49
「仕方ねぇな!ロック リーフ拡張工事を始めるぞ!」
俺はみんなを引き連れて小屋の外に出た。
「ただ、土ブロックを敷き詰めて、小島を広げるだけじゃあ芸がない。久し振りに新しい術式を作ってみるか」
女性陣はみんな興味津々で俺の一挙手一投足に注目している。
俺は、まず「T」と言って術式詠唱用画面が開き、剣を振って「/」を入力した。
「RECORD START !」
俺は術式の記録開始を宣言した。
「キミ、何故剣を振ったの?」
西 香菜子が不思議そうな顔で俺に尋ねた。
「一般人には奇妙な動作に見えるだろうが、これは錬金術師が術式を実行する時に必要な行動様式なんだ」
俺はしゃがみこむと土ブロックを1個、水の中に置いた。
「まず、敷き詰めたい物をひとつ置く。この場合、土ブロックだな。せっかくだから鍬で土を耕しておく。それからそこに麦の種を植える。これで麦の種を植えた畑ブロックが1個できたわけだ」
次に俺は耕した畑ブロックに右手を当て、術式を詠唱した。
「FILL IN!」
たちまち、縦9ブロック×横9ブロック、湖の中に畑ブロックが一面に広がった。
どのブロックにも麦の種が植えられている。
「このように、FILL INを唱えると、右手で触れていたブロックと同じ物が敷き詰められるんだ」
「オ ラ ラ!日本人、とても器用デス!」
ジュリアが感嘆の声を上げると、マヤが得意げに説明した。
「これは錬金術よ!カエル男さんだけができる特別の能力なのさ」
「この術式を使えば、何でもコピーして増やせるってことなの?そんなわけないわよね」
西 香菜子が鋭い質問をしてきた。
「ああ。確かにアイテムを増やしているわけじゃない。俺が元々持っているアイテムを加工して、一瞬のうちに敷き詰めてるだけだ」
「やっぱりそうなのね。大したことないわね」
「何よ、あんた!カエル男さんにケチつける気なのか。だったら、ここから出て行けよ!」
「出て行けるものなら出て行ってるわ」
マヤと西 香菜子はお互いに刃のように鋭い目つきで睨み合い、火花を散らした。
「あらあら!二人ともケンカは駄目よ。大人しくカエル男くんの魔法を見てらっしゃい」
さすがにボーとしてるとは言え最年長者、彩香先生が二人の間に入ってなだめた。
俺は女同士の争いにはかかわりたくないので、スルーして作業を続行した。
「畑は水源から5ブロック以上離れると干からびてしまうんだ。だからこの9掛ける9ブロックの中央に水を置いてやる」
俺は畑の中央を1個だけ掘ると、そこに鉄の手桶を使って水を入れ、その上に木の蓋をした。
「作物の成長には光も必要だから、この木の蓋の上に松明を置いてやろう」
「RECORD END !」
記録させたい作業は終わった。
「さて、今までの一連の作業を何て命名しようかな」
しばし考えてから俺は叫んだ。
「NAME !麦畑!」
何のひねりもなく、普通に命名した。
これで新しい術式「麦畑」が完成したのだ。
俺は立ち上がって、みんなの方を振り返った。
「さあ、これで作業は完成だ」
みんな、きょとんとした顔で俺を見ている。
唯一、マヤだけがこれから俺がすることに期待し、そわそわと興奮していた。
「CALL! 麦畑!」
俺が術式を詠唱すると、目の前に光の膜に囲われた立方体が現れた。
やがて、光が消えるとそこには中央に松明と水源のある9掛ける9ブロックの麦畑が出来ていた。
女性陣からどよめきが起きた。
「CALL! 麦畑!」
「CALL! 麦畑!」
間髪入れず術式を唱え、俺は小屋を中心に麦畑を拡張し、100ブロック四方の島を築いた。
「CALL! 豆腐小屋!」
「CALL! 豆腐小屋!」
「CALL! 豆腐小屋!」
そして、俺は島の中央に小屋を3戸増設した。
こうして、湖の中には麦畑で出来た島が現れ、4軒の小屋が建てられたのだった。
「―――と言うわけだ」
「おおおっ!」
女性陣は感嘆の声を上げ、思わず拍手喝采だ。
「これなら、モンスターが沸いてくる心配をしなくてもいいし、食料も栽培できて一石二鳥だろう」




