01
「よく考えたら俺、異世界に来てまだ宝箱を開けただけじゃないか!もっと主人公らしい活躍をしないと!まずはチート能力を活かして資源を集めるのだ!」
俺は「破合の眼」を使って、目の前の樹高4m程の杉の木を見つめた。
すると、木の幹に伐採するための光の線「破合線」が見えてきた。
俺は右手でその光の線に沿って手刀を繰り出した。
数回、手刀で幹を叩くと、モクッと木の幹に穴が開いた。
俺のインベントリーにはサイコロ型の木のアイテム「杉の木・01」が自動的に入った。
穴が開いた木の上部が空中に浮いている。
ゲームでは見慣れた光景だったが、現実に目の前に木が浮いているとかなりシュールだ。
ともかく目の前の杉の木の幹を手刀だけで黙々と伐採していった。
結果、4つの杉の木、1つの苗木、1つのリンゴを手に入れた。
何故か、木を切ると時々リンゴも落ちてくるのだ。
(リンゴの木じゃないのにな!?)
今の俺には大変ありがたい食料なので、深くは考えなかった。
俺はリンゴ欲しさに夢中になって木を切り倒していった。
ふと、気付いて空を見上げると、太陽が空の真ん中で輝いていた。
「いっけねぇ!もう正午じゃねぇか!?」
俺が体内に吸収したエメラルド・タブレットには、この異世界の理も記載されていた。
この異世界では夜になると、様々なおぞましいモンスターが現れ、人間を襲うのだ。
夜が来るまでに、安全な拠点を作らないと殺されてしまう。
時間との勝負だ。
俺は樫と白樺と杉の木の混交林を抜けたところにかすかに見える、小高い丘に向かって走っていった。
しばらく走っていると急激に腹が減ってきた。
自分の満腹度ゲージを見るとほとんどゼロだった。
「そうだった!走ると腹が減るのが早いんだ!」
俺はリンゴを食べようと、慌てて立ち止まった。
すると、俺の足元の前方1メートルほどの地面に、ポッカリと四角い穴が開いていることに気が付いた。
「――――立ち止まらなかったら、穴に落ちてたところだ!」
俺は冷や汗をぬぐった。
「どれぐらいの深さがあるのだろう?」
俺は地面にしゃがみこんで、穴の中を覗き込んだ。
ガサガサッ!ゴソゴソッ!
穴の下は真っ暗だったが、かすかに何かが動く気配を感じた。
シュッ!
何かが穴から飛び出し、俺の頬をかすめた。
俺は驚いて飛びずさり、背後を振り返った。
杉の木の幹に、一本の矢が突き刺さっていた。
俺の頬をかすめたのはこいつだ。
暗い穴倉の底には弓を携えたゴブリンがいて、俺に向かって矢を射ったのだ。
俺は再び、額の冷や汗をぬぐった。
「夜になる前に早く仮住まいの拠点を作らないと、モンスターが沸いてきて殺されちまうぞ!」
俺は見通しをよくするために穴の周りの木を少し切り倒し、目印に松明を一本立てておいた。
穴は塞がずにそのままにしておいた。
後で鉱物を掘るために、ここから地下に潜るかもしれないからだ。




