ファイナル・エピソード
俺は空間転移の術式を唱えた。
一瞬で俺は転移し、何も無い真空の宇宙空間に一人浮かんでいた。
俺の周りには球体のバリアが張られ、十分な酸素は確保している。
遥か彼方に小さな惑星と衛星が見える。
俺がいた異世界と狭間の世界だ。
今頃、我がカエル王国の国民たちは、モニターの前で息を凝らして俺のことを見守っていることだろう。
俺はインベントリーを開いてみた。
俺が生涯かけて収集し、錬成したこの世のあらゆる物がアイテム化し、収納されている。
「これだけあれば大丈夫さ!」
俺はインベントリーを閉じ、両手を高く掲げて叫んだ。
「GENECIS!!」
俺の開発した錬金術師の最終術式だ。
この世を錬成する「創世」の術式だ。
インベントリーの中の物質を原子レベルで分解し、再構築することで虚空に生命に適した世界生み出すテラフォーミング術式である。
この何もない宇宙空間に俺は新しい世界を生み出すつもりだ。
周囲の空間がまばゆい光に包まれた。
大地が、海が、空が錬成されてゆく。
大地には俺にとって懐かしい原風景が構築されていった。
学園の校庭が、校舎が、みんなが暮らしていた家や街が組み立てられてゆく。
やがて、気が付くと俺は一人、誰もいない夕暮れの教室に立っていた。
俺は十六歳の少年の姿に戻っている。
「ゲロゲロ!うまくいったぞ!これで新しく転移するやつらの受け皿が完成した。我がカエル王国の国民が非業の死を遂げた時、この新世界に転生させてやるんだ」
俺は遠い記憶を頼りに、出来るだけ正確にかつて俺が暮らしていた街を再現したつもりだ。
この街はカエル王国とは似ても似つかない異世界だ。
「きっとカエル王国から転生してきたやつらはとまどうだろうな!お、俺は異世界に来てしまったのかあ!?ってな!面白れぇ!ゲロゲロ!」
俺は街の様子を見て回った。
街にはゴーレムを下地にして錬成した住民で溢れていた。
奴らは俺がこの世界の創造主と言うことは知らない。
大勢の学生やサラリーマンたちが足早に家路を急いでいた。
みんな、それぞれの家庭があるのだ。
「俺はどこに帰ろうかな……」
自分の住むところのことは考えていなかった。
「仕方ない。昔の自分の家に帰ってみるか……」
俺は大昔、自分が暮らしていた住宅地に瞬間移動をした。
俺の両親を模したゴーレムが住んでいるはずだ。
「しばらくは、ここを拠点に暮らしてみるか」
俺は小さな建売住宅のドアを開けた。
懐かしさのあまり、つい思いがけない言葉が口に出た。
「ただいま」
すると、家の奥から大勢の少女達の声がした。
「おかえりなさい!」
大勢の少女達がドドドドと玄関に駆け寄ってくる。
みんな見覚えのある懐かしい顔だった。
「えっ!?ど、どうしてお前ら俺の家にいるんだ!?」
「何を言ってるの、あなた?」
「自分の嫁の顔、忘れたんか?」
「Tu plaisantes?」
「自分が無理やり呼び戻しといて」
みんな、裸足で玄関にまで降りて来て、俺を取り囲んで懐かしそうに身体を触ってきた。
俺が創造した転生システムは、カエル王国で死んだ人間を転生させる事ができる。
かつてカエル王国で死んだ俺の嫁達も、俺は無意識に転生させてしまったようだ。
「いいのか、お前ら?もう転生物は飽きたんじゃないのか?」
俺が多少罪悪感にかられて尋ねると、嫁達はあっけらかんとした口調で答えた。
「まあ、蘇るのは慣れてるからな」
「元の世界に戻ったみたいで嬉しいです」
「さすがですわ、カエル男様!」
みんなにそう言ってもらえ、俺は涙が込み上げてきた。
自分がずっと孤独だったことにようやく気が付いた。
「ああっ!カエル男が泣いてる!」
「うるせぇ!」
俺は手で涙を拭うと、両手を大きく左右に広げてみんなに言った。
「ようこそ、異世界に!」
おわり




