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「ここに家を建てるぞ!」
「オーッ!」
俺と美衣奈は拳を突き上げて気勢を上げた。
この世界のどこかに、俺の「こっちへ来い!」という念 話を受け取り、「いやだ!」と拒絶の返信をしてきた人間がいる。
敵か味方か分からないが、そいつは恐らく俺と同じ錬金術師なのだろう。
その後、何度か不特定多数に対して念 話を送ってみたが、返信はなかった。
不気味な存在だったが、あれこれ考えてもどうしようもないので、俺は当初の予定通り家を建てる作業を開始した。
「俺が家を建てるから、美衣奈はこの周辺の樹木を伐採し、松明を立てて明るくしてくれ」
「了解です!」
おどけて敬礼する美衣奈。
「でも、松明の材料にする原木が全然足りませんよ」
「ムフフフフ…。まあ、見ていてくれたまえ」
俺は新しく覚えたばかりの術式を見せつけたくてウズウズしていた。
指をポキポキと鳴らしながら、一本の巨大な杉の木の前に立った。
「まず『T』と言ってから、剣を振ってみる…」
俺の目の前に、術式詠唱用画面が開き「/」が入力された。
「CUT ON !」
そう俺が叫ぶと、俺の右手が怪しい赤紫の光を帯びた。
「俺のこの手が光って唸る。お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺のディ!フォーレステイション !」
(註:実際の錬金術使用時には、このセリフは必要ありません)
俺は右の手刀で杉の木の壊合線を切り裂いた。
すると、一瞬で杉の木はかき消え、そこにはただ杉の原木アイテムが10個、プカプカと浮かんでいるだけであった。
「この術式を使えば、一瞬で木を切り倒し、大量の原木アイテムを手に入れることができるんだ。他に一瞬で土を掘ったり、鉱物を採掘する術式もあるぞ」
「すっごおおい!?」
美衣奈は目を丸くして、パチパチと瞬きしている。
俺は得意げに鼻を膨らましながら、工作箱に棒と石を入れて石オノ、石ツルハシ、石スコップ、石カマ、石クワ、石の剣を作った。
デパートの店頭実演販売士のような優雅な手つきで、俺はそれぞれの道具を手にして術式を唱えると、道具は赤紫の光を帯びて輝き出した。
「いざ!」
美衣奈は赤紫に輝く石オノを持って、黒樫の木の前に立った。
「ええい!」
美衣奈が目をつぶって石オノを振り下ろした。
すると、黒樫の木は一瞬で原木と苗木とリンゴのブロックに変わった。
「この魔法の石オノを使えば、私一人でも木材を一杯手に入れることができます!」
美衣奈は愛嬌のある微笑みを満面に湛えながら俺の顔を見上げた。
「その通り!それぞれの道具に術式を施したから錬金術師でなくても使えるぞ。どんな効果が付与されたかは、まあ説明しなくても使ってみたらわかるさ。ただし、どの道具も使うたびに消耗して、最後は壊れてしまうからそれだけは注意してくれ」
「ええっ!?もしも私がモンスターと戦ってる最中に、剣が壊れたらどうしたらいいのですか?」
「その点は抜かりはないさ。剣の柄にスイッチがあるだろう。押してみてくれ」
「ワクワク!どうなるのかしら!?」
美衣奈がスイッチを押すと、剣先がポロッと取れて、柄から新しい刃が飛び出してきた。
「すっごおおい!?何だか柄が長いなあと思ったら、中に替え刃が隠されていたのですね!?これなら、戦闘中に刃が折れても安心ですう!さすがです!カエル男さん!」
「いや、実はこれは俺が考えたわけじゃないんだ。昔の偉い偉い賢者様が考案した画期的な武器なんだ」
「なんだ、カエル男さんの発明じゃないのですか?」
「俺みたいな若輩者が、こんな素晴らしいアイディア思いつくわけないじゃないか」
「そりゃそうですよねぇ」
「なんだと、こいつう!」
俺と美衣奈は顔を見合わせて大声で笑いあった。
「それじゃあ、作業を開始しよう。この家が完成した暁には『初めての家』と名付けよう。そして、あの土の塔は『初めての塔』。ゆくゆくはこの場所は『初めての村』となるだろう!」
「やあーだ!『初めての家』だなんて!カエル男さんのエッチ!」
美衣奈は照れて伏し目になり、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
(ン?また、俺、何か変なこと言いましたか………?)
しばし、考える俺。
「―――訂正する。この家を『始まりの家』と名付けよう!そして、あの土の塔は『始まりの塔』。ゆくゆくはこの場所は『始まりの村』となるだろう!」




