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30

 スク水姿の少女は、灼熱の溶岩溜まりの中央に落下した。


「きゃああああああ!!」


 彼女は半狂乱の悲鳴を上げた。


「待ってろ!今、助けに行くからな!」


 俺は小屋の石壁を壊すと、マグマの上に石ブロックをひとつ置いてみた。


「よし!なんとか歩けそうだ」

 

 石を次々と置いていって通り道を作り、俺は彼女のところまで助けに行こうとしたのだ。


 だが、いかんせん、彼女の落下地点は俺のいる場所からかなり離れていた。

 おまけに彼女は落下した時に、溶岩の上に尻餅をついてしまった。


「熱ッ!!熱ッ!!熱ッ!!」


 金髪のスク水少女は紅蓮の炎に包まれた。

 既に彼女の下半身は黒こげで、火傷は皮下組織まで達する「?度」の重症だ。

 とうてい、助からないだろう。


(手遅れだな……)


 俺は石を置く手を止めて、彼女に向かって呼びかけた。


「―――君の名は?」


「はああ!?てめー、ざっけんな!そんな場合かよ!」


 かなり口が悪いが、彼女も必死なのだから無理もない。

 許してやろう。


「いや。俺は真剣(マジ)で聞いているんだ。早く名前を教えてくれよ」


「熱ッ!!熱ッ!!死にそうなくらい、すっげぇ熱いんですけど!!」


「いや、君、死ぬよ」


「ざっけんな!ぶっ殺すぞ、ハゲ!」


 随分と口が悪い女だ。

 普段の俺なら見捨てるところだが、彼女はかなりの美形だった。

 美少女に罵られるなんて、どんなご褒美だ。


「いいか、よく聞け!君はもう助からない。だが、この異世界では死んでもすぐに元の姿で蘇ることができるんだ。君が蘇った時、必ず俺が会いに行って助けてやる!」


 少女は黙って俺の言葉に耳を傾けだした。

 それとも単に喋る元気もなくなっただけかもしれない。


「後で俺は君にメッセージを送る。その時、自分の居場所をどうにかして知らせてくれ。君が世界のどこにいても、俺は必ずもう一度会いに行くから…」


 少女の身体は次第にマグマの中に没していった。

 俺は焦って、少女に問いかけた。

 

「おまえは…誰だ…?誰なんだ…?君の名は。!?」


()………()………」



「マヤ!マヤって言ったんだな!?苗字は?苗字も教えてくれ!」



「ギャアアアアアアアッ!!」


 マヤは苦しそうに断末魔の悲鳴を上げた。



(ダメだったか………)


 俺はインベントリーから今日作ったばかりの弓と矢を取り出した。

 矢をつがえ、キリキリと力いっぱい弓を引き絞った。


「マヤ!今、楽にしてやるからな!」


 俺は矢じりをマユに向け、狙いを定めた。


AIM(エイム) !」


 俺は術式を唱え、矢を放った。


 矢は最初あさっての方向に飛んで行ったが、ホーミングミサイルのように軌道を修正し、見事にマヤの喉を貫いた。


 ガクンと首をうなだれて、マヤは息を引き取った。


 マヤの身体が溶岩の中に沈んでいく。

 俺は無念な思いでその様子をみていた。


「苗字がわかればなあ……。フルネームでないと、念 話(メッセージ)は届かないんだ」


 マヤの左手だけがまだ、溶岩の上に出ていた。


「な、なんだ、あれは!?」


 マヤの左手は固く握りしめていたが、親指だけがまっすぐに立っていた。


「あのポーズは……サムズアップ!?」


 親指を立てるジェスチャー、サムズアップ。


 日本では一般に「Good」を意味するジェスチャーだ。



 そう、あれは忘れもしない……えーと、なんだっけ?


 そうそう、子供の頃、TVで観たSF映画みたいだ。


 シュワちゃん扮する殺人マシーンが自ら溶鉱炉に沈み、死を選ぶ感動的なラストシーンだ。

 涙ぐむ母子に向かって、最後、親指を立てて灼熱の溶鉱炉の中に沈んでいくシュワちゃん。

 いやー、あれで終わっときゃよかったのにね。


 バーロー!

 そーじゃない!

 これはマヤが俺に対して送ったダイイングメッセージに違いない。


「マヤ!お前が最後に俺に託した謎のメッセージ、この高校生探偵のカエル男様が必ず解き明かしてやるからな!」


 

 ――――それはそれとして、マグマが熱いので俺は豆腐小屋に戻り、再び石の壁を積み上げた。


 工作箱と石窯と物入れの3点セットは、ウィークリーマンションのようにもともと豆腐小屋に標準装備されている。


(ちゃーんと、術式「豆腐小屋」を作る時に考えていたんだから、賢いでしょ)


 石窯に鉄鉱石と石炭を入れるとすぐに炎が上がり、鉄鉱石は「鉄の塊」にと精錬されていった。

 俺は出来立てホヤホヤの鉄の塊を工作箱で加工し、待望の「鉄の手桶」を1個作った。


「やっと念願の『鉄の手桶』を手に入れたぞお!」


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