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「さあ、新しい朝が来たんだ!希望に燃える朝だ。今日は一日がんばるぞい!」
(ン?何か大切なことを忘れているような…………)
希望に燃える朝、希望に燃える、燃える………。
俺はポンと手を打った。
「そうだった!あの燃えたスク水少女を見つけてやらないと!恐らく、どこかでもうリスポーンしているはずだ」
「大事な人、忘れたくない人、忘れちゃいけない人………。あいつの名は?」
ジャングルの巨木の頂上で俺は(面倒くさいのでいちいち書くのはこれで最後にしますが)「T」と舌打ちをしてから剣を振って術式詠唱用窓を開けた。
そして、マヤに向かって念話を送ってみた。
「TELL マヤ 私の声が聞こえますか?」
すると、即座に「対象者は存在しません」というエラーメッセージが返ってきた。
やはり、フルネームで指定しないと念話は送れないのだ。
ふーむ、果たしてマヤの苗字は何なのか?
「う~~~~ん。寝起きで、まだ頭が働かないんだよなあ……」
実はあのスク水少女、マヤには見覚えがあった。
金色に染めた小顔ショートボブ、日本人離れした曲線美と爆乳。
あれだけの美少女、ほとんど学校行っていない俺でも存在は知っていた。
三年生で一人、学校公認で読モをしている生徒がいたが、多分彼女だと思う。
「名前は何ってたっけ………。絶対に一度は耳にしたはずなんだよ。でも俺、他人の名前と顔、覚えねぇからなあ………」
手掛かりになるのは、マヤが残したダイニングメッセージ。
親指を立てたあのジェスチャー「サムズアップ」。
日本では親指を立てると「男性」、小指は「女性」を表すサインだ。
マユは実は「男の娘」という意味なのか?
あ、そんなわきゃない!あ、そんなわきゃない!
他に欧米では「GOOD!」を表すサインだ。
ヒッチハイクで車を呼び止める時にも使うな。
しかし、中東や南米では性的な侮辱を意味するとか……。
どれもこれもピンとこない。
あとは、あのジェスチャーと言えば、FACEBOOKの「いいね!ボタン」だ。
そうそう!そうだった!
マユのことはFACEBOOKで見て、初めて知ったのだった。
どんな画面だったか、頑張って記憶を呼び起こしてみよう。
プロフィールには確か「○○真耶 18歳」と書いてあった。
スタジオで撮影をしている時の写真がアップされていた。
モデル仲間の女の子たちと自撮りをした写真だった。
「来月発売の雑誌に載るから見てね」とか宣伝をしていた。
一番下部には、「良ければ押してね!チュッ!はあと!」の文字と「いいね!ボタン」。
「ん?『いいね!ボタン』…………いいね……いいね……」
ハッとする俺。
その時、俺はとんでもない事実を思い出した。
自撮り写真のマヤは、よくあるピースサインや歯が痛いようポースではなかった。
写真のマヤは、確かに左手の親指を突き出していたのだ。
珍しいポーズなので不思議に思った記憶が蘇ってきた。
あのサムズアップのジェスチャーは、マヤのトレードマークだったのだ!
(≧∇≦)b
「謎はすべて解けた!」
「TELL 井稲 真耶 元気ですか」
エラーメッセージは出なかった。
俺の念話は彼女に届いたのだ。
彼女の名前は「井稲 真耶」。
あのジェスチャーは彼女の名字が「井稲」だと伝えようとしていたのだった。
(く、くだらねぇ!散々引っ張って、こんなオチでいいのか!?)
いやあ、思わぬ難事件でしたが無事に解決しましたねぇ。
さあ、あとは犯人、いや、真耶の行方を探すだけだ。
「だけど、どうやったら真耶の現在地がわかる?一般人でも俺の念話は受け取れるが、錬金術師でないと返信はできないからなあ」
「TELL 井稲 真耶 俺の名前はカエル男。君を助けたい」
「TELL 井稲 真耶 俺は今、君が落ちた溶岩溜りにいる。待ち合わせしない?」
「TELL 井稲 真耶 都合が悪い時は音とか煙で君の居場所を知らせてくれ。敬具」
さて、俺としてはやるだけのことをやった。
いつまでもここで、じっとスマホを抱きしめて恋人からの返信を待っているJKみたいなことをしてはいられない。
巨木を伐採して「万能無限収容箱」を作り、動物の皮を手に入れて服を作り、そして、目的の大渓谷へ向かおう。