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夜明け前、俺は(たまたまだったが)要救助者を3人も見つけ、意気揚々と拠点の小屋に戻ってきた。
以前の俺だと「ロック リーフよ!私は帰って来た!」とかアニパロのセリフを言って、自分ひとりでウケる所だ。
しかし、パロディはマヤに禁止されたし、古いアニパロのギャグは誰も分かってくれないし、俺自身ももう飽きてきたのでごく普通に帰ることにした。
小屋の扉を開けると(少し寂しかったのだが)俺はこう言った。
「ただいま!」
ふ、普通だ!
扉を開けると同時に、マヤが喜色満面で俺の胸に飛び込んできた。
「おかえりなさい!カエル男さん!」
マヤの背中を抱きしめながら、俺は思った。
(しょうーもないギャグを言わなくてよかった!)
彩香先生も俺が生徒を連れ帰ったことに気づき、小躍りして喜んだ。
「カエル男くん、みんなを見つけて来たのですね!よくぞやり遂げましたね!素晴らしいことだわ!」
「綾瀬先生。こちら2年生のドゥ・レイモン・ジュリエットさんだよ」
「フランスからの留学生ね。あなたも大変な目に遭いましたね。お気の毒に」
ジュリアは前に出て、綾瀬先生に手を合わせながらお辞儀をした。
「ハイ!日本はホント、不思議な国デス!」
「あと、この双子は1年の………。お前ら、自己紹介しろよ!」
「なんや、カエル男!うちらの名前、まだ覚えてへんのやな!」
「ほんま、ムカつくやっちゃな!」
「うちは1年1組、姉の岩田 菜々や!」
「うちは1年2組、妹の岩田 萌々や!」
彩香先生はニコニコしながら、うなずいた。
「カエル男くん!もうひとつうれしいお知らせがあるのよ!」
彩香先生がそう言うと、先生の背後から、セーラー服姿の髪の長い女生徒が現れ、俺に向かって話しかけてきた。
「カエル男君。どうせ覚えていないでしょうが、私はあなたの同級生の#西 香菜子__にし かなこ__#よ」
突然、西 香菜子が現れて正直、俺は驚いた。
「西さんか!?いや。覚えてるよ。あんたは俺の隣の席だったろ。西さんまで、異世界に転移していたのか」
「あら。ろくに学校に来ていなかったくせに、私のこと、覚えていたの?」
西 香菜子はクールで気品があって、キリッとした美しさが魅力的な「クールビューティな女性」だった。
いつも隣の席から俺のことを冷たい目で見下し、たまに口を開けば棘のある言葉を投げかけていた。
俺はそんな扱いは慣れっこだったし、男に媚びない凛とした態度には好感を抱いていた。
「カエル男くんが出かけた後、西さんがこの小屋を見つけて自分でやってきましたのよ」
「カエル男さんが立てた砂の塔のおかげだね」
彩香先生とマヤは大分打ち解けたようで、二人とも笑いながら顔を見合わせていた。
「ひい、ふう、みい………。全部で7人か」
「カエル男はん。ちょっと、この小屋、狭くないか!」
双子がさっそく不満を漏らし始めた。
確かに俺も小屋の狭さは感じていた。
だが、小屋の建材はまだいくらでも持っているから、建て増せばすむことだ。
それよりも俺は食料のことを心配していた。
俺は地底に降りる時はマヤと二人きりだったので、7人分の食料なんてもともと用意していない。
「なあなあ!カエル男はん!なんとかならへんの」
双子の片割れが俺の腕を取り、左右に揺すりながら言った。
俺はその手を払いのけた。
「そんなことよりお前ら二人、なんか見分ける方法はないのか?」
「ホクロがある方が姉の菜々やで」
俺は双子の顔をマジマジと見比べたが、ホクロは見当たらなかった。
「ん?どこにホクロがあるんだ?」
「左のオッパイにあるんや。見せたろか?」
菜々はからかうような口調でそう言うと、ポロシャツの胸元を開ける振りをした。
菜々と萌々はケラケラと顔を見合わせて、笑い転げた。
「ああ!見せて貰おうじゃねぇか!高一男子の性欲、なめんじゃねぇぞ!」
俺は菜々の胸倉に掴みかかった。
「キャーッ!セクハラや!」
「助けてぇな!センセー!」
双子は彩香先生の背後に大騒ぎしながら逃げて行った。
「あら、あら!みんな、すっかり明るくなったわね」
「先生!明るくないデス。まわりは暗いデス」
「違うよ、ジュリア。彩香先生は、みんなの気分が明るくなったと言っているんだ」
「Oui !でも、やっぱり周り暗くて、怖いデス」
「暗いと不平を言うよりも、すすんで灯りをつけましょう!ねぇ、カエル男くん!」
彩香先生達女性陣が一斉に俺の方をジーと見つめた。
「―――えっ!?またあ!?」




