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俺は拠点から歩いて10分程のところにある川辺に出向いた。
川は青く澄み、いろんな種類の魚影の群れが見て取れた。
「大蜘蛛の糸が手に入ったら、釣り竿や網を作って魚が採れるのになあ……」
と、独り言を言いながら、俺は土の上に作業箱を置くと、棒と石で鍬を作った。
例え錬金術師と言えど、畑を耕す時には手刀ではなく鍬が必要なのだ。
汗水垂らして川辺の土地を鍬で耕すと、たちまち湿気を帯びた畑になった。
水源から近い場所でないと湿った畑にならず、作物が植えられない。
まだ、水を汲むための「鉄の手桶」を持っていないので、川か池の近くでないと畑を作れないのだ。
そして、俺は周辺の草原で見つけてきた種を畑に撒いていった。
カボチャ、スイカ、ジャガイモ、ニンジン、ダイコン、セロリ、トマト、イチゴ、ブドウ、レタス、ブルーベリー、ピーナッツ、ブロコリー、パイナップル、キウイ、米、タマネギ、トウモロコシ、ニンニク、コーヒー豆、サツマイモ………。
いろんな種類の種が労せずして手に入れることができた。
インベントリーに入れると名前が表示されるのでとても簡単だ。
この世界の農民共はきっと、ボンクラばっかりだろう。
うまいことたぶらかして、大農場主になるのも夢じゃないぞ。ゲロ!ゲロ!
俺は川沿いに土を耕していき、結構な面積の畑を作った。
持っていた種をすべて植えたら、すっかり外が薄暗くなっていた。
今夜こそ、安全な場所でゆっくりと過ごしたいので、俺はそそくさと拠点目指して帰って行った。
帰り道、コロコロと太った豚を4匹、発見した。
「しめた!リンゴだけじゃあ、すぐに食べ飽きちまうからな」
俺は何のためらいもなく、石の剣で豚どもを殺して回った。
俺が剣を振ると、豚は「ブヒーッ!」と断末魔の悲鳴を上げ、生の豚肉の塊にアイテム化した。
これだけあれば、畑の作物が収穫できるまで飢えなくて済む。
俺は豚肉を4個持って、意気揚々と拠点に帰って行った。
拠点の扉を開けると、石窯の前に座っていた美衣奈が立ち上がり、嬉しそうに俺を迎えてくれた。
「おかえりなさい!遅かったですね」
「ただいま!」
ん?
何か美衣奈の様子がおかしい。
フラフラと体が左右に揺れている
俺はいきなり美衣奈のか細い腕を握った。
「えっ!?」
驚く美衣奈の顔の前に、彼女の満腹度を表すゲージが現れた。
この世界では他人に触れるとそいつのステータスが表示されるのだ。
美衣奈の満腹度はもうすぐゼロに達しようとしていた。
「何も食べていなかったのか?」
美衣奈は恥ずかしそうにコクンとうなずいた。
完全な空腹状態になると、時間の経過とともにHPが削られてゆき、最後は死んでしまうのだ。
はっきり言って、自分のことだけで精一杯、美衣奈の食料のことなんか考えていなかった。
彼女に食料を分けてやる義理はないし、このまま彼女が餓死しても、どこか初期スポーン地点で満腹状態で復活するだけだ。
その方が食料が減らなくてお得だわ。
でも、これから夜になるし、美衣奈の初期スポーン地点がどこなのかわからない。
もう二度と美衣奈と会えなくなる可能性が高い。
ふーむ………。
美衣奈がいなくなると、俺一人でサバイバル生活を送ることになる。
将来、美衣奈を働かせて俺は遊んで暮らしたい。
俺は再びゲス式打算計算機を働かせた。
仕方があるまい。
俺は美衣奈に食料を恵んでやることにした。




