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スク水姿の少女は、灼熱の溶岩溜まりの中央に落下した。
「きゃああああああ!!」
彼女は半狂乱の悲鳴を上げた。
「待ってろ!今、助けに行くからな!」
俺は小屋の石壁を壊すと、マグマの上に石ブロックをひとつ置いてみた。
「よし!なんとか歩けそうだ」
石を次々と置いていって通り道を作り、俺は彼女のところまで助けに行こうとしたのだ。
だが、いかんせん、彼女の落下地点は俺のいる場所からかなり離れていた。
おまけに彼女は落下した時に、溶岩の上に尻餅をついてしまった。
「熱ッ!!熱ッ!!熱ッ!!」
金髪のスク水少女は紅蓮の炎に包まれた。
既に彼女の下半身は黒こげで、火傷は皮下組織まで達する「?度」の重症だ。
とうてい、助からないだろう。
(手遅れだな……)
俺は石を置く手を止めて、彼女に向かって呼びかけた。
「―――君の名は?」
「はああ!?てめー、ざっけんな!そんな場合かよ!」
かなり口が悪いが、彼女も必死なのだから無理もない。
許してやろう。
「いや。俺は真剣で聞いているんだ。早く名前を教えてくれよ」
「熱ッ!!熱ッ!!死にそうなくらい、すっげぇ熱いんですけど!!」
「いや、君、死ぬよ」
「ざっけんな!ぶっ殺すぞ、ハゲ!」
随分と口が悪い女だ。
普段の俺なら見捨てるところだが、彼女はかなりの美形だった。
美少女に罵られるなんて、どんなご褒美だ。
「いいか、よく聞け!君はもう助からない。だが、この異世界では死んでもすぐに元の姿で蘇ることができるんだ。君が蘇った時、必ず俺が会いに行って助けてやる!」
少女は黙って俺の言葉に耳を傾けだした。
それとも単に喋る元気もなくなっただけかもしれない。
「後で俺は君にメッセージを送る。その時、自分の居場所をどうにかして知らせてくれ。君が世界のどこにいても、俺は必ずもう一度会いに行くから…」
少女の身体は次第にマグマの中に没していった。
俺は焦って、少女に問いかけた。
「おまえは…誰だ…?誰なんだ…?君の名は。!?」
「真………耶………」
「マヤ!マヤって言ったんだな!?苗字は?苗字も教えてくれ!」
「ギャアアアアアアアッ!!」
マヤは苦しそうに断末魔の悲鳴を上げた。
(ダメだったか………)
俺はインベントリーから今日作ったばかりの弓と矢を取り出した。
矢をつがえ、キリキリと力いっぱい弓を引き絞った。
「マヤ!今、楽にしてやるからな!」
俺は矢じりをマユに向け、狙いを定めた。
「AIM !」
俺は術式を唱え、矢を放った。
矢は最初あさっての方向に飛んで行ったが、ホーミングミサイルのように軌道を修正し、見事にマヤの喉を貫いた。
ガクンと首をうなだれて、マヤは息を引き取った。
マヤの身体が溶岩の中に沈んでいく。
俺は無念な思いでその様子をみていた。
「苗字がわかればなあ……。フルネームでないと、念 話は届かないんだ」
マヤの左手だけがまだ、溶岩の上に出ていた。
「な、なんだ、あれは!?」
マヤの左手は固く握りしめていたが、親指だけがまっすぐに立っていた。
「あのポーズは……サムズアップ!?」
親指を立てるジェスチャー、サムズアップ。
日本では一般に「Good」を意味するジェスチャーだ。
そう、あれは忘れもしない……えーと、なんだっけ?
そうそう、子供の頃、TVで観たSF映画みたいだ。
シュワちゃん扮する殺人マシーンが自ら溶鉱炉に沈み、死を選ぶ感動的なラストシーンだ。
涙ぐむ母子に向かって、最後、親指を立てて灼熱の溶鉱炉の中に沈んでいくシュワちゃん。
いやー、あれで終わっときゃよかったのにね。
バーロー!
そーじゃない!
これはマヤが俺に対して送ったダイイングメッセージに違いない。
「マヤ!お前が最後に俺に託した謎のメッセージ、この高校生探偵のカエル男様が必ず解き明かしてやるからな!」
――――それはそれとして、マグマが熱いので俺は豆腐小屋に戻り、再び石の壁を積み上げた。
工作箱と石窯と物入れの3点セットは、ウィークリーマンションのようにもともと豆腐小屋に標準装備されている。
(ちゃーんと、術式「豆腐小屋」を作る時に考えていたんだから、賢いでしょ)
石窯に鉄鉱石と石炭を入れるとすぐに炎が上がり、鉄鉱石は「鉄の塊」にと精錬されていった。
俺は出来立てホヤホヤの鉄の塊を工作箱で加工し、待望の「鉄の手桶」を1個作った。
「やっと念願の『鉄の手桶』を手に入れたぞお!」




