6 ハプニングは起こすもの。
『二週間前まで実験体でした』
ソウの発言に愛希とリョウは息をのんだ。
瞬は知っていたのか、いつもの顔のままソウを見つめている。
リョウは何も言わず、ソウの顔を見た。
白い髪の毛のせいか、青白く見える顔には一筋の汗が流れ、青みどりの目でリョウたちを見ている。
「何の研究だったの?」
リョウの質問にソウは瞬の方を見た。
瞬がうなづくと、ソウが薄い桃色の唇を開いた。
「これは推測ですが、エドサイトから発生したウイルスの研究だと思います。隣のゲージにいた実験体がテレビの人間と同じような症状になっていました」
はっきりしたソウの声が静かな部屋に響く。
愛希は顔を真っ青にし、リョウは困惑したような表情になる。
「どうしてその実験体がここにいるの?逃げ出したの?」
「それは奈緒さんが逃がしてれ・・・・・・・」
急にソウは言葉が詰まり、顔を真っ青にしながら瞬を見ていた。
「奈緒って誰?」
ソウはリョウの質問には答えず、瞬と目を合せている。
瞬はソウから目をそらすとリョウの方を向き、リョウの目をじっと見詰めた。
リョウは首をかしげる。
すると、瞬はふっとやさしく笑い、ソウに「話していい」と言った。
ソウは愛希の方を見た。
「奈緒さんは瞬さんのお兄さんです」
愛希が目を見開き、口をパクパクと動かした。
「瞬の家族は全員死んだって聞いたよ」
リョウは前のめりになって、顔を出す。
リョウの言葉に愛希も首を縦にコクコクと振った。
すると急に瞬が立ち上がった。
「あいつのことはもう家族と思ってない、俺はあいつを殺したいほどに憎んでる」
瞬は自分の手を見ながらそう言い、瞬の目が海の底のように冷たく光った。
沈黙が続く。
リョウはブスーとした顔をした。
「ふーん、ほー、へー、今日は疲れたねー、頭がぐちゃぐちゃしてきたよ、もうこの辺にして明日にしない?うん、そうしよう!私お風呂入ってくるから!」
リョウが頭をかきながらそう言うと、ソウがジトーっとした目で見てくる。
「あなたがこの会議を開いて、あなたが質問したんじゃないか、リョウ!」
ソウが可愛く頬を膨らませて、怒った。
「ごめんごめん、でも早く寝たくてさ、愛希、シャワー借りるね~」
リョウは笑いながら早足でシャワー室に向かった。
リョウがいなくなった部屋で、三人は顔を合わせて、ため息をついた。
瞬が呆れた顔をする。
「本当にあいつは風みたいだな」
瞬がそういうと、ソウと愛希も眉を曲げて笑った。
リョウは本当に混乱していた。瞬達は気づいていなかったかもしれないが。本当に頭がこんがらがっていた。
会議の内容はこうだ。ソウが今回の騒動を起こしたウィルスの実験体で。瞬の兄が何かしら、関わっているということ。
そして、リョウの家族がそのウイルスに感染したこと…。別に怒りは起こらなかった。ただ、困惑していた。
リョウは服を雑に脱ぎ捨てると、風呂場の扉を開けた。
湯気が体を覆い、足を前に出した。
大きく広がる風呂場に、息を吸い込む。風呂場のタイルは桃色で、上から下へ色が薄くなっている。
湯船にはマーライオンのように、竜の口から水が出てる。
一つ一つが大きく、細かいため、掃除をするお手伝いさんが気の毒だ。
リョウはシャワーを体全身に浴びたあと、キュポンッという音を出して、シャンプーを手に取った。
頭にとろりとシャンプーをつけ、泡立ててガシガシと洗い出す。
頭にのっていた泡が顔の方まで落ち、リョウは目をつむった。
暗い視界の中でガチャリという音がして、リョウの方に歩いてきた。
「誰?」
リョウはおどおどとしながら、扉の方を見る。
するとクスクスと誰かが笑った。
「君に招待状を持ってきた。来てくれるとうれしいな」
低い男の声がして、リョウはとっさにシャンプーのボトルを投げつけた。
そしてすぐに水で泡を落として、声がした方を見る。しかし、そこには誰もいなかった。
リョウは気のせいかと思いながら鏡の方を見た。
息がとまる。
鏡には、手紙がテープで張ってあった。
それは誰かが風呂場にいたということを表していた。
リョウは急いで、風呂から出ると、瞬たちがいる、テレビの部屋に走る。
引き戸を思いっきり強く開くと、三人がリョウを見た。
見た瞬間、ソウは顔を真っ赤にし、瞬は哀れんだ表情をした。
愛希はというと「リョウちゃん!服着て!」とあせった顔で叫んでいた。
リョウはその言葉に自分の体を見て、顔を真っ赤にしながら風呂場に走って戻った。
走りながら、後ろの方で瞬の声が聞こえた。
「あいつの体はいつになったら育つんだ?」
リョウは事故に見せかけて瞬を殺そうと、静かに決意した。