽く蓄積されていたわけですね。ちゃんとは覚えてないですけど
それで、シェリアが聖女の力を使ってその魂を自由にしたので、いつも治した後は会いに来ないんですよライド。シェリアの心見えないし会う理由ないし。
だから、もしまた会えたらねって言ったんですね〜
って書きながら「へぇ!」って作者も思ってしまった。今考えたのバレバレ。
解説長くなってすみません。
また話が増えたら投稿しますね。




