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 もう一度後から掛け直そうとしたら、誰かがスマホに出てきた。


「はあい、もしもし?」


「おっ!?その声は……………?誰だっけ?」


「私は増田 彩香ですよ!担任教師を忘れるなんていけない人ですね!」


 スマホがビデオ通話の画面に変わり、眉をひそめた彩香先生の顔が映った。


「彩香先生か。大丈夫かい?」


「ええ。私は無事ですよ。それと、赤ちゃんも……」


 彩香先生はもじもじと決まり悪げに言った。


「私たちは母子共に健康ですよ。でも、教え子とこんなみだらな関係になるなんて、教師失格だわね、私」


「いや、あのう……」


「そうだわ、カエル男君。私たちの愛の結晶、ベイビーちゃんの顔、まだ見たたことないでしょ。今、見せてあげますね。ほーら、ベイビーちゃん、パパですよ」


「彩香先生!今はそんな話をしているヒマはないんだ。ゾンビ軍団に襲われているんだろ」


「ええ。今も家の外でドンドンって窓や扉を叩いてとってもうるさいわ」


「何をのんきなこと言ってんだよ、彩香先生!」


 ようやくつながったスマホでやきもきしながら彩香先生とビデオ通話をしている俺だが、彩香先生はのほほんとしている。


「扉を石ブロックで塞いでいないのか?」


「さっき西さんからそんな電話がありましたけれど、あいにくと、私やり方知らないもの」


「おいおい!アイテムをインベントリーから出して置くだけじゃないか」


「石なんか持っていませんわ」


「――その家には他に誰かいないのか?」


「私と赤ちゃんだけですよ」


「――他のやつらは今、どんな状況なんだ?」


「えーとですねぇ、私と井稲真耶さん、西香菜子さんママさんチームはそれぞれ自分の子供と一緒に豆腐小屋に避難しています。双子とジュリアさんラクロスチームも別の豆腐小屋に一緒にいます」


「ふんふん」


「残りの大塚美乃里さん、菅原瑠奈さん、小田桃歌さんは、自分たちで建てた新しい家にいます」


「美乃里達は自分で家を建てたのか?」


「ええ。豆腐小屋なんか格好悪くて住みたくないって言ってましたよ、ウフフ!」


「ウフフ!じゃねぇよ」


 相変わらず緊張感のない天然な先生だ。


「先生!のんびりしてないで、早くバリケードを築かないと、ゾンビが中に入ってくるぞ!」


「何を慌てていらっしゃるの?みなさん、ゾンビは家の中までは入って来れないから安全だって言ってましたよ」


「そいつらは通常のゾンビよりずっと力が強いから、扉や窓を破って入ってくるぞ!」


「えっ!?嘘!嘘!」


「嘘じゃねぇよ」


「こ、こうしてはいられないわ!急いで窓を塞がないと!」


 自分の置かれている状況をようやく理解した彩香先生は、狼狽してあたふたしだした。


「ねぇねぇ、カエル男君!どうやって扉を塞いだらいいのか教えて下さいな!」


「小屋の中に物入れがあるだろう。中を開けたら石ブロックが入っているはずだ。それを取り出して自分のインベントリーに入れるんだ」


「えーと、ちょっと待ってね。よいしょっと………。あらあら?えーと、こうかしら?出来ましたわ!」


「それじゃその石ブロックを扉の前に置くんだ」


「置くってどうやって置くの?」


「そこからかよ!右手に石ブロックを持って、置きたい場所を意識して、指でチョンとクリックするような感じで……」


「はいはい…………。あらあら!出来ましたよ!」


「それじゃあ、他の扉や窓も同じ要領で塞ぐんだ」


「はいはい。もう大丈夫ですよ。私はやれば出来る女ですからね」


「俺は今、そちらに向かって降下中だ。必ず助けるから、それまで踏ん張ってくれよ」


「踏ん張れと言われましても、どれくらい待ったら良いのかしら?」


「そうだな。初めて彩香先生が異世界に転移して来て、この大穴を降下した時はどれくらい時間がかかった?」


「う~~~ん。はっきりと計ったわけじゃありませんけど、恐らく1時間ぐらいだったと思いますわ。私、なるべくスピードを落とそうとスカイダイビングの人みたいな恰好をしていましたの」


 その恰好なら時速200キロメートルだったのだろう。


 時速200キロで約1時間。


 ということは、穴の深さは200キロはあると言うことだ。


 俺が時速300キロメートルで降下しても40分は時間がかかる計算になる。


「―――あと40分以内で着く。それまで頑張ってくれ。他のみんなにも伝えておくれ」


「40分ですか。長いような短いような。わかりました。お待ちしていますね」


 そう言ったきり、彩香先生はいきなりスマホを切った。



 俺は激しい乱気流にもみくちゃにされながら、必死に姿勢をコントロールしながら降下し続けた。


 ただ、夜で暗いのが幸いし、心配していたワイバーンには見つからないですんだ。


 真っ逆さまに降下しながら戦闘するなんて、考えただけでもゾッとする。

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