四つ子日記
覗いて下さり、ありがとうございます。
当作は日常が主軸になっております。
藤荻家には、四つ子(小学六年生)がいる。僕の弟妹たちで、とても賑やかだ。
「ゆうた~」
「何、母さん」
「立夏!それ私の!」
「立花のものはおれのもの~」
「六花、立夏どうにかして」
「六華...、無茶言わないでよ」
「四人とも、落ち着いて~」
僕は日記を隠し、母さんに返事をする。また四つ子が何かやらかしたのだろう。母さんは僕に丸投げだし、父さんは頼りないし、僕がどうにかしないと。
これは、僕、藤荻ゆうた(中学二年生)の四つ子日記だ。
Ⅰ 立夏の場合
「ゆうにぃ、遊んで~」
「やだ」
僕がこの間の誕生日に、やっと買ってもらったゲーム機で遊んでいたら、立夏がのしかかってきた。正直いって邪魔くさい。
あ、ほら、操作をミスって落ちたじゃないか。
「ゆうにぃってばさ~」
「......」
無視を決め込み、コンティニューを選ぶ。立夏はめげずにのしかかったままだ。そして、絶妙に揺れている。
あ、ほら、また落ちた。
僕は大きくため息をついた。ゲームの電源を落とす。
「ゆうにぃ!」
「......」
立夏がぱぁっと笑顔を浮かべたけれど、僕はさらに無視する。まだまだ、思う通りになんてやってやらない。
ゲーム機をしまい、古くなった学習机に腰かける。立夏はすごすごと僕から離れるしかない。机に向かったら、絶対に相手にしないという合図だからだ。勉強の邪魔だけは絶対させないために、これだけは全力をもって刷り込んだ。
宿題を取り出し、黙々と片付けていく。
立夏は遠巻きに僕を見て、あっちからチラリ、こっちからチラリと視界に入って、少々鬱陶しい。君も宿題あるだろう。この隙にやってしまえばいいのに。
一時間ほどで、立夏を無視しながら宿題を終えた。立夏は、その間ずっと僕の様子を伺っていた。
「ゆうにぃ、あそ...」
「宿題終わったの?」
ちろり、と見やると、立夏はうぐ、とわかりやすく呻いた。目を潤ませて見上げてくるが、そんなものは、父さんにはともかく僕には効かない。睨み続けると、立夏はうなだれてとぼとぼと自分達(四つ子はケイヒの問題で二人でひとつの机を使っている。)の学習机に向かった。時折わざとらしくこっちを見あげてくる。だから効かないって。
立夏が席について宿題をやり始めたのを確認して、僕はゲーム機を取り出した。これでじっくりゲームができる。
立夏はしつこい上に、馬鹿だから何をしでかすかわからない。うまくかわすには、先に口封じ(宿題をやっているところを見せるとか)してから、宿題をやらせるのが一番いい。その間なら、絶対に邪魔されないからね。
何故なら、基本放置の母さんは、宿題に関してだけは鬼だからだ。きっちりやらないと、夕飯が梅干とご飯だけになるのは、誰もが一度は経験している。僕ら兄弟の、それなりにある共通点のひとつだ。
「ゆうにぃ~...、わかんないよ、教えて...」
「...どこ?」
立夏の本気のヘルプ要請が入ったので、ゲーム機をスリープさせる。ここで、手を抜くと宿題に関することだから、母さんが怖い。
僕はゲームの傍ら、立夏の宿題を見ながらたらたらと時間を過ごした。
「おわぁったああああ!」
「おつかれ」
「ゆうにぃ、遊んで!」
「いいよ」
立夏の宿題が終わったのを見計らって、あらかじめゲーム機をしまっていた僕は頷いた。立夏は思い切り驚いた表情をしたあと、ぱぁっと笑った。
まぁ、ゲームも区切りがよかったし、ご褒美に遊んでやるのも悪くないな。
