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「パパに見せたい物があるの」
翌朝、美衣奈に連れて行かれた草原には、木の柵で囲った小さな牧場ができていた。
柵の中には数頭の豚と羊と鶏が飼われていた。
俺がいなくなってから、美衣奈が苦労して一人で集めてきた家畜達だ。
「おおっ!羊までいるじゃないか!」
「草原の方でメェーメェー鳴いてる声が聞こえたから、見に行ったらいたのよ」
「明るくて草の生えた土地に動物達はスポーンするらしいからな。それで待望の羊毛は手に入れたのかい?」
「それはまだなの。殺すのは忍びないし、かといって、羊毛を刈るための道具持っていないから、パパが帰ってくるのを待っていたの」
「そうか。羊毛さえあればベッドができる。ベッドが出来たらリスポーン地点を変更したり、時間をすっ飛ばして夜を朝にしたりと色々と捗るぞ」
「ええ。パパからその話を聞いていたから、一生懸命、羊を捜してきたのよ」
美衣奈がして欲しそうだったので、俺はよしよしと彼女の頭を撫ぜてやった。
「ところで、俺のこと『パパ』って呼ぶの止めてくんない」
「そう?じゃあ、『あなた』って呼ぶわ」
「―――ま、呼び方なんて何でもいいや。それよか羊毛を刈るにはバリカンが必要だ。バリカンを錬成するには鉄が必要だ。鉄は持ってるかい?」
「いいえ。鉱石掘るには暗い洞窟に潜らないといけないでしょ。私には怖くて無理です」
「そうか。だったら鉄鉱石は地底の宝物庫に山積みされていたから、あれを取りに行こうか」
「ええ~~~!また、いなくなるのですか?」
「今度は本当にすぐに戻ってくるよ」
「本当かしら?あなた、一度飛び出したらなかなか戻って来ない鉄砲玉みたいな人だからなあ」
「いやいや。それにあれだ、地底に閉じ込められてる仲間を何とか地上に戻してやらないといけないし」
「地底に残してきた仲間達を救出するのは、鉄鉱石を取りに行くついですか?生まれ変わっても、相変わらずですね。でも、救出する方法がまだわからないのでしょ」
「そうなんだよなあ。うーん!ちょっと、地底のみんなと相談してみるよ」
「念話ですね。錬金術師同士ならばお互いに会話ができて便利ですね」
「ああ。俺が生き返ったことも知らせておかないとな」
「えっ!?まだ、知らせていなかったのですか?」
「いやあ、何かと気になることがあって、ちょっと連絡をためらっていたんだ」
俺は牧場の家畜たちにエサを上げながら、念話を使ってみた。
横にいる美衣奈にもわかるように、敢えて言葉を口に出しながらだ。
「TELL 西 香菜子 俺だ。聞こえるか?」
即座に返事が返ってきた。
(何してたのよ、このクソガエル!?生き返ったのならすぐに知らせなさいよ!!)
いきなりの罵倒に、俺は頭から冷水をかけられたように感じて突っ立った。
「えー、えーと、そちらは皆さんご息災でしょうか?」
(全員無事よ。牢屋に閉じ込められていた三人を連れて、私達の拠点のロックリーフに戻ったわ)
「お宝は?」
(目ぼしいものはすべて持ち帰ったわ。今もメイドゴーレム達を使って、アイテムをロックリーフに運ばせてる最中よ)
「むしろあの豪華な洋館を本拠地にした方が良かったんじゃねぇの?」
(だって、いつ森君がリスポーンして、復讐しに来るか分からないでしょ)
「もう、その心配はいらない………」
(――ああ、そう言うことね………)
「そう言うことだ」
(消える命あらば、生まれ来る新たな生命もあるのね……)
俺は悪事を咎められたように体を強張らせた。
「ギクッ!やっぱり産まれたのか?」
(ったく!一体いつの間にかみんなに手を出していたのよ!)
「――それでどなたにお子さんが出来たのかなあ?」
(増田 彩香先生と井稲 真耶)
「二人もか!」
(それと私もいれて三人よ!このろくでなし!!)
「申し訳ございません!」
俺はその場にひれ伏し、地面に頭を擦りつけた。
その様子を隣で見ていた美衣奈は深くため息をついた。
「その様子だと、あちらでも赤ちゃんが産まれたようですね」
「はい……」
「何人ですか?」
「今のところ、三人………」
「今のところってことは、まだ、この先、増える可能性があるんですね」
「はい……」
「まあ、この異世界の仲間が増えることは喜ばしいことです。私達、転移してきた人間だけでは、寂しいですもの。あなたは、この異世界を繁栄させるために生まれてきた救世主なのかもしれませんね」
おお!なんと心の広い、慈愛に満ちた女性なのだろう!
俺は感動して、思わずもう一人、異世界の人口を増やしたくなった。




