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森の甲冑の肩当に触れた途端、鎧の持つ魔力に俺は弾き飛ばされ廊下に転がっていた。
「ハハハハ!私に触れようとしても無駄だぞ。私の全身を包むこの魔法の防具はあらゆる攻撃を防ぎ、ダメージを跳ね返すのだ」
「ぼ、ぼくの考えた最強の防具シリーズか!?」
「ほほう!その名を知っていたのか?腐ってもお前たち、錬金術師なだけあるな」
「何もかもお見通しか」
「決まってるだろう!私はこの異世界の覇者となるために転生した男だ!お前たちも私のために働く運命なのだ!」
森はワッハハハと全身を上下に揺すりながら高笑いをした。
「しっかりしてよ!カエル男君!」
俺は香菜子の手を借りて、助け起こされた。
俺達は困惑した表情で互いの顔を見合わせ、こっそりと念話で会話した。
(森君って、こんなキャラだった?)
(俺はあんまし学校来てなかったから知らねぇよ)
(なんか、いい年して中二病発症した人みたい。彼、頭も良くて、スポーツマンだから女生徒の人気の的だったのよ)
(どうやら俺達と友好的な関係を築けそうもないな)
(そのようね)
(何とか、隙を見つけて逃げ出そう)
(それしかないわね)
俺と香菜子は森に促され、洋館の外に建てられた宝物庫に入っていった。
そこには何百もの物入れが積み上げられ、メイド達によって貴重な鉱石や食料品が整理され、収納されていた。
「壮観な光景ね!まるでAMAZONの倉庫みたいだわ!」
積み上げられた宝の山を見上げ、香菜子が興奮して叫んだ。
俺たちは森の後ろを歩いて、なおも宝物庫の奥へと向かって行った。
宝物庫の一番奥には、宝箱が五つ、並べて置かれていた。
「この穴倉を捜索して、ようやくこの5個の宝箱を発見した。後で、お前たちの宝箱も私に提供するんだぞ」
5人のメイド達がそれぞれ宝箱の前に並び、魔石を蓋の窪みに一個ずつセットした。
メイド達は一斉に箱の横にあるレバーのような棒を引いた。
宝箱から「ピロロロロロン」という奇妙な音がし、メイド達は宝箱の蓋を開けた。
4つの宝箱からはありふれたモモの実やパンが出てきた。
ハズレである。
だが、最後の宝箱からは黄色に輝くタブレットが出てきた。
「イエローサファイアのタブレットだ!?」
「ほほう!大当たりの瞬間を目にするとは、お前たち運がいいぞ」
「こうやって、メイド達に魔石を掘らせて、宝箱でレアアイテムを集めているのか」
「そうだ!見ろ!」
そう言うと、森はダイヤモンドで出来た豪華な細工が施された物入れを開いて見せた。
中には様々な色に輝くタブレットが何十枚も収納されていた。
「凄いわ!!これだけのタブレットを一人で使ったら、史上最強の錬金術師になれる!!」
「世界だって、簡単に自分の物にできるだろうな!」
森の辞書に謙虚の文字はない。
森は両手を広げ、天を仰いで芝居がかった口調で叫んだ。
「その通りだ!!もはや、この世界は私の物なのだ!!」
これは俺がやりたかったことだ。
魔石を集めて、タブレットを引いて、錬金術のレベルを上げる。
俺がやりたかったことを森があっさりと実現しているのを見て、俺はかなりのショックを受けた。
「あんた一人でそのタブレットを使って、勝手に世界征服したらいいだろう。俺たちみたいな凡百の低レベルの錬金術師なんかにいちいち構うなよ」
「そうよ!もう、森君が凄いのは十分身に染みたわ。私たちはもう帰らせてちょうだい」
「そうはいかない!もうお前たちはこの館からは出さない!」
「勝手なこと言うなよ!」
俺がそう叫ぶと、背後から剣を構えたメイド達が駆け寄り、たちまち俺たちは囲まれてしまった。
「戦闘用メイドだ。お前たちはけっして殺さない。殺すとどこかにリスポーンして逃げられてしまうからな。殺さないように痛めつけ、言うことを聞くまで拷問し続けてやる!」
森は狂気じみたうすら寒い笑顔を浮かべると、おもむろに黄金色の兜をかぶった。
「逆らっても無駄だぞ。私にはこの史上最強の防具がある。何者も私を傷つけることができないのだ!ワハハハハ!」




