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やがて、ルビー・タブレットは光とともに消滅した。
俺は急いで自分のステイタスを確認してみた。
俺のレベルは「Lv:俺、TUEEEEEEE!!!!!!!」と記載されていた。
「えーと、『E』の数が1,2,3………。多分、俺のレベルは上がったみたいだな?」
「やっぱり、カエル男さんみたいな才能がある人しかタブレットは使えないのですよ」
しばし考えて、俺はハッと思いついた。
「この異世界に転移する時に、チートを使うか聞かれなかったか?」
「うーん…………。そういえば、暗闇の中で誰かと会話したような……」
「その時、美衣奈はチートを使わないって答えたんじゃないのか?」
「もちろんです」
「どうして!?」
「『チート』って『ズル』のことでしょ。ズルはいけないと思います」
「は…ははは!こりゃあ、おじさん、一本取られたなあ……」
(お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな)
ともかくレベルアップを果たした俺は、さっそく覚えた錬金術を使ってみようと思った。
ところが、それがどうしても上手くいかなかった。
「―――新しい魔法、使えないんですか?」
「ああ。新しい術式は頭の中に入ったんだが、どうやってそれを実行したらいいのかがわからない」
口に出して叫んでも、心の中で念じても、紙に適当な魔方陣ポイの描いてみても、術式は実行されなかった。
とうとう俺は頭にきて、思わず舌打ちした。
「チッ!使えなきゃどんな術式も宝の持ち腐れ……!?」
俺の目の前に何か白い縦長の直方体が現れ、ゆっくりと点滅している。
俺は驚いて美衣奈の顔を見た。
だが、彼女には直方体が見えていないようで、どうかしましたかという表情をしている。
「そうか!これはコマンド入力のカーソルだ。俺はたまたま偶然、『チッ!』と舌打ちしたため、『T』コマンドが発動し術式詠唱用画面を開いたのだ!」
またも俺に奇跡が起きたのだった。
俺は神に愛された人間なのだ。
「―――美衣奈。ちょっと畑のところまで先に戻ってくれないか?」
「はーい!」
ケーキを食べて上機嫌の美衣奈は、何も聞かずに俺の言うとおりに畑に向かって歩いて行った。
俺は新しく覚えた術式を口に出して唱えてみた。
「TELL 長沼美衣奈 とまれ!」
―――――何も起きなかった。
美衣奈はスタスタと森を歩いて去ってゆく。
「失敗か?美衣奈にメッセージを送ったつもりだったが。まだ、何か足りないのかな……」
その時だった。
すっかり油断していた俺の背後から、小型のスライムが飛び掛かってきた。
「うわあああ!」
スライムは俺の右腕にまとわりついた。
「気持ち悪い!」
俺は石の剣を取り出し、右腕をぶんぶんと振り回してスライムを払いのけた。
地面に落下したスライムに剣を幾度となく振るって細切れにしてやった。
「あれれれれ!?なんだ、これは!?」
目の前の空間に浮かぶカーソルの前に「/」の文字が現れた。
「そうか!コマンドを入れるときにはスラッシュが必要なんだ。スラッシュとは斜線の意味だが、元々は剣で滅多切りにするって意味だった!」
またも俺に奇跡が起きたのだった。
たまたま剣を振るった俺は、「/」を入れることに成功したのだ!
まっこと、俺は神に愛された人間なのだ。
俺はかなり遠ざかった美衣奈の後ろ姿に向かって術式を唱えた。
「まず『T』と言ってから、剣を振ってみる…」
コマンドラインに、「/」が入力された。
「TELL 長沼美衣奈 とまれ!」
美衣奈がビクッと立ち止まり、驚いて俺の方を振り返った。
彼女は何か大声で叫んでいるようだが、遠いので声は聞こえなかった。
俺は再び『T』と言ってから剣を振るい、「TELL 長沼美衣奈 左手を上げろ!」と心の中で念じてみた。
美衣奈はキョロキョロとあたりを見回し、首を傾げながらゆっくりと左手を上げた。
大成功だ。
俺の念 話は美衣奈に届いたのだ。
これでルビー・タブレットの色んな術式を使えるようになった。
俺は興奮して美衣奈に念 話を送った。
「TELL こっちへ来い!」
言ってしまってから俺はミスに気が付いた。
「長沼美衣奈」が抜けている。
これでは、不特定多数の人間すべてに念 話を送ったことになる。
「ま、いっか!」
美衣奈には念 話が届いたらしく、まっすぐ俺の所に駆け出して来た。
と、俺の目前に、一つの念 話が忽然と現れた。
『いやだ!』
どこかで誰かが俺の念 話を受け取り、拒絶の返信をしてきたのだった。




