03
川辺には真っ白な砂浜が広がっている。
俺は手刀で砂の破合線を切ってアイテム化し、黙々と砂ブロックを集めた。
この砂を窯で燃やせば、ガラスになるのだ。
砂を100個ほど採ったので、そろそろ帰ろうとした時だ。
森の奥の方から人の声がした。
よくは聞こえないが、男の声で何か叫んでいた。
「―――男か………。つまらん」
俺は腹が減ってきたので、リンゴをかじりながら家路を急いだ。
「キャーッ!!」
森の奥から女の叫び声がした。
若い女の声だ。
俺は叫び声が聞こえた方角に向かって脱兎のごとく駆け出した。
樫の木が生い茂った薄暗い森の奥では、見覚えのある学生服の男とセーラー服の女が、1匹のゾンビに襲われていた。
ゾンビは薄気味悪いうめき声を上げながら、ボコッボコッと学生服の男を殴っていた。
目を凝らしてよく見ると、襲われているのは同じクラスの和泉 康平と高見 真央だった。
「なるほど。そのパターンか。クラスごと、この異世界に転移してきたんだな」
美少女が襲われているなら、助けて恩を売ろうと思ってきたが、高見 真央は和泉の彼女だ。
和泉の父親は市会議員をしており、真央の父親はその後援会の会長をしていた。
二人は幼い頃から許嫁として育てられてきた。
(いくら美人でも、中古女なんかいらねぇな)
俺はそのまま、そっと戻ろうとした。
「あっ!お前、安藤じゃないか!ボサッとしてないで、助けろ!」
残念ながら和泉に見つかってしまった。
ここで少々、回想シーンに入る。
すぐに終わらせるから我慢してくれ。
今年の4月、入学式が終わって、初めて教室でホームルームをしていた時だ。
ひとりひとり席に立って自己紹介をしていた。
俺の番がやってきた。
「XX中学出身の安藤智哉です。趣味はパソコンゲームです。よろしくお願いします」
そう言って座ろうとしたら、椅子がなくなっていた。
「痛い!」
俺は無様にひっくり返ってしまった。
「アハハハ!悪りぃ!悪りぃ!」
後ろの席に座っていた和泉が薄ら笑いを浮かべながら、俺のことを見下ろした。
和泉が俺の椅子を後ろに下げて、俺を転ばせたのだった。
クラス中の奴らが俺の無様な姿を見て、嘲笑った。
「意地悪したらダメじゃないの、コウヘイ!」
そう言って、俺の隣の席の美少女、高見 真央が手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとう……」
俺はオズオズと手を伸ばして、真央の手をつかんだ。
と、真央が俺の手を振り払った。
「いやーん!この人の手、ネトネトしてるぅ!カエルみたい!」
この瞬間、俺は「カエル男」のニックネームをもらい、クラスの最下層の人間として認定され、イジメの対象となった。
和泉は父親の地盤を引き継いで、将来、政治家になる運命にあった。
そのブレッシャーはすさまじく、和泉はそのストレス解消のために、クラスで一番冴えない俺をスケーブゴートに選んだ。
俺の高校は進学校だったので、表面的にはおとなしい人間ばかりいたが、裏に回るとネチネチとしたイジメが行われていた。
回想シーン、終わり。




