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「ちょい、ちょい」
俺は手招きして、美衣奈を窓辺に呼んだ。
「長沼さん。ちょっと窓から外を見てみよか」
「え~~~~!怖いわ!」
「ガラスがあるから大丈夫だ。あいつら、絶対に窓は破ったりしないから」
「でも……………」
「どんなモンスターがいるか教えてやるから。今のうちに学習しといた方がいいぜ。この先、生き残りたければな」
「わかりました…………。お願いします…………」
美衣奈は不承不承、窓に近づき、外を覗き込んだ。
窓の外の闇の中では、有象無象のモンスターたちがうごめき、さながら百鬼夜行のようだった。
美衣奈は今にも泣きだしそうな顔で窓の外を見つめた。
俺は森の中をうろついているゾンビを指さした。
「あいつはおなじみのゾンビ。日光にあたると燃えちまうから一番のザコだ。だが、噛まれるとゾンビにされちまうことがあるから要注意だぞ。その向こうにいる緑色した小鬼がゴブリンだ。1匹1匹は弱っちいが、集団で襲ってきて遠くから弓矢で撃ってくる」
美衣奈の顔から血の気が引き、恐怖でひきつってきた。
木の幹を毛むくじゃらの8本の脚で登っている大蜘蛛が、不気味な声をあげた。
美衣奈はビクッと全身をこわばらせた。
「スパイダーは垂直になった壁でも平気で登ってくる。糸を吐いて獲物を動けなくし、体液を吸い取って殺すんだ。中には猛毒を持った蜘蛛もいる」
「あ、あそこ!?何だか青い岩が転がっていますよ!?」
「あいつは岩男だな。背後からそっと音もなく転がってきていきなり自爆するんだ。爆発したら大ダメージを受けるだけじゃなく、周囲の建物まで破壊する恐ろしいヤツさ」
美衣奈はあまりの恐怖で、目を塞ぐことさえできず、大きく目を見開いたままで硬直していた。
と、ベチャッと不快な音を立てて、紫色のネバネバしたジェル状の物体が窓にへばりついた。
「キャア!!」
「こいつは小型のスライムだな。人の顔にへばりついて窒息死させるんだ。大型のスライムに襲われたら、体内に取り込まれて生きたまま少しずつ溶かされていくそうだ」
「で、でも、こうして家の中にいたら、安全ですよね?」
「それがそうとも限らないんだな。吸血鬼は壁もすり抜けて家の中に入ってくるんだ」
「えっ!吸血鬼までいるの!?」
「ほら!ちょうど、窓の真ん前に立っている」
俺は窓の外を指さした。
ヴァンパイアと言ってもドラキュラ伯爵みたいな人型モンスターではない。
この世界のヴァンパイアは醜い大型の吸血コウモリの姿をしている。
美衣奈が窓に顔を近づけると、ヴァンパイアと目があった。
ヴァンパイアは凄まじい憤怒の表情を浮かべ、激しい威嚇の声を上げた。
「えっ!?えっ!?なんか、怒ってるみたいですけど!?」
「ヴァンパイアと出会った時は、けっして目を合わさないことだ。もし、目が合ったらメンチ切られたヤンキーみたいに激怒して突進してくる。相手が死ぬまで攻撃を止めないらしい」
「それを早く言って下さい!」
ヴァンパイアが美衣奈に向かって飛び掛かって来た。




