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「生活必需品の1位が食べ物なら、僅差の2位は娯楽である」
エドワード・ベラミー
豆腐小屋の中で俺とマヤは、食事をとりながら今後のことを話し合った。
相変わらず、マヤ先輩は上から目線でズケズケと物を言う。
「とにかく、アタシは元の世界に帰りたいんだ。おめーみたいな引きこもりはこっちの世界の方がゲームみたいで楽しいんだろうがな。アタシは元の世界で充実した生活を送っていたんだ」
「いえ。俺も本当は冒険なんてしんどいことしたくないス。元の世界で食って遊んで寝るだけの糞尿製造マシーンに戻りたいス」
俺は自虐ギャグを言いながら、バンやリンゴやステーキをマヤにどんどん手渡した。
「ちょっとちょっと!アタシ、こんなに食べられないよ」
「食料はこの異世界で一番の生活必需品ですよ。自分のインベントリーに入れといてください」
「お前、異世界に詳しそうだな。どうやったら帰れるのか知らないのか?」
「俺だって異世界に来たの初めてですから知りませんよ」
「ライトノベルとか読んでねぇのか?オレが異世界にナンタラしてナンチャラってやつ?あれだけ異世界に行った人間の話があるのだから、中には本当に異世界に行って帰って来た人の体験談もあったのかも」
「あの長いタイトルの小説ですか?俺、文字読むの苦手なんで、タイトルを見ただけで眠くなるんですよ。アニメならばいくつか見たことあるけど」
「アニメでも参考にならないのか?あんなのどれでも同じ話なんだろう?」
「俺、家でゲームばかりしてないで、ラノベを読んどくんだったな。いきなり異世界に転移したり転生した諸先輩の方々は、きっと元の世界に戻りたいと努力なさったことでしょうね」
「ああ。主人公はおめーみたいに元の世界じゃ使い物にならないクズばっかりなんだろう。そんなクズがよりハードな異世界で生き残れるわけないもんな」
(言わせておけば、このクソアマが!異世界物の諸先輩の方々をバカにするんじゃねぇぞ!)
俺はヘラヘラと笑いながら、背中で拳を握りしめていた。
「―――なんだか、熱いなあ……」
マヤはそう言って額の汗を拭うと、牛革のジャケットを脱ぎ捨てた。
「汗まみれですねぇ。お風呂、はいります?」
「風呂……あるのか?」
「これから作るんスよ」
俺は部屋の中央に穴を掘った。
そして、鉄の手桶で近くの池から水を組んできて、何往復もしてようやく穴を水で一杯にした。
そして、作業箱で炎の剣を作ると、水の中に差し入れた。
炎の剣が発する熱で、たちまち水が沸騰した。
「いけねぇ!これじゃあ熱湯風呂だ。水で埋めないと!ちょっと、水を汲んできます」
「いや。もう、外が薄暗くなってきたぞ。危ないから家にいなよ。お湯が冷めるまで待っていたらいいから」
「そうですか………」
なんか、マヤの態度が軟化してきたように思える。
俺とマヤは向かいあって座り、じっと風呂のお湯が冷めるのを待っていた。
二人っきりで会話もなくただ見つめあっていると、マヤは次第に気まずそうにしていた。
俺はと言うと、もともとコミュ障で相手の気持ちなんか気にしない人間なので、沈黙が続いても全く平気だった。
マヤが遂に沈黙に耐えかねて、向こうから話しかけてきた。
「カエル男。おめーはここに来て、死んだことあるのか?」
「まだないス。そう言や、死んだらどーなるんスか?」
「―――気が付いたらアタシは砂浜にいた。目の前には一面に広がる漆黒の海。狭間の世界だ。黎明という言葉がぴったりの神秘的な世界だった」
「フンフン………」
「しばらくそこに突っ立ていたら、何か黒い人影が現れて、アタシに尋ねるんだ。生き返りますか、それとも終了しますかと。声じゃない。頭の中に直接響いてくるんだ」
「ありがちですね」
「アタシがとまどっていると、いつの間にか隣に男子生徒が立っていた。親が市会議員をしている………」
「和泉 康平!(あいつのこと、すっかり忘れてたぜ)」
「そんな名前だったかな。和泉も黒い人影に生き返りますか、それとも終了しますかと聞かれていた。和泉はもう何度も生き返りを続けたみたいで、アタマがおかしくなっているみたいだった」
「やっぱり死んだ人間は同じ場所に集まるんだな。それで……?」
「和泉はもう生き返りたくない、終了すると叫んでいた。すると……」
「すると……」
俺はゴックンと生唾を飲み込んだ。
「和泉の姿はバラバラにちぎれて、砂浜に散らばった!」
「本当のジ・エンドか!」
「周囲をよく見ると、砂浜のあちらこちらに、血と肉片が散らばっていた。アタシは迷わず、生き返りを希望したよ」




