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「TELL 井稲 真耶 俺の名前はカエル男。今からそこに行くから動くな」
俺が井稲真雪に念話を送ると、「カコーン」と音が響いた。
真耶に念話が届き、返事をしてきたのだ。
「大事な人、忘れたくない人、忘れちゃいけない人………。井稲 真耶に会えるんだ!」
俺は興奮して、音のする方向に向かって走り出した。
とは言え、下草が密集しているため、なかなか思うようには進めない。
「そうだった!今、俺の剣は炎属性を持っているんだ。草なんか焼き払えばいいんだ」
俺は前方の藪に向かって炎の剣を振るった。
たちまち藪は炎を上げて燃え上がり、すぐに黒焦げになった地面だけになった。
「ヒャッハー!汚物は消毒だ!さすがは炎の剣だぜ!」
こうして森林破壊を続けながら、障害物のなくなった道を俺はジャンプダッシュして疾走した。
「やめろぉ!このくそハゲ!」
真耶の怒鳴り声が聞こえてきた。
「俺、まだハゲてねーし!」
一瞬、俺に対して罵声を浴びせてきたのかと焦ったが、どうも真耶は誰かと言い争っているようだ。
俺は用心のため、下草の中を隠れながら慎重に進んだ。
藪を通り抜けると、スク水姿の真耶が地面の上に押し倒され、白いYシャツ姿の男が上からのしかかっている場面に遭遇した。
真耶は手足をバタバタさせて必死に抵抗している。
予想外の展開に、一瞬、俺は頭の中が真っ白になった。
「―――あのう、井稲先輩ですよね?ナニされているんスか?」
俺の声に男がビクッとなり、立ち上がって俺の方を振り返った。
黒縁眼鏡で出っ歯で天パの貧相な体格の中年男だった。
ハゲというほどではないが、確かに、髪の毛が薄かった。
男は真耶を背後から羽交い絞めにすると、右手に石の剣を持ち、彼女の喉元に突き付けた。
「だ、誰だ、お前は!?」
「私の名は暗黒カエル男。史上最低最凶の錬金術師だ!」
「何言ってんだ、お前?」
「一回、言ってみたかったんや」
俺はわざととぼけたことを言って、相手の油断を誘った。
「ふざけんな!どいつもこいつも俺のことをバカにしやがって!」
逆効果だった。
激高した男は、真耶のスク水の左の肩ヒモを石の剣でブッツンとを切り裂いた。
スク水の布がめくれ落ち、井稲 真耶の左の爆乳が露わになり、ピンク色の乳首が解禁となった。
(こ、これは………!)
思わず俺は目を大きく見開いて、視線が乳首に釘付けになってしまった。
「キャーッ!」
「落ち着けよ、オッサン!」
俺は右手に炎の剣を持って、男と対峙した。
俺が剣を見せると、男はなおさら興奮してしまった。
「ち、近寄るな!」
男は今度は真耶のスク水の右の肩ヒモを石の剣でブッツンとを切り裂いた。
真耶の上半身が丸見えになってしまった。
「て、てめぇ!カエル男!お前、わざと煽ってるだろう!」
赤面した真耶が俺の方を睨みつけた。
「ご、誤解だよ!」
「ここは一体、どこなんだ!?彩香はどこにいる!?彩香を連れて来い!」
男は俺に向かった叫んだ。
「彩香って誰だよ?」
「増田 彩香だ!英語の教師をしている!」
しばし、考える俺。
「あ~~あ。俺の担任の女教師か!」
引きこもっていた俺を、学校に来るようにわざわざ家にまで説得しに来た教師だ。
そういえば、そんな名前だったけ。
「お前、彩香の教え子なのか?だったら彩香をここに連れて来い」
「連れてきたらどーする気だ?」
「彼女を殺して、俺も死ぬ!」
「はあ!?無理心中かよ!!」
俺が引いていると、真耶が衝撃の事実を告げた。
「アタシは見たぞ!このオッサンが大型トラックに乗って、校庭に突っ込んできたんだ。アタシも更衣室で水着に着替えてたら、跳ね飛ばされた!」
「オッサンがトラックで俺たちを跳ねたのか!?」
「俺は彩香に捨てられたんだ。大事な生徒達を放って結婚はできないとな!」
「それは単に彩香先生の断る言い訳では………」
「それで俺は憎い生徒達を跳ね飛ばして回って、最後に彩香のいた教室に突っ込んでやったのさ」
「ほーら、見ろ!ほーら、見ろ!やっぱり俺たちはトラックに跳ねられて異世界に転移したんだ。俺の推理は正しかったのだ!」
俺は思わず、ガッツポーズを決めた。
「―――そうじゃない!オッサン、お前のせいで俺たちは異世界に転移しちまったんだぞ!」
「ガキがふざけたことぬかすな!何が異世界だ!」
俺は剣を振るって真耶にコッソリと念話を送った。
(TELL 井稲 真耶 俺の念話が聞こえたら俺にウインクをしろ)