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「地底湖だ!?」


 俺とマヤは水流の管から飛び出し、いきなり深い水の中に押し流されてしまった。


 揺れ動く波の山に俺たちは翻弄された。


「カエル男さん!何とかして!アタシ、泳げないのよ!このままじゃ溺れちゃう!」


「えっ!?スク水着ているくせに泳げないのか!?」


「泳げないから補習受けてたのよ!」


(まあ、確かにその爆乳では泳ぎづらいだろうな)




「こんなこともあろうかと……」


 俺はインベントリーから小型の木製ボートを取り出し、水面に浮かべた。


 なんとか二人でボートに乗り込むと、身体を縛っていたロープをほどいた。


「はあ!はあ!はあ!助かったわ!」


 松明が周囲の湖面を明るく照らしたが、見える範囲には波以外何もない。


 暗闇の中で、波が時々青白く光ってみえた。




「一体、ここはどれぐらいの深さなんだろう?」


 俺たちは頭上を見上げ、自分たちが入ってきた大穴の入り口を見てみた。


 1000ブロック四方もある巨大な大穴なのに、手のひらほどの小さな穴に見えた。


 夕焼けが始まり、空が茜色に染まっていた。


 もうすぐ夜がやってくるのだ。


 周囲は真っ暗で、ただ波がうねる音だけが不気味に響いている。


 マヤが暗がりを怖がるので、俺はボートの縁に松明を一杯立てて明るくしてやった。




 俺とマヤは向かい合ってボートに座った。


「さーて、どっちに行こうかな」


「なんにも見えやしない!本当にこんなところで貴重な鉱物が手に入るの?」


「シイッ!静かに!」


 俺はマヤの口を手でふさいだ。


「な、何すんのさ………!?」


「…………」


「…………」


 耳を澄ますと、どこからともなく何かが聞こえてきた。


「…………あれは……歌だ!?」


 漆黒の暗闇の彼方から、微かに女性の歌声が聞こえてくる。


 奇麗だが、か細く弱々しい哀愁に満ちた歌声だった。


「ホントだわ!誰かが歌ってる!?」


「何の歌だ………?らいかー ぶりっじ おーばー とらぶるど うおーたー?」


「I will lay me down………… 」


「マヤ、知ってる歌なのか?英語の歌かな?」


「サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』じゃないの!1970年代の有名な曲よ」


「へっ?」


「荒れ狂う湖に架けた橋みたいに、私がこの身を投げ出して助けてあげるよ……。英語の授業で習わなかったの?」


「―――私、不登校児なので知りませんでした。でも、英語の授業ってことは……」


「そうよ!あの声は英語教師の増田 彩香よ。私たちが異世界に来た元凶の女だわ!」




「マヤ、やんないよ!あんな女、ほっとけばいいのよ!」


 と、怒るマヤをなだめすかし、俺たちは歌声のする方角に向かってボートを漕いでいった。


 確かに元をただせば関谷 博行が彩香先生に振られたせいで、俺たちは異世界に飛ばされたわけだ。


 しかし、関谷 博行が逆恨みをしただけで、彩香先生が悪いわけではない。


「俺なんか彩香先生に頼まれて、久しぶりに学校に来たおかげでこんなことになったんだぞ。だからと言って、今じゃあ彩香先生を恨んではいないぜ」


「心が広いのね、カエル男さん」


 マヤが澄んだ瞳でじっと俺を見つめながら言った。


(彩香先生、色っぽいからなあ。LJKにはない大人の女性の色気があるよ。俺が学校に来たのだって、彩香先生のミススカートからのぞく白い太ももにつられたせいだからなあ……)


 と、けっしてマヤには知られたくない本音を胸に秘め、俺はオールを漕いでいった。




「おーい!増田先生!増田 彩香先生!」


 俺が呼びかけると、歌声が止まった。


「どなた!?どなたかいらっしゃるの!?助けて!助けて下さいませ!」


「助けてあげるよ!すぐにそっちに行くから待ってろよ!」


「ああ!神様!ありがとうございます!」


 ボートにつけた松明の灯りを見つけたのだろう、彩香先生が小鳥のような悲鳴で助けを求めた。


「助けて!助けて下さいませ!」


「今行くから安心しなよ、彩香先生!」


 俺は彩香先生の声をする方角を目指して、一心不乱にオールを漕いだ。


「あっ!増田先生がいたわよ!水の上に立っている!?」


「そんなバカな?」


 俺はボートの進行方向を振り返って見た。


 松明の灯りに照らされて、小さく彩香先生の姿が見えた。


 胸のラインがもろに出るぴったりとしたノースリーブのシャツ、タイトスカートに網タイツ。


 こちらに向かって懸命に両手を振っている彩香先生は、確かに水上に立っていた。

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