43
「地底湖だ!?」
俺とマヤは水流の管から飛び出し、いきなり深い水の中に押し流されてしまった。
揺れ動く波の山に俺たちは翻弄された。
「カエル男さん!何とかして!アタシ、泳げないのよ!このままじゃ溺れちゃう!」
「えっ!?スク水着ているくせに泳げないのか!?」
「泳げないから補習受けてたのよ!」
(まあ、確かにその爆乳では泳ぎづらいだろうな)
「こんなこともあろうかと……」
俺はインベントリーから小型の木製ボートを取り出し、水面に浮かべた。
なんとか二人でボートに乗り込むと、身体を縛っていたロープをほどいた。
「はあ!はあ!はあ!助かったわ!」
松明が周囲の湖面を明るく照らしたが、見える範囲には波以外何もない。
暗闇の中で、波が時々青白く光ってみえた。
「一体、ここはどれぐらいの深さなんだろう?」
俺たちは頭上を見上げ、自分たちが入ってきた大穴の入り口を見てみた。
1000ブロック四方もある巨大な大穴なのに、手のひらほどの小さな穴に見えた。
夕焼けが始まり、空が茜色に染まっていた。
もうすぐ夜がやってくるのだ。
周囲は真っ暗で、ただ波がうねる音だけが不気味に響いている。
マヤが暗がりを怖がるので、俺はボートの縁に松明を一杯立てて明るくしてやった。
俺とマヤは向かい合ってボートに座った。
「さーて、どっちに行こうかな」
「なんにも見えやしない!本当にこんなところで貴重な鉱物が手に入るの?」
「シイッ!静かに!」
俺はマヤの口を手でふさいだ。
「な、何すんのさ………!?」
「…………」
「…………」
耳を澄ますと、どこからともなく何かが聞こえてきた。
「…………あれは……歌だ!?」
漆黒の暗闇の彼方から、微かに女性の歌声が聞こえてくる。
奇麗だが、か細く弱々しい哀愁に満ちた歌声だった。
「ホントだわ!誰かが歌ってる!?」
「何の歌だ………?らいかー ぶりっじ おーばー とらぶるど うおーたー?」
「I will lay me down………… 」
「マヤ、知ってる歌なのか?英語の歌かな?」
「サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』じゃないの!1970年代の有名な曲よ」
「へっ?」
「荒れ狂う湖に架けた橋みたいに、私がこの身を投げ出して助けてあげるよ……。英語の授業で習わなかったの?」
「―――私、不登校児なので知りませんでした。でも、英語の授業ってことは……」
「そうよ!あの声は英語教師の増田 彩香よ。私たちが異世界に来た元凶の女だわ!」
「マヤ、やんないよ!あんな女、ほっとけばいいのよ!」
と、怒るマヤをなだめすかし、俺たちは歌声のする方角に向かってボートを漕いでいった。
確かに元をただせば関谷 博行が彩香先生に振られたせいで、俺たちは異世界に飛ばされたわけだ。
しかし、関谷 博行が逆恨みをしただけで、彩香先生が悪いわけではない。
「俺なんか彩香先生に頼まれて、久しぶりに学校に来たおかげでこんなことになったんだぞ。だからと言って、今じゃあ彩香先生を恨んではいないぜ」
「心が広いのね、カエル男さん」
マヤが澄んだ瞳でじっと俺を見つめながら言った。
(彩香先生、色っぽいからなあ。LJKにはない大人の女性の色気があるよ。俺が学校に来たのだって、彩香先生のミススカートからのぞく白い太ももにつられたせいだからなあ……)
と、けっしてマヤには知られたくない本音を胸に秘め、俺はオールを漕いでいった。
「おーい!増田先生!増田 彩香先生!」
俺が呼びかけると、歌声が止まった。
「どなた!?どなたかいらっしゃるの!?助けて!助けて下さいませ!」
「助けてあげるよ!すぐにそっちに行くから待ってろよ!」
「ああ!神様!ありがとうございます!」
ボートにつけた松明の灯りを見つけたのだろう、彩香先生が小鳥のような悲鳴で助けを求めた。
「助けて!助けて下さいませ!」
「今行くから安心しなよ、彩香先生!」
俺は彩香先生の声をする方角を目指して、一心不乱にオールを漕いだ。
「あっ!増田先生がいたわよ!水の上に立っている!?」
「そんなバカな?」
俺はボートの進行方向を振り返って見た。
松明の灯りに照らされて、小さく彩香先生の姿が見えた。
胸のラインがもろに出るぴったりとしたノースリーブのシャツ、タイトスカートに網タイツ。
こちらに向かって懸命に両手を振っている彩香先生は、確かに水上に立っていた。




