04
この回想シーンの間、俺はボーとして和泉 康平がゾンビに殴られているところを見ていた。
「あなた、なにをボケッとしているのよ!早くコウヘイを助けなさいよ!」
高見 真央が偉そうに俺に命令した。
「助けろっと言われましても、俺にどーしろと?」
「あなた、剣を持ってるじゃないの!それでこのゾンビをぶっ殺しなさいよ!」
ここに駆け付ける際、俺はインベントリ―から石の剣を取り出して右手に持っていた。
インベントリーの中身は他人には見えないが、手にした物は見えてしまうのだ。
真央に偉そうに命令されて、俺はむかついた。
(やっぱ、ここはスルーして帰ろう)
すると、和泉が真央の手を引いて、俺の方に向かって駆け出してきた。
「あいつを殺るんだ!このグズ!」
和泉と真央は俺の背後に回って、おれの背中を押した。
ソンビは両手を前に突き出し、ゆっくり俺に向かって来る。
「――――しかたねぇなあ!」
俺は石の剣を振るって、破合線に沿ってゾンビを切り刻んだ。
ゾンビは煙とともに姿が消え、後にはアイテム化した一片の腐った肉の塊が落ちていた。
「おい!カエル男!お前、いい物もってるじゃないか」
和泉は俺が右手に持っている石の剣を指さした。
「貴様みたいなグズが持っていても宝の持ち腐れだ。僕によこすんだ!」
「そうよ!早くコウヘイに渡しなさい!」
真央もさも当然といった顔で、俺に命令した。
「助けてやったお礼もなしかよ」
「何をブツクサ言ってるんだ!相変わらずキモい奴だな」
「コウヘイ!ホッとしたら私、お腹がすいちゃった!何か食べたーい!」
「弱ったなあ。残念なことに僕は何も持っていないんだ。おい、カエル男!貴様、何か食べ物持っていないのか?」
「リンゴなら持っているが、これは俺の分だ。腐った肉でも食うか?」
「ふざけたことを言うんじゃない!今は非常事態なんだぞ。貴様みたいなクズが死んでも誰も困らないが、委員長で未来の政治家である俺、和泉 康平が死んだら大変な損失だ」
「そうよ!そうよ!コウヘイの言う通りだわ。とっとと武器と食べ物、よこしなさいよ!」
「やなこった!」
「な、何ッ!?貴様、今、何て言った!?」
「コウヘイ!あいつ、やなこった!って言ったのよ」
「うぬぬぬぬ!!貴様、カエル男のくせに僕に逆らうのか!また、みんなでイジメて、学校に来れなくしてやるぞ!」
「―――お前ら、バカか?」
「何だと!クラスのカースト最下位のカエル男が、学年トップの僕に向かってバカだと!?」
「底辺這いずり回ってるカエル男のくせに、コウヘイにバカって言うなんて!?身の程しらずの大馬鹿ヨ!!」
「大馬鹿はお前らの方だ!ここはもう異世界なんだ。お前らがヌクヌクと暮らしていた学校も家もないんだぞ」
「いいから、よこせ!」
業を煮やして、和泉が俺の右手から石の剣を奪い取ろうとした。
「ぐさっ!」
俺は何のためらいもなく、「ぐさっ!」と口に出しながら石の剣を和泉の右胸に突き刺した。
「ぎゃああああ!!」
和泉が甲高い金切り声をあげた。




