俺を誰だと思っている!
聖女召喚からシェリアに接触するまでのマルクsideです
(なぜ聖女なんかが国王の次に偉い?)
兄を守るために、俺マルク・リーディンはずっと努力を重ねてきた
力を誇示し、自分の有用性を示さなければいけなかった
そしてようやく、国王直属騎士団の団長の座まで上り詰めたのだ
(俺より目立つ人間がこれ以上増えるのは許さん)
そんな決意を胸に迎えた聖女召喚の日。
聖女はみなに慈悲深い人間だと聞いていた。
しかし、実際に現れたのは国王にまで反抗的な聖女。
約束された地位までいらないと言う聖女に、俺は戸惑いを覚えた
(なぜ与えられた地位を自ら捨てようとするんだ...?)
自分より上に居座るのかそうでないのか。気がかりはそれだけであったはずだ
ならば国王に反抗的な態度をとり、聖女などやらないと豪語しているこの状況は自分にとって好都合な展開である。
なのに
(なんか、モヤモヤする)
結局その理由が理解できないまま、数日が過ぎた
ある日騎士専用の食堂でマルクが食事をとっていると、近くの騎士たちの会話が聞こえた
「あれ?お前、案外落ち込んでないのな」
「何の話だ?」
「ほら、暗殺者殺し損ねたやつ。すげえ怒られてたじゃねえか」
「あぁ、それがあの後、聖女様とたまたま会ってな。『暗殺者の撃退、成功したんですか?さすがですね!』って褒められてな...」
「え、いや、誰だよ。聖女様そんなこと言う人じゃないだろ」
「そもそも何で知ってるんだって話だしな」
「お前のこと好きなんじゃねぇの?」
「まさか」
(聖女様は人によって態度を変えるのか?
そういえば、聖女様に優しくされたと言っている侍女がいるとも聞いたな...)
あーでもないこーでもないと、そのまま思考の海に沈んでしまったマルクは
先ほどの会話の続きで「その後はいつも通りだったんだよ。たまたまだろ」と言っていたことには気づいていなかった
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ある日マルクは、人影の少ない庭に向かっている聖女様を見つけた
(好都合だ)
面倒臭がる団員を無理矢理連れ出し、聖女様の元へ向かう
しばらくしてマルクが庭に着くと、聖女様は庭にある黄色い花を見て嬉しそうな顔をしていた。
「性格の悪い聖女様もそんな顔をするのだな?」
俺の言葉に、聖女様はみるみる不快な顔になっていく
(そんなに不快なことを言っただろうか?)
首を傾げつつも、俺は耳ざとく聖女様のため息を知覚する
(聖女様が俺の言葉に反応した!)
思わず喜びに顔を歪めてしまう
「何だ?俺がきたことがそんなに嫌か?」
自分の喜びを『聖女様に嫌がらせができたから』だと解釈したマルクは、次に何を言おうかと思案していると
先に聖女様が口を開いた
「こんなところに大勢連れて何の御用ですの?」
不機嫌を隠そうともしていない
(俺は嫌いな方なのか)
その事実に付属する感情を知覚する前に、言葉を発する
「ほぉ?聖女様は随分と選り好みが激しいようだ。俺には愛想を振りまくことはできないと?」
そもそもこれを責めるためにきたのだ。
俺を嫌いならばむしろ好都合である
「何のことですの?」
しかし俺に向かい合うこともせず、適当にあしらってくる聖女様。
その態度に俺もだんだん苛立ってくる
「とぼける気か...っておい、いつまで俺に背を向けている!俺が誰だかわかってるのか!」
(俺は周りに力を誇示しなければいけない!
相手にもされないなんてそんなことあってはいけないんだ!)
聖女様の意識を自分に向けようと、必死に言葉を並べる
「自己紹介もせずにわかると思ってるだなんて、傲慢にもほどがあるのではないですの?
無駄話をしに来ただけなら私は部屋に戻りますわ」
そのまま横を通り過ぎようとする聖女様の腕を、俺は思わず掴んでしまう
「つくづくナメた女だ!
俺に喧嘩を売ってタダで済むと思ってるのか?聖女の力もマトモに扱えないくせに!」
聖女の力はまだ使えないはずだ
ならばコイツは言うことを聞くしかないだろう
成功を確信した瞬間、聖女様が突然笑い出した
しかし、なぜ笑い出したのか全くわからない
「何がおかしい」
いつまでも笑いが止まらない聖女様に、訝しげな視線を送りつつも聞いてみる
「ねぇ、マルク。あなた何でそんなにバカなんですの?何千回出会っても、私が何を言っても必ず喧嘩売ってきて!...だから、今回はあなたの喧嘩を買ってあげるわ!」
俺の名前知ってるじゃねぇかと思う間もなく
意味のわからない言葉を並び立てる聖女様に呆然とする
しばらく呆けている間に聖女様が離れていっていることに気づき、慌てて追いかけた
次回までマルクsideです
マルクは心の中でも聖女様呼びです
本当は尊敬していることの表れですね。本人は気づいていません




