悪役聖女としての第一歩
悪役聖女として生きる決意を胸に顔を上げると
未だにペラペラと喋っている王様と目が合う
「おぉ、その目。やる気になってくれたか」
私の様子を勘違いし、嬉しそうに頷く王様
周りに集まる騎士たちもおぉと歓声をあげる
そんな様子を無視し、私はこの後やるべきことを考えていく
(悪役聖女...悪役聖女...
第一印象は肝心よ。もしかしたらそのまま王宮を抜け出せるかもしれないわ)
そして自分の中で悪役聖女としてのイメージを作り上げ、おもむろに立ち上がった
「...はぁ。私が聖女として魔王軍の殲滅?なぜそんな面倒くさいことをやらなければならないのですの?」
シェリアの言葉に騎士たちは驚愕に目を見開いていた
実は聖女とは特別な力を持つ者の名前ではなく、『全ての人間に慈悲深い』という
人間性を指した名前だ
そして何回ともわからぬ繰り返しの中で、シェリアが「嫌われない」ために奔走し続けられた理由でもある。
普通の精神であれば数回で諦めてしまうだろう。
「せ、聖女様?どうなされたのですか」
「何かに取り憑かれているのでは?」
「そもそも本当に聖女様なのか?慈悲深いはずである聖女様が『面倒くさい』などと」
不信の声が湧き始め、ザワザワし始めた騎士たちを見て私は不快に顔を歪める
「うるさいわね...
魔王軍の前にあなたたちを殲滅してしまおうかしら
勝手に聖女様と崇めて、ちょっと嫌がったら偽物扱い?自分勝手で反吐がでるわ」
シェリアの言葉にシンと静まり返った
「ねぇ、王様?しばらく私の生活は保障してくれるのかしら?
それとも役に立たなそうな私は森にでも捨てられるのかしら?」
王様に向かってこの態度は今までのシェリアなら絶対にありえないことだった
先程からの自分の不遜な態度に、一種の拒否反応みたいなものか、体が震えてしまっている。
シェリアの聖女としての優しさが今までの言動を否定しようとしてくるが、生への渇望が勝り何とか抑え込んでいる状況だ
「せ、生活は保障しよう。今後考えが変わるかもしれぬからな。」
「そう...それじゃあ私はもう寝るわ」
最初の一言で外へ放り出されなかったのは残念だが、まだ3年はあるのだ。
いくらでもやりようはある。
スタスタと部屋へ向かって歩いていくシェリアに、王様が慌てて声をかける
「あ、案内は!」
「いらないわ」
何百年、いや何千年ここで生活したと思っているのか。
案内など今更必要ない。
「ふぅん...」
そして聖女様がご乱心なされたと皆が慌てる中
急いで部屋に向かいつつも未だ震えが止まらぬシェリアを
面白そうに見つめる人間がいたことには誰も気づいていなかった
最初の攻りゃ...じゃなくて警戒対象が出てきました
シェリアもなかなかに悪役が板についていますね。
まぁ、何千年と生きてるので悪役の思考や言動は熟知しているのでしょう。
ブクマありがとうございます!
今後も頑張ります!