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翌朝、俺とマヤは南の大渓谷目指して出発した。
マヤはもう「俺の嫁」になったので、すっかりしおらしく従順になっていた。
(なるほど。ハーレム物の主人公が、何の魅力もない普通の男のくせにどうしてモテモテなのか不思議だったが、こう言うわけか。女の子たちはみんな、チートで洗脳され、冷静な判断ができない状態になっていたんだな)
「マヤ!(もはや呼び捨てである)これを渡しとくから使いな」
「なーに、カエル男さん?(もはやさん付けである)」
俺はスマートフォンをマヤに手渡した。
「えっ!?これってスマホじゃないの!?こんな物どーしたの?」
「今朝がた、マヤが寝ている間に工作箱で作ったのさ。金鉱石を精錬して金塊を作ったら、石と金塊から集積回路が作れるんだ。その集積回路と鉄とガラスを組み合わせたらスマホが作れるんだ」
「すごーい!!もう、錬金術、何でもありね!」
なんか皮肉を言われたような気もしたが、マヤは大喜びでスマホをいじりだした。
「あら?圏外ってなってるわ」
「当たり前だろう。どこにも基地局がないんだ。電波が届くわけないだろう」
「じゃあ、何の役にも立たないじゃん!」
「まあ、慌てるなよ」
そう言うと、俺はSNEAKの術式を使い、ジャングルの巨木をスルスルと登って行った。
そして、巨木の天辺に電波の中継用にアンテナを立てた。
俺は自分用のスマホを取り出すと、マヤに電話をしてみた。
「もしもし!」
「あっ!つながったわ!はいはい!」
「こうして、地道にアンテナを立てて回れば通話もメールも使えるさ。これでTELLの術式を使わなくても、離れていても会話ができるぜ」
「あれ?マップが変よ?今いる場所しか表示されないわよ」
「GPSがないから使えるわけないだろう!さすがに衛星を打ち上げるわけにもいかないし。その代り、自分が歩いた場所なら表示されるから、どんどん地図が広がってゆくぞ」
「グーグルやウィキペディアはないの?」
「俺に寄付してくれたら作ってやるよ」
「なーんだ!異世界にスマホがあっても対して役に立たないのね」
(文句の多いヤツだ!スマホなんか作るんじゃなかった!)
こうして俺は、時々巨木の上にアンテナを立てながら密林を進んだ。
いきなり、巨木が密集したジャングルが途切れると、所々から岩が隆起した列岩地帯にたどり着いた。
前方はただ一面、岩が剥き出しになった草一本生えていない殺風景な場所だ。
「こんなところに来て、どうするの?」
「この辺りのどこかに大渓谷があるはずなんだがなあ……」
「あれじゃない?」
マヤが指さす先、地平線が黒くなっている場所があった。
「おお!確かに!あそこだ!行ってみよう!」
始まりの塔から見つけた場所にようやく到着するのだ。
俺は期待に胸躍らせ、足早に向かっていった。
剥き出しの岩盤地帯がいきなり途切れると、切り立った断崖絶壁が現れた。
崖っぷちから谷底を覗き込んで見ると、地獄にまで届くような暗黒が続いていた。
谷の向こう岸は霧のようにぼやけて見えなかった。
想像以上に巨大な渓谷だ。
「試しに松明を落としてみよう」
明るく輝く松明を谷底に向かって投げ落とした。
松明がどんどん小さくなり、最後にはマッチ棒のようなって暗闇に呑まれていった。
果たしてどれぐらいの深さなのか見当もつかない。
「どうするの?本当にこんなところを降りてゆくの?」
「崖に沿って歩いてみよう。どこか降りられる場所があるかもしれない」
俺たちは崖の縁を黙々と歩いて行った。
ジリジリと音が聞こえそうな日差しに照りつけられ、二人とも汗まみれになった。
途中、何度も岩男が襲ってきた(岩場は奴らの縄張りなのだ)が、爆発する前に鉄の剣で破壊してやった。
岩男を倒すと、貴重な火薬が手に入った。
俺は火薬は矢尻に仕込んで、接触爆発系の弾頭付きの矢を作ってみた。
「水筒に水を入れて持って来てはいるが、こう暑くてはどこかで水を補給しないと干からびてしまうぞ」
「でも周りは岩しかないわね」
「岩盤はフライパンのように熱い。どこにも木陰がない。このままだと二人とも熱中症で倒れちまうな」
「ねぇ、カエル男さんの魔法で、雨を降らせることはできないの」
「残念ながら、まだ、覚えてねーよ」
「だったら、ここに家建てて休憩しましょうよ。ねぇ」
「そうするかな………」
俺はどこに豆腐小屋を作ろうかと周囲を見回した。
と、前方に小さな建造物があるのを発見した。
「おっ!何かあるぞ!」




