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夜の気配の中、かすかな潮の香りに俺は目覚めた。
波打ち際に俺はあお向けに横たわっていた。
夜空には星一つない。
起き上がって周囲を見回したが、目の前には水平線、背後にはただ銀色の砂浜が広がる。
砂浜をひた押しに這い寄る霧が、砂浜と海水を区切る線を消していた。
「そうか。俺は死んだのか………。以前、井稲 真耶に聞いた死後の世界、狭間に俺はいるんだ」
俺は異世界に転移した時と同じ夏服の学生服を着ていた。
「そうだった。着ていた服はマグマ溜まりに落ちた時に焼けちまったんだよな。でも、その服がまた元通りに復元されている」
シャツをめくって自分の腹を見たが、怪我の跡もまったく見あたらなかった。
(―――気が付いたらアタシは砂浜にいた。目の前には一面に広がる漆黒の海。狭間の世界だ。黎明という言葉がぴったりの神秘的な世界だった)
俺は真耶の言葉を思い起こしていた。
(しばらくそこに突っ立ていたら、何か黒い人影が現れて、アタシに尋ねるんだ。生き返りますか、それとも終了しますかと。声じゃない。頭の中に直接響いてくるんだ)
「そうだ!早く生き返らないと!」
黒い人影を探して、俺は波打ち際をゆっくりと歩いて回った。
ところどころ、砂浜には足跡や血しぶきの跡が残っていた。
これは狭間の世界の先客達の痕跡だろう。
黒い人影に尋ねられた時、生き返りを選択すると異世界にリスポーンする。
終了を選択すると、全身がはじけ飛び消滅してしまう。
そう、真耶は言っていた。
黒い人影とは死神なのだろうか。
しかし、終了を選択する人間なんかいるのかな?
リスポーンを何度も繰り返していると、いつか、もう消滅してしまいたくなる日が来るのかもしれない。
俺たちは怪我をしてもすぐに治るし、おそらく病気もしないのだろう。
老衰で死ぬ時がきても、リスポーンしたらまた、今の十六歳の自分に戻るのだろうか。
もしそうだったら、俺たちは不死の存在だ。
この先、何百年、何千年とあの異世界で暮らしていくのか?
(異世界に転生するとは、こういうことなのか)
身体は若返っても、記憶は、精神はリセットされるわけではない。
果たして、人間の精神は何千年もの時の流れに耐えられるのだろうか。
いや、何万年、何億年、何十億年と俺は異世界で生きてゆくのか?
俺が暮らす異世界は、無限に存在するのか?
異世界と言えども地球と似たような惑星だ。
惑星や恒星にだって寿命がある。
太陽は100億年もたてば白色矮星になり死を迎える。
それでも俺がリスポーンしたら、何も無い虚空に転生するのだろうか。
「嗚呼!!考えていたら頭がクラクラしてきた!!」
こんな辛気臭い狭間の世界にいるから、変な考えばかり思い浮かぶのだ。
そんな先のことより、リスポーンしてからのことを計画しておかないといけない。
俺がリスポーンするのは、あの始まりの塔を建てた森の中だろう。
所持品はなにもない。
もしも、夜中だったらモンスター達にたちまち襲われるだろう。
(覚えた術式は使えるんだろうな)
ふと不安に駆られ、俺は術式を詠唱してみた。
「DIG ON!」
足元の砂浜に手刀を突き刺した。
たちまち、20ブロック×30ブロックの範囲の砂がアイテム化し、巨大な穴が生まれた。
「よしよし!術式はちゃんと使えるぞ」
モンスターに襲われたら、穴を掘って隠れるか、土の塔を作って朝になるまで避難したらいい。
朝になったら、始まりの村に行って、久しぶりに長沼 美衣奈に会うのだ。
(それじゃあ、ちょっくら、行ってくるわ!)
(気を付けてね!早く戻ってきてね!ケーキ作って待ってますから!)
俺は長沼 美衣奈を一人「始まりの家」に残し、大渓谷目指して旅立った朝のことを思い出していた。
「あれが美衣奈との今生の別れになってしまったな。今度美衣奈と会う俺は、生まれ変わった新生カエル男だぜ!」
歩き疲れた俺は砂浜に腰をおろし、じっと海をみつめながら死神が現れるの待った。
「おーい!俺はここにいるぞお!早く来てくれよお!」
俺は水平線に向かって叫んだ。
すると、背後に何かの気配がした。
ハッとして、俺は振り返った。
そこには探していた黒い人影が、死神が浮かんでいた。
だが、そこにいたのは死神だけではなかった。
「やっと見つけたぞ、カエル男!」
剣道着姿の森 泰斗が竹刀を構えて立っていたのだ。




