33
「経済的利益のために熱帯雨林を伐採するのは、料理のために名画を燃やすようなものだ」
エドワード・ウィルソン
俺は密林の巨木を次々と伐採しては、材木に加工し、「万能無限収容箱」を作っていった。
あれだけ樹木が密集していたジャングルが、あっという間に更地に変わってしまった。
この異世界には「錬金術師が歩いた後には、草も生えない」という言葉があるそうだが、俺はみずからの行為に、そして錬金術の威力に恐怖した。
「生き物は森林なしには生きられない。これ以上、森林破壊という暴挙を許してはならないのだ」
そろそろ生活に余裕ができてきたので、俺は自然に優しい錬金術師をモットーに掲げようと思う。
「読者の好感度を上げて、ブックマークに追加してもらうのさ!」
そう言うわけで、俺は木を切ったら、ちゃーんとその跡に苗木を植林してまわった。
こちらの世界では、苗木を植えたらわずか数日で元通りの巨木になるのだ。
と、密林の奥に何か動物の気配を感じ、俺は剣を握りしめてた。
「―――何か、いるぞ?」
そっと、木の陰から覗いてみると、2本の鋭い角を持ち体長3メートル、体重1トンはありそうなこげ茶色の長毛の牛の群れだった。
「牛………?じゃないな。ありゃあオーロックスだ!」
オーロックスとは牛の原種で17世紀には絶滅した獰猛で巨大な生物だ。
さすが異世界!こちらでは牛はまだ家畜化されていないらしい。
「GRANT FIRE!」
俺は持っていた石の剣に「炎の属性」を付与した。
そして、のんびりと草を食んでいたオーロックス達の背後に忍び寄り、壊合線をばったばったと斬りまくった。
オーロックス達はたちまち焼け具合ミディアムのステーキ肉と骨とモツとなめした牛革に変わった。
「ヒャッハー!汚物は消毒だ!さすがは炎の剣だぜ!」
俺は殺戮の限りをつくし、オーロックスをあらかたステーキ肉に変え、インベントリーに収納した。
「万能無限収容箱」には「ステーキ肉 139」が収容され、当分肉には困らないだろう。
この調子でいくと、この異世界でもオーロックはすぐに絶滅してしまうかもしれない。
「しまった!食べ物のことになるとついつい我を忘れてしまう!どうせ誰も見てないと油断して、ヒャッハーな醜い姿を晒してしまったぞ!ああ!読者が引いているのを感じるわ!」
たちまち読者の好感度が下がり、ただでさえ少ないブックマークがどんどん削除されていった。
閑話休題。
「CALL 豆腐小屋!」
俺は休憩のため、更地の中央に豆腐小屋を建てた。
そして小屋の中でゆっくりとステーキ肉を頬張りながら、工作箱で牛革を加工して服を作っていった。
牛革のシャツ、ジャケット、ズボン、靴、そして、マント。
パンツ1丁だった俺は、マントを羽織り、ようやく錬金術師らしい格好になってきた。
「そもそも俺は錬金術師に会ったこともないので、どんな格好が錬金術師らしいのか知らないがな」
さて、腹も膨れ、服装も整え、ようやく少しヤル気が出てきた俺は南に向かって歩きだした。
南の大渓谷に着けば、きっと貴重な鉱物を手に入れることができるだろう。
エメラルド・タブレッタから得た知識によると、地下には「魔石」と呼ばれるダイヤモンドより高価で希少な宝石が埋まっている。
「魔石」は錬金術や魔力のもとになる宝石で、例の宝箱_に入れて術式を唱えると、高確率でレアなマジックアイテムが錬成されるのだ。
錬金術師の中にはこの魔石パカを引くために、全財産を課金して破産したやつがうようよいるらしい。
と、ジャングル中に「カコーン!」という木を叩く甲高い音が響いた。
俺は驚いて足を止め、耳を澄ました。
「カコーン!」
再び、南西の方角から音がした。
俺はアイテム生成のレシビの中に「太鼓」があることを思い出した。
慌てて材木と牛の皮を取り出すと、作業箱に入れて太鼓とバチを作った。
(なんでこんなレシピがあるんだ?)
むずかしさ「鬼」の達人のように、俺はマイバチで太鼓を叩いて音を出した。
俺は「ドン」と太鼓を叩くと、遠くで「カコーン」と音が帰ってきた。
「ドン!」
「カコーン!」
「ドン!ドン!」
「カコーン!カコーン!」
「ドドンドン!ドン!」
「カカコーン!カコーン!」
「大成功だドン!あれは井稲 真耶だ!」