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(何てこった!俺はわざわざ自分から、敵の罠に飛び込んだってわけか)
未知の恐怖に俺の身体は板のように硬直し、冷や汗がじっとり肌にしみた。
(ひどい汗!拭きなさいよ)
西はブルーのハンカチタオルを俺に貸してくれた。
(ありがとう……)
フッと西が笑みを漏らした。
(さすがカエル男って名前だけあって、タラリタラリと油を流すガマガエルみたいね)
(なんだ、それ?)
(知らないの?母の実家が茨城県のつくば市なの。子供の頃、よく筑波山のガマの油売りって伝統芸能を見ていたわ。面白いのよ)
(へぇー)
(何よ?)
(いや、西さんでも笑うんだなあって)
(ひどい!)
(冗談だよ)
(――――私たち、共闘しない?)
(もちろんだ!俺たちは仲間だ!助け合っていこう!)
俺たちは互いに手を差し出して、固く握手を交わした。
(敵の正体は全くわからない。俺はもうみんなでバラしているから仕方ないが、西さんは自分が錬金術師だということは秘密にしといた方がいい)
(そのつもりよ)
(あと、お互いに自分の知っている術式とレシピを交換しよう)
俺は立ち上がると小屋に設置している#工作箱__ワークボックス__#の前に立った。
そして、工作箱を使って、木材から小屋の扉を10数個作った。
(何をしているの?)
(まあ、見てなよ。色々とお互いの持っている情報を交換しようぜ)
俺は小屋の壁の内側に、次々と扉を設置していった。
(そんなに扉を置いても使えないじゃない)
(西さんの知らない錬金術の極意を披露してやるよ)
(へぇー。それは楽しみだわ)
次に俺はインベントリーから手持ちの食料を取り出すと、すべて西に渡した。
(西さん。これを持っていてくれないか)
(別にいいけど………?)
(ところで西さんは、どんな術式を知っているんだい?)
(私が手に入れたのは純白のクリスタル・タブレット。体力を回復したり、移動速度が速くなったり、水中で呼吸出来たり、暗闇でも見えたりって補助系の能力しかなかったわ)
(俺はエメラルドとルビーのタブレットを手に入れた。しかし、もともと錬金術は戦いには向いていないからなあ。せいぜい、AIMで弓を射るぐらいかなあ)
(そうなのよねぇ。錬金術師って攻撃には向いていないのよね)
(そうだ!魔法の武器なら持ってるぞ)
俺は双子から貰ったばっかりの魔法の弓矢を取り出して、西に見せた。
(実は私も魔法の剣を持っているの)
そう言って西は虹色に発光する刃渡り50cmほどの刀剣を取り出した。
(グラディウスよ)
俺はグラディウスを持たせてもらい、ステイタスを見てみた。
「ぼくの考えた最強の剣」、「攻撃力∞」、「耐久力∞」「クリティカルヒット」、「ノックバック」、「広範囲攻撃」。
(すごいじゃないか!これならどんな最強の敵でも一撃だぜ!)
(ただし、攻撃が当たればだけどね)
(確かにな………)
(キミ、このグラディウスを使わない?)
(えっ!?それだと、西さんの武器がなくなるじゃないか)
(どうせ、私に剣なんか使えないもの。それに、戦力補強は一人に絞った方がいいと思うの)
(俺を信じてくれるのかい?)
(キミしかいないから、キミに賭けるしかないでしょ)
(仕方なしかよ!)
(ウフフフ………。まあ、キミのこと観察してたけど、文句言いながらもみんなのために頑張ってくれてるからねぇ)
(信用してくれるんだな。ありがとう、西さん)
(他人行儀ね。香菜子って呼んで)
(いいのかい?じゃあ、香菜子。錬金術の極意を教えてやるよ)
(楽しみだわ)
(さっきから、香菜子の頭上にはハートマークがいっぱい浮かんでいるぞ。わかるか?)
(えっ?なんのこと?わからないわ)
(まあ……お前じゃわからないか、この領域の話は)
(この領域って、もしかしたらすっごく低レベルの下世話な話じゃないの)
「そのとおり! ハートマークはそいつが発情し、相手に抱かれたがっていることを示すのだ!」
「は、発情!?」




