シェリアが召喚される前の話
推しを幸せにしたかった!!
自己満!!!そう!自己満です!!!
荒れ果てた大地、剣の交わる音と悲鳴や叫び声はいつまでも終わる気配を見せない
この世界は1度、1人の男によって統一されようとしたこともあった
しかし圧倒的な力を持ったその男も、悪意という刃には為す術なく殺された
その様子を見ていた神は悟った
『この世界を力で救うことはできない』
と。
ならば救いの象徴を作らなければならない
しかし神は世界に直接干渉をすることができなかった
そして神は代わりとして使者を送ることにした
彼に名はない
象徴を創るための神の代わりでしかなかったからだ
各地で戦の音が鳴り響く中、彼は1人考えていた
この戦を止められるような象徴とはどんな人物なのか
ふと思い出す
力はあれど、悪意には勝てなかった男。
(悪意さえも包み込めるような心があれば、あの男は統一できたのだろうか)
悪意を跳ね除けることもせず、受け入れることしかできなかった彼。
もしその悪意さえも優しく包み込めたならば
しかしこの世界にそんな心の優しい人間などいなかった
あの男でさえ優しすぎると言われていたのだ。そもそも、マトモな人間はそんなことできない。
彼がどのくらいの時間悩んでいたのかはわからない。神の使者と言っても彼は普通の人間だ。
非人道的な行いをすることへの忌避感と罪悪感に行動を移せず、ひたすら他の道を模索し続けたものの、手立ては何1つなかった
(人の心を、いじるしかないか)
彼はついに人体実験を行う決意をした
この実験において最初に壊れてしまったのは間違いなく彼の心であっただろう
だが幸か不幸か、本人はそのことに気づくことはなかった
この世界で救いと言えば女神を想像することが多い
ならば、象徴は女性の方がいい
戦争孤児となった、極力心の育っていない子供を選び
教育という名の実験を繰り返していった
しかしどの子供も憎悪に負け、純真な優しさなど一瞬にして消え去ってしまう
(やはり、普通の人間では無理か)
そして彼は、人間を作り出すことにした
象徴を作ることが存在意義となっている彼に、諦めるという言葉はない
(あの男の遺伝子を使おう)
過去にも例を見ない心優しき男。既に死んでいたとしても、遺伝子さえあれば複製はできる
心の壊れている彼は躊躇いもなく墓を荒らした
そして何千、何万という失敗作を経て遂に救いの象徴を作り出すことに成功したのである
どんな絶望にも、どんな理不尽にも慈悲と優しさで包み込む
諦めることもなく、救いの手を差し伸べようとする存在
しかし彼女はまだ幼く、象徴にするにはもう少し年月が必要だった
実験に成功した彼は、彼女と一緒に過ごすことにした
放っておいても良かったのだが、他にやることもやれることもなかったのである
何も考えず、共に過ごすことにした彼だったが
計算外だったのは、彼女が彼にも救いの手を差し伸べようとしたことだろう
神の使者として実験に明け暮れた日々は、自分自身という存在を自分から排除してしまっていた
「あなたは神の使者である以前に、1人の人間なのよ。やりたいことをやっていいの」
そう諭す彼女に、彼は困った
やりたいことなどない、そう思っていたからだ
「実験をして新しい結果が得られた時のあなたは凄く嬉しそうだったわ
それがたとえ象徴と関係なくても。きっとあなたは、いろんなことを知りたいと思っているのよ」
そして彼は、彼女の言葉の通りにいろんなことを調べ、研究し、知識を蓄えていった
彼女が象徴になるまでの短い時間ではあったが、彼にとって1番幸せな時間だったと言えるだろう
「世界っていうのはここの他にも何個かあるらしいんだ!俺は神の使者だけど、その神がいくつか世界をつくったって。
ちなみにこの世界が最初につくられたから第一世界線なんだって」
嬉しそうな顔で話す彼は、心が壊れていることを感じさせない
話を聞く彼女も、嬉しそうに聞いていた
ある日、彼女は楽しそうに話した
「ねぇ、私。あなたの名前を考えてみたの」
「名前?必要か?」
彼と彼女は、お互い以外に話す相手もいない
彼女は象徴として君臨するので名前は必要ないし、自分は役割を終えれば神によって生を終わらせられるだろう
「私が象徴になれば、この楽しかった時間は終わってしまうけれど
名前があればあなたを思い出すことができる。できれば私の名前も、つけてほしいのだけど...」
「君は象徴だろう?名前をつけてしまえば象徴でいられなくなる」
彼の言葉に、彼女は少し寂しそうな顔をした後、そうよねと笑った
「ねぇ、私が象徴になった後も
あなたはやりたいことをやり続けてね。」
そんなことは不可能であるのに
彼は無理だと言うことができなかった
それから数年後
彼女は象徴として申し分ない年齢になった
「あなたの心は、何百年悪意に晒されようと絶望を味わおうと慈悲を忘れることはない
...まぁ、数千年だったら心に変化が起きてもおかしくないが」
「うふふ、おかしなことを言うのね?心は壊れても体は人間よ?
