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「MINE ON!」
岩壁の壊合線に沿って、俺は手刀を突き刺した。
たちまち岩壁は掻き消え、アイテム化した岩ブロックがプカプカと湖面に浮かんだ。
薄い岩壁の向こうには、巨大な空洞があった。
そして、そこには百人近い人数の女の子達がいた。
なんと女の子達は皆、メイド服を着ている。
紺色のフレンチメイド型メイド服、袖はパフ・スリーブ、スカート丈はマイクロミニ、白いニーソックス。
頭には白いレース付きのカチューシャまで着けている。
深淵にメイドがいたのだ。
これが本当のメイド・イン・アビスだ!!
俺はあんぐりと口を大きく開け、ぽかんと立ちつくすしかなかった。
「ヨダレがでてるわよ」
香菜子の声にようやく俺は我に返った。
「香菜子!メ、メ、メイドさんだ!それもこんなに沢山!」
「驚くのか、嬉しそうにヨダレたらすのかどちらかにしなさいよ」
「いやあ~~~!まさかこんな所で大好物のメイドさんに会えるとは思わなかったので、ついつい、喜びが顔ででてしまう!」
メイド達は突然岩壁が消え、俺たちが目の前に現れたと言うのに、まったくの無表情だった。
彼女たちは黙々と何かの作業をしていた。
ツルハシを使って岩壁を掘り進むメイド。
集めた鉱石を運ぶメイド。
石釜を使って鉱石を製錬するメイド。
どれもメイドさんには不似合いな作業ばかりだ。
「お嬢さん達!君らも転生して、この穴倉に落ちたのかい?」
俺と香菜子はボートから降りて、メイド達が作業をしている空洞に足を踏み入れた。
「ねぇねぇ!お嬢さん達!何かお話してよお!」
「おやめさないよ!様子が変だわ?」
メイド達に近づこうとする俺を、香菜子がマントと引っ張って制止した。
「知った顔がひとつもないわ。この娘達、うちの学校の生徒じゃないわね。いえ、それどころか……」
香菜子は人差し指で、メイドの一人の頬を軽く突いてみた。
「硬いわ!?まるで陶器みたい。この娘たち人間じゃないわ!人形だわ!」
「えっ!?本当かよ!俺も確認してみるぜ!」
俺はむんず、と思い切り手近にいたメイドの胸を掴んだ。
服の上からでもわかるはち切れるような乳房は、まるで鉄球を掴んだような感触だった。
「ほ、本当だ!こいつら、人間じゃないぞ!」
「どうして、わざわざバストを掴むのよ!このスケベオヤジ!」
「それはさておき、このメイドは錬金術で作られた使役のための人形だな」
「そのようね。彼女たちはゴーレムだわ!作った主人の命令だけを忠実に実行するロボットだわ」
ゴーレムを錬成する術式が存在することは俺たちも知識として知っていた。
この穴倉を作った錬金術師はゴーレムを作る能力も持っているのか。
俺はメイドの一人の前に回ると、いきなりスカートをめくり上げた。
そのメイドはフリルで飾られたペチコートを履いていたので、俺はそれをずり下げようと手を伸ばした。
「ちょっと!何をしてるのよ、このヘンタイ!」
「落ち着けよ!ただのゴーレムだぜ」
「いくら人形でも、見てていやらしいわよ!そんなに見たければ、私の見せてあげるからやめなさいよ」
「違う!違う!ゴーレムには身体のどこかに文字が書かれているから、それを探すんだ」
「ああ!『emeth』、『真理』の文字のことね」
錬金術師はゴーレムを作る時に、身体のどこかに「emeth」(真理)の文字を書く。
この「emeth」の「e」の一文字を消し、「meth」(死)にすれば、ゴーレムは簡単に破壊できるのだ。
「また、下ネタなのかと思ったわ。ごめんなさい」
「わかればいいんだ」
俺はにやけた顔で再びメイドに向かって手を伸ばした。
「あったわ!」
香菜子がメイドのカチューシャを外すと、おでこに「emeth」と書かれていた。
「なんだよ。そんな所に書くなよ!つまらねぇな!」
「実験してみる?」
「ああ!こいつらを倒せる方法を確認しておかないと、いつ、俺たちを襲ってくるかわからないからな」
俺はナイフを取り出すと、メイドのおでこに書かれた「emeth」の「e」の一文字を削ってみた。
たちまち、メイドは土くれに変わり、粉々に崩れていった。




