姫の初登校(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の新たな物語。
平成17年9月22日の朝。ふと目覚めた龍は時計を見て、まだ6時で眠いということもあり、もう少し寝ようと寝返りをうった。
その視線の先に映ったのは、目の前で寝息をたてて、密着するように熟睡する澪の顔。
「どわぁ!」
驚いた龍は叫んで布団から転げ落ちたが、彼の受難はこれだけではなかった。
それから1時間半後。龍は自ら作った朝食をウトウトしながら食べていた。
超低血圧で寝起きが異常なほど悪い澪に、こってり説教されたせいで、二度寝ができず、眠気がとれなかったからである。
一方で澪は、不満を吐くだけ吐いてすっきりしたせいか、晴れ晴れとした表情で朝食を食べていた。
「大丈夫ですか? 龍さん」
多重人格かというくらい記憶も飛び、心配する彼女に龍は苦笑いを浮かべて大丈夫と言い、食事を終えた。
「ごちそうさま。じゃあ、僕。支度があるから」
そう言って龍は食器を流し台に入れて、留守番する彼女の昼ご飯と学校に行く準備を始めようとすると、昨日まで了解していた澪は、彼を呼び止めた。
「あ、龍さん。待って下さい。今日は私も準備がありますので、少し待ってもらえますか?」
「あ、あぁ、うん」
龍は頷いたが、彼女が何をしようとしているのか、いまいちよくわからない。
しかし、登校目前になって、彼女の言葉の意味がすぐにわかった。
朝のホームルームが始まった龍のクラス。その教室に、制服姿の澪が紫乃に連れられて入ってきた。
彼女はこれまで布教活動のため、ロクに学校に通っていなかったが、翔馬が作った偽造書類を基に転入届が出され、今日から綱手中学に通うことになったのだ。
澪が自己紹介すると、その珍しい名字と与那国島が地元ということで、同級生らはすぐ、例の事件で行方不明になった教祖の娘だとわかった。
そのため、龍の小学校時代からのクラスメートの栗原正人や美夜ら大半の生徒は、彼女に見た目やそのことで誹謗中傷を浴びせたが、龍や学級委員の生田真美が止めたことで、事なきを得た。
今回は龍と澪の恋愛話です。
彼女の新たな一面と、そんな彼女を取り巻く環境を知ってくださると幸いです。