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55

 俺と香菜子は向かい合ってボートに座り、漆黒の湖に向かってオールを漕ぎだした。


 やがて、ロックリーフに建てた砂の塔の灯りも闇に消え、周囲は真っ暗闇でまるで世界に俺たち二人しかいないようだった。


 時折、闇の中から不気味な唸り声がしてゾンビやゴブリンが襲い掛かってきたが、俺は双子から譲り受けた魔法の弓矢であっさりと退治していった。



「カエル男君がいたら、どんなモンスターが来ても安全ね」


「あいつらは襲ってくる前にわざわざ声を上げて知らせてくれるからな。もしも闇に乗じて接近されたら、ちょっと手こずるかもな」


「そうだわ。忘れてた!」


 そう言うと、香菜子を人差し指を小さく振って術式を唱えた。


「Night vision!」


 そうつぶやくと、香菜子の両眼が青白く発光し始めた。


「これでどんな暗闇でもよーく視えるわ」


「いいなあ!俺もそんな術式使えるようになりたいなあ」


「こんな術式あっても、使う時ってほとんどないわよ」


「今現在、この穴倉の底では重宝してるじゃないか。どこかに魔石がないか見つけてくれよ」


「あまり期待しないでね。魔石ってタイヤモンドよりもレアアイテムだから」


「そうだ。香菜子の使える術式の中に、透視能力があっただろう?地面の中を透視するやつ?」


「あるにはあるけど、見える範囲は小さいのよ。鉱脈探しには不向きよ」


「それでも運任せで坑道を掘っていくよりはマシだろ」


「でも、カエル男君。魔石を集めてどうするつもりなの?」


「決まってるだろ。魔石を集めて#宝箱__パカ__#を引きまくるんだ。そして、レアアイテムをゲットするんだ」


「レアアイテムってどんなの?」


「それを使えば、みんなで地上に戻れるアイテムだ」


「だから、それってどんなアイテム?」


「さあ?」


「―――つまり、運任せのノープランってことなのね」


「Exactly!」


「拠点で期待して、留守番をしているみんなにチクってやるわ」


 香菜子が冷めた眼で俺を見つめながら、スマホを取り出した。


 このスマホは俺が錬金術で練成した物だ。


 念話が使えないみんなのために、全員にスマホを持たせておいたのだ。


「他に方法があるなら教えてくれよ」


 香菜子はため息をついて、首を横に振った。


「スニークの術式を使って、みんなを一人ずつ背負って岩壁を登ったら?」


「自由落下で半日もかかった距離を、登るなんて体力が続かない」


「スマホみたいな精密機械を練成できるなら、飛行機とかヘリコプターとか作れないのかしら?それとも、空を飛べるようになる術式とか?」


「人がそんなに便利になれるわけ……ない」



 

 俺と香菜子の二人の新米錬金術師は、ああでもないこうでもないとウダウダと相談しながら湖を渡っていった。


 そして遂に、俺たちの乗ったボートは、穴倉の一番北端の岩壁に突き当たった。


「もう、これ以上は進めないわね」


「岩壁を透視してくれ。でっかい鉱脈が見つかったら、そっちの方に掘り進むからな」


「わかったわ」


 香菜子を人差し指を小さく振って透視の術式を唱えた。


「X-Ray!」


 今度は香菜子の両眼が赤紫に発光し始めた。


「さてさて、魔石が見つかったらいいのだけど………」


 香菜子は赤紫の瞳を大きく見開き、じっと俺たちの前に立ちはだかる岩壁を見つめた。


 香菜子はゆっくりと顔を右から左に向け、岩壁の中を透視していった。


「―――こちらには金の大きな鉱脈。あちらにはダイヤモンドがあるわ」


 香菜子が指差すたびに俺は岩壁にボートを近づけ、目印のために松明を刺していった。


「この岩壁の向こうには大きな空洞があるわ。あっ!?ゴブリンが一杯いるわ!ゴブリンの巣みたいね。近づかない方が利口だわ」


 俺は岩壁に松明を刺し、ナイフを使って大きくバツ印を描いた。


「なかなか魔石は見つからないわね…」


 さすがに香菜子の顔に疲労と焦燥の色が濃くなってきた。

 


 と、香菜子はハッと息を呑み、急に動きを止めた。


「どうした?魔石があったのか?」


 香菜子の青ざめた顔が、ほのかな松明の明かりでぽうっと浮いている。


「私、びっくりして心臓が飛び出してどっか行っちゃいそうだわ」


「何か見つけたのか?」


「言っても信じてくれないと思うから、自分の目で確かめてちょうだい」


 そう言って、香菜子は岩壁から目を背けた。


 これ以上聞いても無駄なので、俺は香菜子の言う通りに目の前の岩盤を一挙に崩すことにした。


「#MINE ON__マイン オン__#!」 

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