長くても数十年しか生きられないわよ」
心底おかしそうに笑う彼女を、彼は困ったように見つめた
「君が、この世界に平穏をもたらすことを祈るよ」
「うふふ
私、力はないからね。死なないように頑張るわ」
そう言って彼女が歩き出そうとした瞬間
彼女の足元に大きな魔法陣が描かれた
「なっ!?
こ、これは召喚魔法陣か!!!」
ここ数年で様々な世界の知識を手に入れた彼は、この魔法が第四世界線からの干渉であることまで見抜く
そして同時に、今の彼では召喚を中止させる術はないと理解してしまう
そんな彼の焦った様子に
今まで彼の話し相手になり、ある程度知識を得ていた彼女も状況を把握していた
「せっかく、あなたがここまで育ててくれたのに...恩を仇で返してしまうわね」
そして焦る様子もなく、彼女は申し訳なさそうに言った
研究に生涯を捧げた彼は、その成功作が役割を全うすることもなくいなくなることに落胆するだろう。ただそのことに対して、彼女は罪悪感を抱いている
召喚された先で自分がどうなるかなど一切考えない彼女は、皮肉にも象徴として相応しい姿であった
しかし彼は、彼女の想像とは違う言葉を発した
「嫌だっ!行かないでくれ!俺は!!君と離れたくないんだ!!!」
それは、告白ともとれる言葉
愛を知らない2人がそれに気づいたかは定かではないが、象徴に向ける感情ではないことは理解していた
象徴としての役割を全うすることになったとしても離れることになったはずなのに
『会えない』のと『会わない』のは、こんなにも違うものなのだと
彼は自分の言葉で初めて知ったのだ
幸か不幸か、世界線を超えての召喚魔法はそう簡単に終わるものではなかった
しかし逃げることもできぬ彼女に手を伸ばす彼は、届く距離にいるはずなのに届かないという事実を知らしめるだけだ
そんな彼の様子を知ってか知らずか
彼女は彼の想いを優しく包み込み、微笑む
「...なら、待っているわ。私はどうせ召喚されてしまうのでしょう?
でも、あなたならきっとこっちの世界にこれる。だから、待っているわ」
彼女の言葉に彼は大きく目を見開き、そして頷いた
「あぁ、必ず追いかける。だから、待っていてくれ」
そして一呼吸置いた彼は、真剣な眼差しで彼女を見据え口を開く
「シェリア」
他の世界に召喚されるとわかったときでさえ驚かなかった彼女が、大きく目を見開き、そして涙を流した
象徴である彼女に名前をつける
それは彼女から象徴という役割を放棄するということだ。人である彼女のそばにいたい。そういう意味だった
「えぇ、必ず、また会いましょう」
光の渦に飲み込まれつつある彼女は
この数年、伝えることのなかった彼の名前を口にした
「ネア」
そしてその場から彼女は消えたのだった
その後、彼は必死に調べた
第四世界線へ行く方法を。
第一世界線にも魔法はある。だが召喚するのと自ら向かうのには必要な魔力に雲泥の差がある
結局、彼は選択を迫られることになった
記憶を消して第四世界線に行くか
彼女を諦めて次の象徴をつくるか
記憶がなければ必要な魔力は一気に減る
それでも、記憶がなければ彼女と出会うことも認識することもできないかもしれない
それでも、彼は諦めることができなかった
必ず会える
そう信じ、彼は記憶を消して第四世界線へと向かったのだ
____これはそう、とある世界で聖女と呼ばれる女とマッドサイエンティストと呼ばれる男の
誰も知らない物語
最初の方に出てきた圧倒的な力を持った男ってのが、『最強少女は無意識に世界征服を目論む』の主人公の前前世です。
まぁ、そっちも途中で投げ出したので、この部分の話書けてないんですけどね!!
何か、書き忘れたことあればまた更新するかもですし、新しい話を考えたら書くかもしれないですけど
とりあえずは、短い間読んでいただきありがとうございました!!
*追記*
みんなそうなのか知らないんですが、完結した途端アクセス数の桁が文字通り変わりまして
作者「え!?」ってなってるので、ネタバレした後ですが、その内容をちょこちょこ出していこうかと思ってます。どれが面白そうですかね...