追記、立夏は案の定、サッカーをねだってきた。僕は首を振り続け、結局キャッチボールに落ち着いた。あいつの馬鹿さ加減には呆れる...。うちにはサッカーボールがないのに、どうやってサッカーをやるっていうんだ。
Ⅱ 立花の場合
「ゆうにぃ、買い物行きたい!」
「立花、宿題は?」
「もっちろん、終わらせたよ。立夏じゃないもんね~」
「じゃあいいよ」
立花は立夏と性格が似ているところが多い。そのためか、よく喧嘩している。今だって、妙に張り合っている。
僕がささっと支度を終えると、立花はまだあーでもないこーでもない、と髪型をいじっている。はっきりいって、どちらでも違わないと思うのだけど。
「まだ?」
「まだ!いっぱいいーっぱい、おしゃれしないと」
「なんで?」
「だってこれから、あの人に会うんだよ!?乙女は色々頑張るの!」
「あの人って...」
「ひみつ~」
いや別に知りたいわけじゃない。という知っている。四つ子の中で一番おしゃまな立花は、すでに憧れの人がいる。秘密だのと言っているけど、僕にはとっとと教えてきて、協力しろとのたまった。兄をなんだと思っているんだ。
ようやく準備を終えて、家を出る。正直、憧れの人に会うのならひとりで行けると思わなくもないが、家から少し離れた場所にある。心配性な父さんは、外出する時は必ず二人以上でいけと言う。特に女の子は厳しい。男を連れていけとうるさいのだ。
たらたらと歩いて、小一時間。小さな花屋についた。ふわりと花の香りが漂う。
「いらっしゃい、ゆうたくん、立花ちゃん」
「こんにちは、ゆきちゃん」
「こ、こんにちは...」
花の手入れをしていた、柔らかい雰囲気のお兄さんに声をかけられる。彼は結城ゆきさん。花屋の店員さんだ。立花の憧れの人でもある。
ゆきちゃんは、僕が小さい頃からここで働いていて、どうやら子供も好きらしい。母さんと一緒に来ると、よく構ってくれた。歳は二十五は超えていると思う。ほんとに立花はおしゃまだ。その割に照れているけれど。
「今日は、何にする?」
「立花...」
「えっと、ゆきさんのおすすめをください!」
「ふふふ、ありがとう。今日はね...」
ゆきちゃんと立花がひとしきり話すのを、少し離れたところから眺めて待つ。ほんと、なんで僕はこんなことしてんのかな…。
結局、立花は薄桃色の切花を、律儀に自分のお小遣いから買って、ご機嫌に帰途についた。僕、何しに来たんだろう。
追記、母さんは立花が毎日花を買ってくるので、何が起きているのか把握している。「ゆきちゃんがうちに来てくれたら安泰なんだけどね~」なんて言っていた。...怖いんだけど。
Ⅲ 六花の場合
「ゆうにぃ、今時間ある?」
「いいよ」
「図書館に行きたいんだ」
「いいよ。ほかのは?」
控えめにねだってきたのは、四人の中で一番まともな六花だ。腕には分厚い本をいくつか抱えている。
「宿題まだなんだって」
「ん」
行く気満々の六花と、ささっと準備を終えた僕は、ゆったりと玄関を出た。六花はうつむき加減に歩く。
「今何読んでるの?」
「動物の本」
「面白い?」
「うん!この本はね、いろんな動物がね、どんな特徴があって、どんな共通点があるか書かれてるの!それでね…」
六花は本を語らせれば長い。ちょっと話を向けるだけで、怒涛のように喋る。それに耳を傾けながら、図書館まで歩いた。無駄に気を使わなくていいので気が楽だ。
「......」
「......」
図書館につくと、あっという間に沈黙が下りる。六花は真剣に本を眺め、僕はそんな六花を真剣に眺めているからだ。
六花は普段は大人しいし、いうことも聞くし、一番まともだ。けれど、本が絡むと人格が変わる。他のことに注意を向けないんだ。
あ、ほら、柱にぶつかる!
