殺神依頼(5)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の新たな物語。
龍と雲雀が別行動をとってから、約3時間半後の午後5時。別働隊である翔馬と大牙が、炊事ボランティアとして太陽の聖なる里に到着。
信者達の食事を作りながら、隠密活動を開始した。
と、ここまでは順調だったのだが、翔馬らの裏工作開始から3時間後、先行していた2人に問題が発生していた。
施設自体が洞窟を利用して作られた複雑な形状をしており、さらに予想以上に広かったせいもあって、見取り図を貰ったにもかかわらず、2人揃って道に迷ってしまっていたのである。
迷走した龍は運悪く途中で雲雀と鉢合わせになり、『早く探せ』と、自分のことを棚に上げる彼女から罵声を浴びせられた。
彼女の理不尽さにぶつぶつ文句を言いながらも、内通者捜しに専念しようしたその矢先、腐食した床を踏んでしまった彼は、床が抜け落ちたことで、そのまま転落した。
落下した龍は崖のような斜面を滑り落ち、下の層にあった空間の地べたにドシンと尻餅をついた。
尻の痛さにしばらく悶絶していた龍が、今どこにいるのかあたりを見渡すと、そこは眼前に膨大な量の水が溜まっている場所だった。
地底湖かと最初は思ったが、湯煙が立っており、手をつけたら温かい。彼はここが風呂場だとすぐに悟った。
だとすれば、人が入ってくる前に脱出しなければ。そう考える彼に湯煙の向こうから、
「誰かいるんですか?」
という、声が聞こえた。
ドキッとし、湯煙の向こうを凝視すると、目が慣れてきたのか、徐々に視界がクリアになっていく。
その声の正体をほどなくして知った龍は大いにたまげた。
何故ならそこにいたのは、一糸まとわぬ姿で入浴していた姫だったからである。
こんな形での再会に、龍は慌てふためいて素っ頓狂な声を出し、姫はそんな彼の声を聞いて、そこにいる侵入者が龍だと認識した。
「あ。もしかして昨日、怪我を治した方ですか?」
「あ、あぁ、うん。その……ごめん! 今出て行くから!」
そう言って頭を下げると、龍は回れ右して斜面をよじ登ろうとした。
しかし姫は、逃げようとする彼を呼び止める。
「待って下さい。その……ここを出たら、誰にも気付かれないように私の部屋に来て下さい。お話がありますので」
そう言われて龍が了承すると、姫は風呂の外にいる従者を呼んで自ら囮となり、龍が逃げるのを手助けをした。
この時、龍は姫の一連の言動を見て、ある可能性が頭に浮かんだ。
タイムリミットまであと3時間55分。
当然ながら、雲雀は龍を救うどころか無視して、先を急ぎました。