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パアアアアアアン!!
突然、風船がはじけるような音がした。
鮮血と肉片が周囲に散らばり、砂浜を真っ赤に染めた。
俺を殺そうと竹刀を突き出していた森の身体が、木っ端微塵になってはじけ飛んだのだ。
「えっ!?」
俺は一瞬、何が起こったのか理解できずに、呆然として身じろぎひとつもしなかった。
「――森がはじけ飛んだ!?森は終了したのか!?それで身体がバラバラになったのか!?でも、森は終了を選択していなかった。リスポーンするつもりだったのに………?」
俺は砂浜の穴倉の底に横たわったまま、ハアハアと呼吸を整えながら上空を見上げた。
すると、俺が開けた穴の縁に黒い人影が立っていることに気が付いた。
黒い人影、死神の顔は見えないがこちらを覗き込んでいるようだった。
「―――そうか、時間切れか!?生き返るか、終了するかを選択をしないでいたら、時間切れで強制終了になるんだ!」
森は転生する際にも、聞かれたことに答えないでいたら時間切れでチートが使えなくなったと言っていた。
今度もまた、時間切れで自らリスボーンの機会を放棄してしまったのだ。
「ドジったな、森。復讐なんか考えずに、すぐに生き返っていたらよかったのに………」
俺は静かに目を閉じると、砂浜に散乱するかつては森だった肉片に対して黙とうを捧げた。
と、俺はハッと気が付いて目を開けた。
「冗談じゃない!俺もヤバイんじゃねぇの!」
森が死んだ2分後に俺も死んだのだ。
ということは、2分経てば俺も時間切れになってしまう。
「死神様!今、行きますから待っていてください!!」
俺は砂浜に自分で開けた穴の壁を必死によじ登っていった。
黒い人影は、じっと俺が登ってくるのを待っていた。
俺の頭に男とも女ともつかない不思議な声が響いてきた。
「生き返りますか?終了しますか?」
いくら死神を探しても見つからない筈だ。
森が答えを保留していたので、死神はずっと彼のそばに張り付いていたのだ。
森が時間切れで消滅したため、ようやく俺に対して問いかけてくれたのだ。
「決まってるさ!生き返るぞ!俺は生きていたい!」
「承知しました」
死神がそう言うのを聞いて、俺はホッと胸を撫でおろした。
死なないと決まったら、俺は余裕が出てきた。
ここぞとばかりに今までの疑問を死神さんにぶつけてみた。
「ねぇ、ねぇ、死神さん。あんたって一人しかいないのかい?だったら、いっぺんに大勢が死んでここに来たら、みんな並んで待たないといけないのかい?あんたはいつからこの仕事に従事してるの?ここに来る奴らってうちの学園で死んだ人間だけなの?だったらこれ以上増えないの?そもそも、何のために俺たちは異世界に来たの?あっ!もしかしたら俺達って絶滅寸前の異世界を救うために撒かれた種なんじゃないの?」
しかし、死神は答えを知らないのか、あるいは答える権限がないのかわからないが、まったく俺の問いは無視しやがった。
突然、俺の目の前が真っ白になった。
どっちが上だか下だかわからない状態で、まるでウォータースライダーで滑ってるような感じで白い空間を俺は高速移動していた。
「ハハハハハ!こりゃあ、楽しいや!こんな体験が出来るのなら、何回も死んでみたくなるなあ」
と、俺は黒樫と白樺が混生した森の中に立っていた。
「ここは………?」
足元には見覚えがある宝箱があった。
ここは俺のリスポーン地点だ。
「俺は生き返ったんだ!!死神さん、ありがとう!!」
無事に俺は初めてのリスポーンに成功した。
幸いにも、太陽が頭上で輝いていた。
モンスターに襲われる心配がない。
「とりあえず、この前は放置していたが、自分の宝箱を回収しないとな」
俺は手刀で樫の木を切って材木を作り、作業箱を作った。
そして、作業箱で棒を作って、木製の斧、スコップ、ツルハシ、剣を作った。
「いやあー、こうして標準装備を一から作ってると、初心に戻れるなあ」
ついさっきまで、狭間の世界で森と死闘を繰り広げていたのも、もうすっかり忘れて、俺は上機嫌だった。
俺は木製の斧で宝箱を叩いてアイテム化し、インベントリーに入れた。
「さて、久しぶりの我が家に帰るとするか!」
俺は土ブロックを積み上げ、土の塔の頂上から周囲を見渡した。
すると、すぐに見覚えのある砂の塔、始まりの塔が見つかった。
「長沼 美衣奈ちゃん!今、帰るからね!」
俺は森の中をジャンプダッシュしながら、始まりの塔目指して駆けて行った。




