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「このままだと餓死しちまうぞ!さあ、リンゴをやるから早く食べるんだ!」
俺はリンゴを1個、美衣奈に手渡した。
「あ、ありがとう!カエル男さん!」
美衣奈はむさぼるようにリンゴを丸かじりした。
それでも美衣奈の満腹度ゲージは、まだ満タンには程遠い。
「リンゴだけじゃあ足りないだろう。ちょっと、待ってな」
さっき、生の豚肉を手に入れたばかりで俺は気が大きくなっていた。
俺は豚肉4切れを石窯の中に入れた。
すると、薪が自動的に燃え上がり、生の豚肉は焼き豚に変わっていった。
「生肉よりも焼き豚の方が満腹度が高いんだぜ」
「カエル男さんって何でも知ってるのね」
美衣奈は両手を組んで、上目遣いで甘えたような表情で俺を見上げた。
(チョロイ!)
やはり女は食い物で釣るに限る。
俺は美衣奈と焼き豚を分け合って食べてみた。
リンゴはリンゴの味、焼き豚は焼き豚の味がした。
当たり前と思われるかもしれないが、これ、結構重要である。
ゲームでは食料は単に満腹度のゲージを満たすだけのアイテムに過ぎないが、現実世界では味や見た目も重要である。
多種多様な食料を手に入れ食生活を豊かにしないと、例え餓死しなくても精神的に参ってしまうだろう。
おいしいものを食べてこその人生なのです。
「明日、明るくなったら一緒に畑に行こう。この世界では、色んな野菜や果物を簡単に短時間で栽培して増やすことができるんだ」
「―――はい………」
何か言いたげに美衣奈が口ごもった。
「なんだよ。言いたいことがあるなら言ってみろよ」
「いえ、カエル男さんを見ていると、何だかこのままずっとここで暮らしていくつもりみたいだけど………」
「そのつもりだが?」
「でも、しばらくしたら、自衛隊が救助に来てくれると思うの?」
「はあ~~~?お前、何を勘違いしているんだ。俺たちは遭難したわけじゃないんだぜ。異世界に転移したんだぞ。分かってるのか」
「私、ここが異世界っていうのがどうしても信じられないの。どうしてこんな森にいるのか、記憶が曖昧なの。確か、教室で授業を受けていたのに……」
「――その点は俺も疑問なんだ。異世界に転移するためにはトラックに跳ねられないといけないのだ」
「そう決まっているの?」
「ああ!決まっているのだ!」
俺は強気でハッタリをかました。
「カエル男さんって異世界のこと、とっても詳しいのね!」
実は「続 プロローグ」の回で告白した通り、俺は文字を読むのが大嫌いなので、殆ど漫画も小説も読んだことがない。
当然、異世界転移とか異世界転生とかの小説も全く読んだことがない。
俺の知識は所詮ネットで聞きかじった浅い知識に過ぎないのだ。
浅学非才で未熟な身ではございますが、精一杯努力して参りますので何卒ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
「でも私たち、学校の1階の教室にいたのに、どうやってトラックに跳ねられるの?目の前は運動場だったのよ」
「それは大いなる謎だが、いずれ解き明かされるかもしれないし、されないかもしれない。でも、俺たちにとって重要なのは、過去ではなく未来なんだ!すなわち、これからどう生きるかなんだよ!」
「そ、そうね!よく分からないけど、カエル男さんの言う通りだわ!」
美衣奈は俺が適当に言った言葉に感動し、キラキラと瞳を輝かせた。
おっ!これは、ひょっとしてイケるかも…………。
俺は、そっと優しく美衣奈の肩に腕を回した。
その時だった。
ドン!ドン!ドン!
拠点の入り口の扉を、外から誰かが叩いた。