慌てて、六花を引き戻す。
「...あ、ありがとう。ゆうにぃ......」
寝ぼけたように六花は言うと、また本に注意を向けてしまった。こんな調子なので、六花から目が離せない。
六花は一見真面目なので、宿題もきちんとやるように見える。けれど、甘い。本に夢中になって、忘れることがざらにある。母さんも学校の先生も、六花を操縦するのに苦労している。なにせ、本に夢中なあいだは、意識すら向けてこないのだから、話しかけようがないのだ。
「ゆうにぃ、決まったよ」
「ん、帰るぞ」
ふんわりとご機嫌に笑って、六花がやっとこっちを見た。この隙にと帰ることを提案する。六花は素直に頷いた。
本を借りて図書館を出る。また六花の本の話を聞きながら、たらたらと歩く。今日も疲れたなあ。
追記、六花は本にかかわらない時は、四つ子の中で一番しっかりして、みんなの世話をしている。だから、なるべくおねだりに応じたくなるんだよね。
IV 六華の場合
「......」
「六華」
「......、なぁに?」
「宿題は?」
基本無反応、返事はしない。というのが六華の特徴だ。特に都合が悪いと反応が鈍い。
今だって、漫画に夢中になって、宿題をしていないことが丸わかりだ。そして、僕はこいつに宿題をさせなければならない。
「六華」
「なに?」
漫画を読み終えた六華に声をかける。六華も分かっているのか、返事は堅い。
「宿題」
「.........」
無視だ。地味に傷つくんだよ。
「宿題」
「......やだ」
今度は拒否だ。次の漫画に手を出そうとするんじゃない。
六華の周囲から漫画を取り上げる。六華は無表情にこっちを見上げてきた。やめて、なんか怖い。
「漫画」
「宿題したら返す」
「......、意地悪」
どっちがだ。そう言いたいのを飲み込んで、逆に睨み返した。しばらく、この状態が続いた。
「......やる」
「よし」
勝った。六華は渋々、机に向かう。宿題に手をつけたのを見つめながら、内心ガッツポーズだ。
けれど、六華はすぐに鉛筆を置いてしまった。
「飽きた」
「はやい」
六華は飽き性だ。だから、宿題が長続きしない。やめて、僕にそのツケが巡ってくるから。
「一個終わったら一個飴やる」
「やる」
最終手段、飴作戦だ。六華はご褒美に弱い。母さんから軍資金として飴を勝ち取っておいてよかった。これで夕飯が確保された…。
僕は六華がきちんと宿題をやり終えるまで、しっかり見届けた。ほんとに、四つ子の中で一番扱いにくい...。
追記、六華はマイペースだけど、立夏と立花が騒いでいると、一番気にする。よく六花や僕に止めろと訴えてくる。他力本願だ...。
こうして僕の毎日は過ぎていく。正直、四つ子は面倒くさい。でも。
「ゆうにぃ~」
こうやって頼られるのが、気持ちいいことも確かなんだ。
こんな毎日が、続けばいのに。...やっぱり毎日は嫌かも。
おしまい。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ちょっとした設定をば。↓
主人公 中学二年生 兄
面倒臭がりながら兄弟の面倒を見る苦労性。自覚なし。
立夏 小学六年生
おバカ。愛すべきおバカを目指しました。
表現しきれたかは謎。
立花 小学六年生
おしゃま。兄弟の中で唯一恋愛をしていて、しかも年の差。相手にはされていないが、恋に恋しているので構わないらしい。
六花 小学六年生
真面目。真面目が過ぎて、時々問題児に。普段は四つ子のストッパー。今回その描写はできませんでした。反省。
六華 小学六年生
マイペース。一番わがままかもしれない。他力本願の天才。本当は宿題も写したい。しかし、お母さんは怖い。
最後までありがとうございました。